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まだまだ伸びしろのある日本の「マイナーリーグ」:2022年世界プロ野球観客動員データから

阿佐智ベースボールジャーナリスト
ヤクルト戸田球場

 先日、再来年シーズンから使用する予定になっている阪神タイガースの新ファーム本拠地のネーミングライツについての発表があった。親会社の電鉄の分岐駅、大物(だいもつ)にほど近い小田南公園に建設される新球場の名は、「日鉄鋼板SGLスタジアム尼崎」となるらしい。まだ球場そのものができていない時点でのネーミングライツ売却は人気球団だからこそなせる業だろう。

 新球場の最寄り駅は、大阪市内のターミナル駅、梅田と一軍本拠地の甲子園の中間に位置する。ここから分岐する支線に乗れば、準フライチャイズ的な存在の京セラドーム大阪へも行ける。観客席の数3600は明らかに集客を意識してのことだろう。

 しかし、不思議なことにこの日本一の人気球団は、これまで二軍を収益の装置として利用しようとはしていなかった。つまり、二軍戦においては、原則として試合興行を行ってこなかった。

 前回(北米野球の底力、独立リーグでも1試合2000人台の観客動員:2022年世界プロ野球観客動員データから)の最後で、世界のプロ野球球団の1試合平均観客動員数において、ロッテ(181位)と阪神(182位)の二軍がアメリカのマイナー球団に混じって200位以内にランクインしていると指摘した。しかし、これにはからくりがあって、この両球団二軍の昨シーズンの平均観客動員数は、試合興行を行った数試合に限った数字にしかすぎない。ロッテは、埼玉県浦和市にある親会社工場敷地内のロッテ浦和球場を二軍の本拠としているが、この球場にはスタンドはなく、内野フィールドのへりに観覧席が設けられているにすぎない。また、阪神は、1994年に一軍本拠地の甲子園球場と同じ西宮市内に鳴尾浜球場を建設。ここを長らく二軍の本拠としていたが、この球場のスタンドは500人ほどしか収容できなかった。そして、両球団とも二軍本拠での公式戦については、入場料は徴収せず、さらには、昨シーズンはコロナ禍ということもあって、観客の受け入れそのものをやめていた。

 昨シーズンの両球団二軍の観客動員の数字は、試合興行を行った一軍本拠、地方球場での試合のみについての数字である。ロッテは一軍のフランチャイズである千葉県内で4試合の、阪神は一軍本拠の甲子園の10試合に加え、地方での主催ゲームを7試合行い、両球団とも1試合平均2000人を超える動員を記録した。

 今回は、昨シーズンの世界プロ野球観客動員数(1試合平均)ランキングの201位から268位を紹介しながらNPBのファーム、そして独立リーグなど「日本のマイナーリーグ」について述べていきたい。

2022シーズン世界プロ野球観客動員(201-268位)

