シリアに展開するロシア軍が増強中 その実態と狙いは
続々と配備されるロシア空軍機
先日の小欄「内戦続くシリアにロシアが軍事介入を開始?」で紹介したように、ロシアは8月半ば頃からシリアにロシア軍を展開させ始めたと見られる。
その後もロシア軍はシリアへの展開を強化し続けているようだ。
最も顕著なのは、アサド一族の出身地であり、現在も重要な支持基盤である北西部ラタキア県のバーシィル・アサド国際空港である。
9月以降、ロシアは同空港の拡張工事を行うとともに、強力な航空戦力を配備しつつある。
先週末、同空港にロシアがSu-30SM戦闘爆撃機4機(1個小隊)を配備したと伝えられたのを皮切りに、今週に入ってからSu-25攻撃機12機(1個飛行隊)の配備が衛星写真で確認された。
Su-30SMは現在ロシア空軍や海軍航空隊が導入を進めている新鋭機で、高い対空戦闘力と対地攻撃能力を誇る。一方、Su-25は低速ながら頑丈なジェット攻撃機で、地上部隊と密接に協力しながら航空支援を提供することを任務としており、昨年7月には「イスラム国(IS)」の侵攻を受けたイラクにも緊急供与された。
22日には、やや不鮮明ながらこれを地上から撮影した映像もネット上に出回るようになり、その塗装等からロシア空軍機がアサド空港に展開していることはさらに確実となっている。
一方、動画サイトYoutubeでは、シリアのホムス上空で撮影されたロシア空軍機と思しき画像がアップロードされ始めた。
内陸部のホムスで撮影されたもので、前述のSu-30SMと思しき機体や、それよりも旧式のSu-24M戦闘爆撃機がIl-78M空中給油機と見られる機体から給油を受ける様子が写っている。映像には、「アッラーは偉大なり!アッラーは偉大なり!ロシアの飛行機だ。北に向かって飛んでいる!」アラビア語で叫ぶ声が一緒に収録されている。
その後に公開された衛星写真では、12機のSu-24Mが前述のSu-30SMやSu-25とともにアサド空港に配備されたことが確認された。
有力な航空戦力
合計すると、Su-30SM戦闘爆撃機4機、Su-24M戦闘爆撃機12機、Su-25攻撃機12機の合計28機である。
合計で1個混成航空連隊+1個戦闘機飛行隊だが、ロシア空軍の基準では1つの飛行場に概ね1個航空連隊を配備することになっているので、ほぼ上限一杯の兵力を配備していることになる。
内戦前にシリア空軍が保有していた兵力は、MiG-29戦闘機約60機、MiG-21戦闘機約65機、MiG-23戦闘爆撃機約60機、MiG-25戦闘機11機、Su-24MK戦闘爆撃機約20機、Su-22戦闘爆撃機約40機などとされるが、その多くは旧式化していたり、稼働状態にはなかったり、反政府勢力に鹵獲されていると見られ、最新鋭機を含む28機のロシア空軍機は極めて有力な航空戦力と言える。
加えてアサド空港にはMi-24攻撃ヘリやMi-8輸送ヘリなどが合計20機配備されていると言われるほか、ヘリパッド2カ所も新たに増設された。ロシアの『ヴェードモスチ』紙7月31日付によると、シリア空軍の保有するヘリコプターのうち9割は稼働不能に陥っているとされるため、やはりシリアにとっては有力な航空支援である。
アサド空港には、これらの航空部隊を防衛する為、最新鋭のパンツィリ-S1防空システムを配備しているともいう。
海軍歩兵や陸軍も展開
ロシアはアサド空港に装甲車両の駐車スペースを整備していることも以前から衛星写真で看取されていたが、ここにはT-90戦車6両や装甲兵員輸送車多数が駐車されていることも確認されている。
これまでシリアにはロシア海軍の海軍歩兵部隊(海兵隊)が派遣されたことは確認されているが、海軍歩兵部隊は戦車を保有していない。つまり、アサド空港には海軍歩兵部隊のみならず陸軍部隊が展開している可能性も濃厚ということになる(陸軍とは独立の空挺部隊にも戦車部隊を創設すると言われていることから、空挺部隊である可能性も排除できない)。
ロシア空軍の空爆が始まる?
問題は、これだけの航空戦力がこれから何をするかである。
米ニュースサービス『デイリー・ビースト』9月21日付は、米政府関係者3名の話として、ロシアは間もなくシリア国内での空爆を開始するだろうとの観測を紹介している。ロシア・シリア両政府は、シリアに展開しているロシア軍はあくまで軍事顧問団であるという立場を取っているが、強力な航空部隊を展開させている以上、ロシアが直接介入を目論んでいる可能性は排除できない。
ロシアはこれ以前からシリア国内で無人偵察機を飛行させていたが、これもアサド政権への情報提供のみならず、ロシア空軍の攻撃目標選定も意図したものと考えられる。
ただし、ロシア政府がシリアへの介入を「イスラム国(IS)」対策と位置づけているのに対し、前述の『デイリー・ビースト』は、実際の攻撃目標がヌスラ戦線などIS以外の反体制派であろうと見ている。実際問題として、ラタキアに隣接するイドリブ県ではヌスラ戦線を中心とするファタハ軍であり、実際の標的はこちらであろう。
もちろん、これだけの規模のロシア軍がシリアに展開するとなれば、すでにシリアに軍事介入を行っているNATOとの直接衝突の懸念が高まる。前回の拙稿で取り上げたように、このような懸念を惹起することでアサド政権軍に対するNATOの攻撃を回避するのがロシア側の狙いと考えられよう。
9月16日にケリー米国務長官が明らかにしたところによると、その前日に行われたロシアのラヴロフ外相との電話会談で、ロシア側は昨年から途絶えている米露国防当局の協議を提案したことが明らかになっている。同18日にはカーター米国防長官とショイグ露国防相との電話会談で偶発的な衝突回避のための対話を進めることが合意されており、ラタキアに軍事プレゼンスを展開することでアサド政権への攻撃回避を図るというロシアの戦略は、現在のところ一定の成功を収めているように見える。
したがって、アサド空港に展開するロシア空軍部隊が戦闘に直接介入するのか同地から睨みを効かせるに留まるのかは今のところ流動的であると考えられる。折しも今月末の第70回国連総会にプーチン大統領らが出席し、アサド政権を含む対IS大連合構想を訴えると見られ、その成否も大いに注目されよう。