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佐々木勇気七段(25)竜王戦本戦進出決定! 2組準決勝指し直し局で松尾歩八段(40歳)に大逆転勝利

松本博文将棋ライター
(記事中の画像作成:筆者)

 4月30日。東京・将棋会館において竜王ランキング戦2組準決勝千日手指し直し局▲松尾歩八段(40歳)-△佐々木勇気七段(25歳)戦がおこなわれました。

 13時に始まった対局は16時41分に終局。結果は116手で佐々木七段の勝ちとなりました。

 勝った佐々木七段は2組決勝に進出し、2位以内が確定。1組昇級と本戦トーナメント進出が決まりました。決勝では丸山忠久九段-糸谷哲郎八段戦の勝者と対戦します。

 敗れた松尾八段は昇級者決定戦に回ります。対局相手はまだわかりませんが、そこで1勝すれば3位となって、1組昇級が決まります。

佐々木七段、大逆転で大一番を制す

 新型コロナウイルス感染拡大の状況の中、異例の指し直しとなった本局。

 千日手局は持ち時間5時間で、終局時の残り時間は松尾八段30分、佐々木七段11分でした。

 指し直し局は規定により、残り時間が少ない佐々木七段が残り1時間0分となるように調整されます。両者の残り時間にそれぞれ49分を追加して、指し直し局の持ち時間は松尾1時間19分、佐々木1時間0分となりました。

 将棋会館でおこなわれる対局開始時間は、通例では10時です。残り時間が比較的少ない本指し直し局は、13時から始まりました。

 千日手局と先後が入れ替わって、指し直し局は松尾八段先手。戦型は千日手局と同じく、角換わり腰掛銀となりました。

 両者の陣形がほぼ同じ形から、両者ともに歩をぶつけて動いていきます。戦いが始まると、この戦型らしく一気呵成に局面は動きます。

 先に相手玉に迫る形を作ったのは、松尾八段でした。セオリー通り、上部から着実に圧をかけていきます。

 一方の佐々木七段も松尾玉に迫り、一手違いの寄せ合いとなります。

 72手目が指された段階で、残り時間は松尾5分、佐々木1分。両者ともに残り時間が切迫する中、きわどい最終盤となりました。

 そこで佐々木玉には、詰みがあったようです。73手目、▲4三歩成ではなく、▲4三桂成から王手を始めるのが詰将棋のような筋。5五にいた桂が消え、そのスペースに金を打てます。ちょっと盲点になりそうな筋でした。

 松尾八段は▲4三歩成の王手をした後、自玉にも詰めろがかかっているので、いったん受けに回りました。

 危ういところを助かった佐々木七段。しかしまだ勝ちにはなっていません。残り1分の秒読みの中で、下段のタダで取られるところに桂を打つなど受けの妙技を見せ、ギリギリのところで耐え続けます。

 タダで取れる桂を取っていては速度が逆転する松尾八段。最後の持ち時間を使って、残りは1分。そして逆に銀を捨てて、佐々木玉を部分的には受けなしに追い込みました。

 寄せのターンが移って、いよいよクライマックス。勝敗の行方は、松尾玉が詰むか詰まざるやの一点にしぼられました。

 88手目。両者1分将棋の中、佐々木七段は金を捨てて松尾玉に迫ります。進んでさらには馬を捨てる妙手順がありました。どちらが勝ちなのか不明の白熱の終盤戦です。

 佐々木七段の龍の王手に、松尾八段は角金銀、どの駒を打って合駒をするか。両者ともに深く読む余裕がない、まさに「指運」(ゆびうん)という局面でした。

 99手目。松尾八段は金を打って受けました。そこで松尾玉には、その後二十数手と長手数ながら、詰みが生じています。代わりに角を合駒とすれば詰まないようですが、それでどちらが勝ちなのかはわかりません。

 佐々木七段は的確に松尾玉に王手を続けています。そして王手をかけ続けながら、自玉に迫る松尾八段の馬(成り角)を消すことに成功します。ただしそれでも自玉の詰めろが解消されたわけではなく、ゆるめば再逆転を許すことになります。

 佐々木七段は手にした角を捨てて王手をかけました。これが本局の悼尾を飾る、華麗なフィニッシュでした。

 116手目。佐々木七段は中段に飛車を浮いて、松尾玉を王手をかけます。松尾八段はそこで投了しました。

 佐々木七段の金捨ての王手から始まって、松尾八段が投了した後も進めれば、35手の王手の攻防が続いて松尾玉は詰んだ計算となります。

 佐々木七段は大逆転で大一番を制しました。その才能と実力は高く評価されながら、これまでタイトル戦登場を果たせなかった佐々木七段。今期竜王戦は、大きなチャンスとなるかもしれません。

将棋ライター

フリーの将棋ライター、中継記者。1973年生まれ。東大将棋部出身で、在学中より将棋書籍の編集に従事。東大法学部卒業後、名人戦棋譜速報の立ち上げに尽力。「青葉」の名で中継記者を務め、日本将棋連盟、日本女子プロ将棋協会(LPSA)などのネット中継に携わる。著書に『ルポ 電王戦』(NHK出版新書)、『ドキュメント コンピュータ将棋』(角川新書)、『棋士とAIはどう戦ってきたか』(洋泉社新書)、『天才 藤井聡太』(文藝春秋)、『藤井聡太 天才はいかに生まれたか』(NHK出版新書)、『藤井聡太はAIに勝てるか?』(光文社新書)、『棋承転結』(朝日新聞出版)など。

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