201 ハイポイント     独立    1879

202 レイクカウンティ   独立    1874

203 ビサリア       A      1833

204 ケンタッキー     独立    1798

205 グアダラハラ     LMB    1754

206 サンノゼ       A      1744

207 トリシティ      A      1744

208 ミソウリア      独立   1743

209 ストックトン     A     1735

210 グレイシャーラウンジ 独立    1734

211 ミルウォーキー    独立    1721

212 ヒッコリー      A     1700

213 アグアスカリエンテス LMB    1696

214 ウィンディシティ    独立    1659

215 オアハカ       LMB    1653

216 ガストニア     独立    1637

217 ベロイト       A      1632

218 サセックスカウンティ 独立    1597

219 レイク エルシノア   A      1584

220 フォートマイヤーズ  A      1582

221 ドゥランゴ      LMB    1573

222 デイトナ      A      1572

223 ソフトバンク(二軍) ファーム  1550

224 ゲートウェイ    独立 1538

225 グランドジャンクション 独立 1527

226 ダウンイースト   A  1513

227 リンチバーグ      A     1496

228 モト         A     1428

229 ローマ          A   1415

230 グレートフォールズ   独立   1379

231 クレバーネ       独立   1328

232 トロワリビエール    独立   1322

233 スタテンアイランド   独立     1279

234 オタワ         カナダ独立1250

235 スーフォールズ     独立   1213

236 セントルーシー     A     1167

237 スーシティ       独立   1109

238 巨人(二軍)      ファーム 1145

239 ニュージャージー  独立   1022

240 日本ハム(二軍)   ファーム 976

241 タンパ        A   914

242 広島(二軍)      ファーム  881

243 ブレイデントン     A     870

244 中日(二軍)      ファーム  818

245 栃木          BCL  805

246 ジュピター       A     669

247 パームビーチ    A   605

248 レイクランド     A 618

249 新潟          BCL    580

250 DeNA(二軍)     ファーム  533

251 オリックス(二軍)   ファーム  523

252 火の国         KAL    497

253 愛媛          IL     468

254 茨城          BCL    445

255 西武(二軍)      ファーム  439

256 北九州         KAL    393

257 ダニーデン       A     381

258 楽天(二軍)      ファーム  351

259 群馬          BCL  321

260 ソフトバンク(三軍)  ファーム  317

261 埼玉        BCL  315

262 ヤクルト(二軍)    ファーム  312

263 信濃          BCL   296

264 徳島          IL    272

265 大分          KAL   267

266 神奈川          BCL   248

267 高知          IL    246

268 香川          IL    157

269 福島          BCL   128

*ファーム:NPBファーム

 BCL:ルートインBCリーグ

 IL:四国アイランドリーグplus

 KAL:ヤマエグループ九州アジアリーグ

「ビジネス化」を進めつつあるNPBのファーム

 現在NPBでは、ファーム公式戦をほとんどの球団が興行化している。本拠地球場で試合を無料開放しているのは、上記ロッテ、阪神の他、広島の3球団だが、NPBは入場料の徴収いかんにかかわらず二軍戦の観客数をカウントしている。

 上記のランキングを追っていくと、1000人台後半でマイナーリーグのA級や独立リーグ、そしてメキシカンリーグの下位球団が続いた後、223位にソフトバンク二軍が1550人でランク入りしている。これが日本のファームチームの実質上最高観客数である。ソフトバンクは2016年にファーム施設を一軍本拠のある福岡県の筑後市に移転。アメリカのマイナーリーグの球場を思わせる新球場には連日多くのファンが押し寄せている。開場初年度は、札止めが常だったほどだ。ソフトバンクは三軍も試合興行を行っており、25試合で7916人(260位)を動員している。

 以下、北米のマイナー球団が続いた後、巨人二軍が1145人で238位に入っている。日本のファームチームで1000人以上の観客を常時集めているのはこの2チームだけだ。つまりは、NPBのファームチームの動員力は人気チームでも北米マイナーリーグの下位レベルということである。

 その後、240位に日本ハム(976人)、242位に広島(881人)、244位に中日(818人)の二軍が続き、245位に日本の独立リーグ球団最高順位でルートインBCリーグの栃木ゴールデンブレーブスが245位でランクインしている。

DeNA二軍の本拠地球場横須賀スタジアム
DeNA二軍の本拠地球場横須賀スタジアム

 250位にはDeNA二軍(533人)が入っているが、この順位までに入っているのが、本格的にファーム興行を行おうとしている球団と言えるだろう。原則入場無料でファーム本拠地の試合を開放している阪神やロッテ、広島は、これをファンサービスの一環としてとらえているようだが、その他の球団はスタンド付きの自前の球場で、あるいは数千規模のスタンドをもつ地方球場を借り受けて、試合興行を常時行っている。しかし、いかんせん、アメリカに比べればファームの興行化には苦戦している。

 これには、元々マイナーリーグがメジャーリーグと併存していたアメリカと、まず一軍のみでプロ野球が発足し、選手育成の場としてファームチームが誕生していった日本との成り立ちの違いや、それゆえアメリカではマイナーリーグが地域の手軽な娯楽として発展していったという歴史的背景があるのだが、もう1点挙げれば、日本のファームの本拠地球場のアクセスの悪さも原因として挙げられるだろう。

