「薬が手に入らない」 コロナ禍で処方せんの問い合わせが常態化 背景にある問題
コロナ禍、さまざまな薬剤が手に入らないという事態が続いています。処方している医師、処方せんをもらった薬剤師、そして薬が必要な患者さんの三者ともに苦しい思いをします。医薬品の流通が逼迫している原因について解説したいと思います。
処方せんの「疑義照会」
薬剤師が、医師が発行した処方せんの内容について、発行した医師に問い合わせることを「疑義照会」といいます。
たとえば湿布を処方した場合、どこに貼るのか記載していなければ、医師のもとに「貼付部位が書かれていません」と疑義照会が届きます。また、定められた用法用量より多い錠数を処方した場合も、疑義照会の対象となります(図1)。
これは、薬剤師法第24条によって、「薬剤師は、処方せん中に疑わしい点があるときは、その処方せんを交付した医師、歯科医師又は獣医師に問い合わせて、その疑わしい点を確かめた後でなければ、これによって調剤してはならない」と定められているためです。
少し前のデータですが、「平成27年度全国薬局疑義照会調査報告書」によれば、処方せんの発行枚数に対する疑義照会の割合は2.75%とされています(1)。平均的なクリニックだと、1日あたり1回の疑義照会があるということになります。
「薬がありません」が急増
さて、疑義照会の件数がとにかく増えたなと感じるのがコロナ禍です。先ほどの2.75%の頃より、遥かに高いと実感しています。
最近、さまざまな薬剤の流通に障害が出ており、「薬がありません」という疑義照会が増えたのです。咳止めや抗菌薬など、急性感染症に用いる薬剤はかなり不足しています。
また、呼吸器内科には「慢性咳嗽(まんせいがいそう)」という病気があります。中には、咳止めを常用している患者さんがいますが、それすら処方できない現状があります。
調剤薬局から疑義照会が来るたび、「ああ、またか」と悲嘆にくれています。
欠品の原因は根深いところにある
よく、「新型コロナの患者さんが急増して欠品が相次ぎ」という感じで報道されていますが、少し誤解があります。もちろん、感染者が増えることでそういう事態は起こりえるのですが、背景には医薬品にかかわる問題があります。
1つ目は、ジェネリック医薬品(後発医薬品)に端を発した問題です。日本では、短期間でジェネリック医薬品のシェアが拡大しましたが、ニーズのほうが製造能力より大きくなってしまいました。
ジェネリック医薬品の国内最大手であった日医工が、2021年に行政処分を受けたことは、医薬品業界に大きな衝撃を与えました。国が認めた承認書と異なる方法で製造していたことはもちろん不適切ですが、薬価が低く抑えられ、作っても作っても利益が出ないという構造上の問題があったのも事実です。
複数の企業に行政処分がくだり、連鎖的に供給が滞ってしまいました。厚労省がジェネリック医薬品を推進する裏で、当の薬剤が不足するという本末転倒な事態に陥ってしまったのです(図2)。
医薬品にかかわる問題の2つ目は、日本の医療機関における処方閾値の低さです。風邪を引いたら「咳止めを出しておきましょうか」、腰が痛いときに「湿布を出しておきましょうか」、となりがちなのです(図3)。
38度以上熱があるような場合、解熱鎮痛薬は有効です。しかし、頻繁に使用される咳止めであっても大規模な臨床試験データがないものが多く、中には動物実験でしか効果が示されていないような医薬品も存在します。
個人的には「治療しなくてもしばらくすれば治る」、いわゆる「日にち薬」について患者さんにお伝えしていますが、薬剤を処方して満足してもらうのではなく、医師から「十分な説明を処方すること」も重要かもしれません。
2024年度「トリプル改定」に危機感
2024年度に、診療報酬、介護報酬、障害福祉サービス報酬の同時改定が予定されています。通称「トリプル改定」と呼ばれるもので、6年に一度起こる現象です。
懸念されているのは、ジェネリック医薬品の現在の「すべての都道府県で80%以上」という数量目標が、金額目標へ改定されることです。もしそうなると、製薬会社は高採算品ばかりを作るようになり、たくさん作って採算を維持していた薬剤は消えゆく運命にあるかもしれません。
主要メーカーで「この薬品は責任を持って作る」が実現すればよいですが、現状さまざまな企業がそれぞれ思惑を持って医薬品業界に参入しているため、統制をとるのはなかなか難しいでしょう。
(参考)
(1) 公益社団法人日本薬剤師会委託事業 平成27年度全国薬局疑義照会調査報告書(URL:https://www.nichiyaku.or.jp/assets/uploads/activities/gigihokoku.pdf)