JAL、中国東方航空とアライアンスの垣根を越えた共同事業開始で運賃は安くなる?
JAL(日本航空)は、8月2日に中国・上海で中国東方航空(本社:上海)と共同事業実施に向けた覚書を締結した。JALからは植木義晴会長と大島秀樹執行役員、中国東方航空からは馬須倫取締役社長らが出席した。
2019年度中の開始を目指し、両社が運航する日本~中国路線及びJALが運航する日本国内線、中国東方航空が運航する中国国内線の一部が対象となる予定で、共同事業開始後は、日本国内50都市、中国国内80都市以上のネットワークとなる。
共同事業開始には独占禁止法の適用除外が条件
日本の当局(国土交通省)に対し、独占禁止法の適用除外(ATI)の申請を早ければ秋にも行い、来年4月のスタートを目指す考えだ。中国国内には独占禁止法の条項はなく、日本の認可を受け次第、開始することが可能となる。ただ、関係者によると来年4月の開始は難しいという声もある。
JALでは、既に北米路線でアメリカン航空、ヨーロッパ路線でブリティッシュ・エアウェイズ(イギリス)、フィンエアー(フィンランド)、イベリア航空(スペイン)の3社と共同事業を行っており、これまでの共同事業では、全て同じアライアンスである「ワンワールド」加盟航空会社となっている。
「ワンワールド」加盟航空会社以外との共同事業に積極的なJAL
そのような状況の中、最近では「ワンワールド」以外との提携に積極的なJAL。今年3月にコードシェア便提携を開始したハワイアン航空(アライアンス未加盟)とは、日本~ハワイ線における独占禁止法の適用除外(ATI)について日米の各当局に今年6月15日に申請し、認可を受け次第、共同事業を開始する予定となっている。更に昨年11月には「スカイチーム」に加盟するアエロフロート・ロシア航空と、今年度中にコードシェア便を開始し、将来的には共同事業の検討をしていきたいとしている中、既に2002年からコードシェア便提携を行っている中国東方航空との共同事業に今回踏み切った。
ANAの日本~中国路線における便数の差が背景に
今回、異なるアライアンス(航空連合)でありながら、共同事業に踏み切った背景としてANA(全日本空輸)との日本~中国路線の便数の差が考えられる。
2010年1月のJAL経営破綻の直前の2009年12月に、ANAと共に就航していた杭州、青島、厦門の3都市から完全撤退したことで中国線の就航都市数は大きく減少し、ANAは加えて武漢や成都などといった中国内陸部へ成田からの直行便を就航させたほか、上海、北京などへの便を増便させたこともあり、便数にも大きな開きができた。
経営破綻前の両社は、ほぼ近い便数だったのが、現在の日本~中国線の自社運航便を両社の国際線時刻表から見ると、ANAは10都市へ週175便(往復)に対してJALは6都市へ週98便(往復)に留まる。1日あたりだとANAが25便、JALが14便となっている。ANAの日系単独路線が成田発着で7路線、関西発着で4路線の合計11路線であるのに対して、JALの単独路線は中部~天津の1路線のみとなっている。
■ANA、日本~中国路線(自社グループでの運航便のみ)
・羽田発着(1日あたり3都市6便)
北京(2便)、上海・虹橋(1便)、上海・浦東(2便)、広州(1便)
・成田発着(1日あたり10都市12便)
北京(1便)、上海・浦東(3便)、広州(1便)、瀋陽(1便)、大連(1便)、青島(1便)、杭州(1便)、武漢(1便)、成都(1便)、厦門(1便)
・関西発着(1日あたり5都市6便)
北京(1便)、上海・浦東(2便)、大連(1便)、青島(1便)、杭州(1便)
・中部発着(1日あたり1都市1便)
上海・浦東(1便)
■JAL、日本~中国路線(自社運航便のみ)
・羽田発着(1日あたり3都市5便)
北京(2便)、上海・虹橋(1便)、上海・浦東(1便)、広州(1便)
・成田発着(1日あたり3都市5便)
北京(1便)、上海・浦東(3便)、大連(1便)
・関西発着(1日あたり1都市2便)
上海・浦東(2便)
・中部発着(1日あたり2都市2便)
上海・浦東(1便)、天津(1便)
ANAの上級会員は既に中国国内線でもラウンジが使える
更にANAは、加盟する「スターアライアンス」に中国の3大航空会社の1つである中国国際航空、そして深セン航空の2社が加盟しており、加えて上海を拠点に急成長の吉祥航空(羽田にも深夜時間帯に乗り入れ)もスターアライアンス・コネクティングパートナーとして、今年3月25日よりANAのマイレージ組織「ANAマイレージクラブ」へのマイル積算を開始した。ANAマイレージクラブ会員であれば、中国路線及び中国国内線においては、ANA、中国国際航空、深セン航空、吉祥航空の4社でマイルが貯められる。
特に現状において大きな差が出ているのが上級会員。中国国内線においても、ANAの上級会員(ダイヤモンド、プラチナ、スーパーフライヤーズカード会員)は、中国国際航空と深セン航空は無条件で、吉祥航空はANAを含むスターアライアンス加盟航空会社便との乗り継ぎ時にラウンジも利用できるが、JALにおいては「ワンワールド」に中国の航空会社が加盟しておらず、コードシェア便をJAL便名で購入した航空券に限ってJALのマイレージ組織「JALマイレージバンク」の上級会員(サファイア、エメラルド、JGCプレミア)のラウンジ利用が認められている。共同事業開始後はラウンジの相互利用をするべく、今後、両者間で準備を進める。
ただ、マイル提携については、中国東方航空の便名の航空券でもJALマイレージバンクへの積算は既に可能となっている。
今回の提携でJAL便の運賃が下がる可能性は?