 ちなみに日本のファームチームの名の間に現れるアメリカA級の球団のほとんどはメジャーリーグのキャンプ地のメイン球場を本拠とするフロリダリーグのチームである。このリーグはある意味、キャンプ施設の有効利用のためにフロリダで展開しており、各本拠地は、車社会のアメリカにあっても決してアクセスのよいところにあるわけではない。各フランチャイズの町の規模も決して大きくはなく、だからこそ、メイン球場の他、複数のサブフィールドをもつ施設が建設できるのだが、メジャーリーグのキャンプならともかく、マイナーリーグで集客が見込めるようなところではない。ちなみにアメリカプロ球団の内最下位のダニーデン・ブルーフェイズ(257位、381位)は、このリーグの球団である。

ダニーデン・ブルージェイズの本拠、TDボールパーク
ダニーデン・ブルージェイズの本拠、TDボールパーク

 NPBファームの本拠地で公共交通機関のアクセスがいいと言っていいのは、旧本拠のナゴヤ球場を使用している中日とソフトバンク、それに一軍本拠に隣接したサブ球場を使用している西武くらいで、このことは独立リーグを含めた日本のマイナーリーグ全体の大きな課題になっている。

 巨人は、再来年に現ファーム本拠、ジャイアンツ球場の近くに集客に重点を置いた新ファーム施設を開場させる予定ではある。しかし、この施設も東京郊外の駅から徒歩20分近くかかるとあって、平日集客には苦戦すると思われる。

 一方、これまで二軍の興行試合には無頓着だった阪神も同じく2025年に新ファームを開場させる。立地を考えると、こちらは毎試合のようにスタンドがにぎわうことになるに違いない。

 最後に、下位4球団の二軍について述べておく。

 下位とは言え、オリックス(251位、523人)はファームの興行化に決して消極的ではない。2016年に同球団は、旧本拠の神戸に置いたままだったファームを一軍本拠のある大阪市内の人工島、舞洲に移転している。同地には1万人収容のスタジアムがあったものの、アマチュア野球との兼ね合いもあり、そのスタジアムに隣接する地にサブスタジアムを建設してこちらを二軍本拠とした。この球場の収容は「身の丈」に合わせた500人ということもあってオリックス二軍の観客動員数は振るわないが、週末に二軍戦の地方開催を積極的に行い、大阪とその近隣県で実施した10試合で1試合平均1337人を動員している。

オリックス二軍の本拠、杉本商事バファローズスタジアム舞洲
オリックス二軍の本拠、杉本商事バファローズスタジアム舞洲

 西武(255位、439人)も、一軍本拠に隣接したサブ球場に2020年シリーズからネーミングライツを導入し、それまで無料開放されていた二軍公式戦のチケット販売を開始したが、収容が250人ほどということもあり、週末を中心に行われる地方試合を含めても動員数は振るわない結果となっている。

 ファームの興行化という点で一番遅れをとっているのは楽天(258人、351人)だろう。一軍本拠である楽天生命パークでの7試合は1試合平均1331人、例年行っている東北各地での地方試合3試合では2308人と動員力はもっているだが、そのポテンシャルを球団が生かせていない印象だ。

楽天二軍の本拠、森林どりスタジアム泉
楽天二軍の本拠、森林どりスタジアム泉

 同球団は、2005年の球団発足時は山形県内に二軍本拠を置き、アメリカ風のファーム運営を模索したが、のちには一軍本拠である仙台近郊の利府球場に事実上の二軍本拠を移した。しかし、そこでも現在はほとんど使用することなく(2022年は2試合)、もっぱら仙台市内の森林どりスタジアム泉で二軍公式戦を行っている。この球場はもともと練習用グランドとして建設されたこともあり、100席ほどしかなく、芝生席を含めても200人ほどしか収容できない。加えてアクセスの悪さもあり(地下鉄終点からバス)、もっぱら平日のデーゲームとして行われるここでの試合の観衆が100人を超えることはまれだ。

