インフルエンザワクチン接種 世界では筋肉注射が勧められるが日本はいまだ皮下注射
海外と日本ではインフルエンザワクチンの注射法が異なる
南半球の感染動向を見る限り、昨年同様、今年もインフルエンザが流行しない可能性が高そうです。とはいえ、流行後にインフルエンザワクチンを接種しても遅いため、万が一にそなえて現在ワクチン接種が進められているところです。
さて、新型コロナワクチンは「筋肉注射」で接種していますが、インフルエンザワクチンはそれよりも浅い「皮下注射」で接種しています。筋肉注射は針を立てて刺しますが、皮下注射は針を少し寝かせて刺します(図)。
インフルエンザワクチンの添付文書(説明文書)を読むと、こう書かれてあります。
実は、海外ではインフルエンザワクチンのような不活化ワクチンは筋肉注射で行われています。アメリカの予防接種の実施に関する諮問委員会(ACIP)においても、筋肉注射が推奨されています(1)。日本では、インフルエンザワクチンに関してはずっと皮下注射を続けています。これは、昭和23年に公布された予防接種法により、皮下注射で実施することが決められていることが影響しています。また、日本では1970年代に解熱薬や抗菌薬が筋肉注射され、大腿四頭筋拘縮症が発生したと認識されています。ワクチンとは無関係な話であるにもかかわらず、ヒトパピローマウイルス(HPV)ワクチンや髄膜炎菌ワクチンなどを除いて、現在も不活化ワクチンは皮下注射が主流になっています。
ゆえに、現時点では諸手を挙げてインフルエンザワクチンの筋肉注射を推奨できない事情があるわけですが、さすがにそろそろ諸外国と足並みをそろえる必要があると思っています。
副反応は筋肉注射のほうが軽度
病院職員と看護学生へのインフルエンザワクチン接種を筋肉注射か皮下注射の希望選択としている施設での研究結果が、今年報告されています(2)。申告を要する副反応は、筋肉注射8.2%、皮下注射11.3%と、筋肉注射のほうが少なかったという結果でした。また、看護学生320人(筋肉注射243人、皮下注射77人)で調査したところ、接種時・接種後の痛みや接種後の腫れは筋肉注射のほうが少ないという結果でした(表1)。
20~40歳の日本人に対する別の研究においても、筋肉注射のほうが皮下注射よりも副反応が少なかったと報告されています(表2)(3)。
私も毎年職員にインフルエンザワクチンを接種しているのですが、「今年は去年より痛かったです!」と毎年誰かに言われます。そのとき刺した場所や深さによって痛みは変わるので、実は「去年より痛い」というのは、ただの迷信です。「いつかは筋肉注射にしたいなぁ」と思っています。
筋肉注射でも免疫応答は損なわれない
65歳以上の日本人を対象に、インフルエンザワクチンを「通常量皮下注射した群」、「高用量(含まれる成分が多いもの)皮下注射した群」、「高用量筋肉注射した群」の3グループに無作為に割り付けて、効果を調べた研究があります(4)。1ヶ月後の抗体価を測定したところ、通常用量群よりも高用量群でより抗体価が上昇したのは当然ですが、皮下注射と筋肉注射で差がないことが分かりました。
また、皮下注射よりも筋肉注射のほうが明確に抗体価が高かったとする報告もあります(5)。この研究では、女性のほうが筋肉注射による抗体価上昇が観察されやすいという結果でした。
まとめ
医学的に、インフルエンザワクチンは皮下注射より筋肉注射するほうがよいです。
しかし現時点では、日本で接種する場合、皮下注射する必要があります。「筋肉注射のほうがよいと聞いた」と言うと、接種するクリニック等に迷惑がかかるため、ご注意ください。
また、皮下注射で規定されているワクチンを筋肉注射する行為は、推奨される用法外であるため医薬品副作用被害救済制度(医薬品の副作用により入院・死亡した際、独立行政法人医薬品医療機器総合機構が救済給付を行う制度)が適用される際、障壁となる可能性があります。
厚労省などが主導して、ある年度から「せーの」で筋肉注射に変更するような施策がベストだと思いますが、果たしてその日は来るでしょうか。
(参考)
(1) Grohskopf LA, et al. MMWR Recomm Rep. 2021 Aug 27;70(5):1-28.
(2) 馬嶋健一郎, 他. 日本環境感染学会誌. 2021;36(1):44-52.
(3) Ikeno D, et al. Microbiol Immunol. 2010 Feb;54(2):81-8.
(4) Sanchez L, et al. Hum Vaccin Immunother. 2020 Apr 2;16(4):858-866.
(5) Cook IF, et al. Vaccine. 2006 Mar 20;24(13):2395-402.