今回の共同事業は、JALにとって自社でネットワークを拡げるよりも、提携航空会社のネットワークを活用して路線を拡大していくことを意味する。JALは現在、日本~中国線は週98便となっているが、中国東方航空運航の日本~中国線のコードシェア便は週212便(筆者調べ)となっており、合計すると週310便となる。ANAの週175便を上回ることになる(ただし、ANAは中国国際航空運航のコードシェア便が週157便ある)。
JALの植木義晴会長は「基本には自社便(のネットワーク拡大)だと思っている。だが今は目一杯、便を張っており、急激に新たな路線を張ることは難しい。無理をする訳にはいかない。その時に提携関係を使うことは当然あり得る」と話す。
現在のようなコードシェア便提携だけの枠組みの場合には、割引率が高い最安値の航空券は両社ともに自社運航便のみの販売となる。だが、共同事業が開始されると原則、JAL運航便・中国東方航空運航便共に、最安値運賃が両社どちらのホームページから予約しても同料金となり、両社の運航便を組み合わせることも可能になるなど、スケジュールが組みやすくなる。
また、大都市だけでなく、国内地方都市(新千歳、小松、新潟、静岡、岡山、広島、松山、長崎、鹿児島、那覇など)から運航する中国東方航空の便もJAL便名でお得に買えるようになることも、今回の共同事業によるメリットと言える。JALが就航してない中国東方航空単独の日本~中国路線においても、共同事業開始以降の運賃は両社で考えることになるという。植木会長は「今までなら地方のお客様が上海へ行く際には、東京や大阪経由で上海に行って欲しかったけど、今度は(共同事業によって)同じ財布になることから、中国東方航空の直行便に乗っていただいても収益になる。お客様にとっても便利になる。まさしく利便性の向上である」と話す。
両社間の運賃についてJALの大島秀樹執行役員は「JALと中国東方航空は共同事業でも、同一路線でも運航会社便によって違う運賃になる」との見通しを明らかにした。現状では中国東方航空の方が安いが、共同事業後もその流れは変わらない可能性が高く、JAL便の大きな運賃の引き下げはなさそうだ。
中国人のJAL便利用者が増えることによる懸念
今後、JALホームページで中国東方航空運航便もお得に航空券が買えることになれば、JAL便で購入した航空券がJAL運航便ではなく、中国東方航空運航便になるケースが増えてくるだろう。シート、機内エンターテイメント、機内食などの機内サービスは正直、JALの方が圧倒的にサービスレベルは高い。中国東方航空は一部の長距離用機材を除いて基本的にシートテレビが付いていない機材で運航する便の方が多く、運航会社による差が大きく出てしまうという懸念がある。
また中国人の観光客や出張者が、中国東方航空の航空券でJAL便を利用する機会も増えると、85%という日本~中国路線の高い搭乗率(2018年度第1四半期)が更に高くなり、航空券が取りにくくなる可能性も出てくる。
今回の共同事業によって、JAL側では日本~中国線における便の選択肢が増える。また中国東方航空側は、日本に自社便で入国した後、国内周遊でJAL国内線を自社便扱いで利用できる点など、両社にとって間違いなくメリットの大きい提携になりそうだ。