 NPB二軍最下位はヤクルト(261位)である。1試合平均312人という数字は、ソフトバンクの三軍をも下回る。この球団のファーム施設はいまだに河川敷にある。かつては首都圏の多くの球団が河川敷のグラウンドを使用していたが、現在まで使用しているのはここだけだ。当然のごとくながらく有料観客を入れることはなかったが、2010年代になってネット裏の建物上部と一塁側フェンス沿い、それに外野フェンス沿いに桟敷席を次々と設置していき、興行を行うようになった。それでも収容は250人ほど。地元ファンのほとんどは、狭苦しい有料席を避けてフィールドを望む土手から観戦している。

 しかし、ヤクルトも茨城県へのファーム移転を数年後に行う予定である。

危機的状況にある日本の独立リーグ

 日本には「もうひとつのプロ野球」として独立リーグが展開されている。昨年は7リーグが北海道から九州でリーグ戦を行っていたが、このうち観客動員について数字を公開しているのは、BCリーグ、四国アイランドリーグplus、ヤマエグループ九州アジアリーグの3リーグ15球団だけだった。

 3リーグのリーグ別動員のデータは以下の通りである。

    総動員数 総試合数 平均

BC   110342  271  407

九州   43155  113  382

四国   38868  136  286

 かつては、1試合当たり1000人ほどを動員していた日本の独立リーグも、動員力は右肩下がりで、当初目標、あるいは見込みとしていた2000人のラインは遠ざかっていくばかりである。アメリカでは、独立リーグの観客動員数のデッドラインは500人とも言われているため、それを考えるとある意味「危機的状況」と言って良い。

独立リーグの試合風景(BCリーグ神奈川ヒューチャードリームズ、星槎中井スタジアム)
独立リーグの試合風景(BCリーグ神奈川ヒューチャードリームズ、星槎中井スタジアム)

 ランキングを追っていくと、先述の栃木の後は、同じくBCリーグの新潟アルビレックスが249位(580人)で続き、九州リーグのトップ、火の国サラマンダーズが252位(497人)、四国リーグトップの愛媛マンダリンパイレーツが253位(468)で続いている。

 NPBファームとの比較で言えば、260位(315人)の埼玉武蔵ヒートベアーズまでが、NPB最下位のヤクルト二軍を上回る数字を出しているが、選手の報酬がコストに計上されないNPBのファームと比較しても仕方がないだろう。かつてはNPBに多数の選手を送り込み、「四国リーグのジャイアンツ」とも言われた香川オリーブガイナーズ(268位、157人)からは200人を切り、最下位の福島レッドホープスに至っては1試合平均128人しか集めていない。

 実際には、日本の独立リーグは地域からのスポンサー収入が柱となっているため観客動員の低さだけをもって危機的状況とも言えないのだが、プロ野球としての持続的成長を考えればこのままでいいはずがない。少なくとも、今回取り上げた3リーグは、NPBには及ばずとも、プロの「マイナーリーグ」として恥ずかしくないレベルのプレーを見せている。

 今、野球ファンの目はWBCに注がれているが、明日28日には侍ジャパンと対戦する中国代表が鹿児島県で九州リーグの大分B-リングス(265位、267人)と対戦する。

 WBCの後はいよいよ各リーグが開幕に突入する。トップリーグだけでなく、選手の息づかいを感じることのできる「マイナーリーグ」にも注目してい欲しい。

(写真は筆者撮影)

ベースボールジャーナリスト

これまで、190か国を訪ね歩き、23か国で野球を取材した経験をもつ。各国リーグともパイプをもち、これまで、多数の媒体に執筆のほか、NPB侍ジャパンのウェブサイト記事も担当した。プロからメジャーリーグ、独立リーグ、社会人野球まで広くカバー。数多くの雑誌に寄稿の他、NTT東日本の20周年記念誌作成に際しては野球について担当するなどしている。2011、2012アジアシリーズ、2018アジア大会、2019侍ジャパンシリーズ、2020、24カリビアンシリーズなど国際大会取材経験も豊富。2024年春の侍ジャパンシリーズではヨーロッパ代表のリエゾンスタッフとして帯同した。

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