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W杯予選。再浮上するスペインと大ピンチのオランダ。アルゼンチンも苦戦中

杉山茂樹スポーツライター
スペイン代表でもスタメンに抜擢されたマルコ・アセンシオ(写真:ムツ・カワモリ/アフロ)

 8月下旬から9月上旬は国際Aマッチデー。W杯予選が世界の津々浦々で一斉に行なわれる。

 アジアA組は、すでにイランが本大会行きを決め、韓国、シリア、ウズベキスタンの2位争いに絞られたB組。韓国と、シリア、ウズベキスタンの勝ち点差は2だ。韓国とウズベキスタンの直接対決は9月5日。舞台はタシケントだ。

 アジアA組、B組の3位チームによるプレーオフは、第1戦が10月5日で、第2戦が10月10日だ。そこで勝利したチームは、11月6日~14日に行なわれる大陸間プレーオフに進出。今度は北中米カリブ海の4位チームと対戦する。

 その北中米カリブ海予選の順位は以下の通り。

 1位メキシコ(勝ち点17=本大会出場決定済み)、2位コスタリカ(14)、3位アメリカ(8)、4位ホンジュラス(8)、5位パナマ(7)、6位トリニダード・トバゴ(3)。

 残りは3試合。まだ流動的とはいえ、アジアの5番手と争う大陸間プレーオフに回るのは、アメリカ、パナマ、ホンジュラスだろう。7大会連続出場を続けているアメリカ。国際的な実績でも他国を上回るが、今予選は調子が出ていない。パナマは育成年代を強化し、近年急速に力をつけた新興国。ホンジュラスも、右肩上がりを続けている国だ。

 プレーオフは、死の恐怖をともなう、いばらの道となる。

 とはいえ例外もある。南米5位とオセアニア1位とで争われるプレーオフだ。この戦いで番狂わせが起きる可能性は低い。現在、南米5位のアルゼンチンが、ニュージーランド(オセアニア1位)に敗れる可能性だ。むしろ起こり得るのは、アルゼンチンが南米予選で6位以下のペルー、パラグアイ、エクアドルに抜かれることだろう。残り3試合。アルゼンチンと、ペルー、エクアドルとの勝ち点差は2。

 南米予選の順位は1位ブラジル(36=本大会出場決定済み)、2位コロンビア(25)、3位ウルグアイ(24)、4位チリ(23)、5位アルゼンチン(23)、6位ペルー(21)、7位パラグアイ(21)、8位エクアドル(20)、9位ボリビア(10)、10位ベネズエラ(7)。

 アルゼンチンはこの苦境から抜け出そうと5月、エドガルド・バウサ監督を解任。後任に2016~17シーズンのセビージャ監督であり、2012年~16年にチリ代表監督を務めたホルヘ・サンパオリを招聘した。6月にメルボルンで行なわれたブラジル戦に勝利し幸先のよいスタートを飾ったが、これはあくまでも親善試合。残り3試合。まだペルー、エクアドルとの直接対決を残している。

 アルゼンチンは、前回2014年ブラジルW杯決勝でドイツに延長の末に惜敗し、優勝を逃したが、準優勝は開催国ブラジル(ドイツ、オランダに大敗し4位)を嘲笑うかのような好結果と言えた。

 一方で、チームの平均年齢は出場32か国中、最高齢の28.5歳(23人の登録メンバー)。4年後に不安を残したことも事実だった。

 代表チームにはよい循環が不可欠であることを、いまのアルゼンチンは物語っている。どこか勢いに欠けるチームを、名将サンパオリがどう立て直すのか。現在、予選4位でアルゼンチンのひとつ上を行くチリは、サンパオリが手塩にかけて育て上げたといっても過言ではない好チームだ。今度はそのチリを蹴落として這い上がることを義務づけられたサンパオリ。この2カ国のつば競り合いは興味深い。

 アルゼンチン苦戦の原因は、南米勢のレベルが上昇していることとも関係する。つい10年ほど前まで、ブラジル、アルゼンチン以外の南米勢は、W杯本大会で重要な立場にはなかった。ウルグアイ、コロンビア、チリにベスト8以上を期待することはできなかった。欧州の舞台、とりわけチャンピオンズリーグ(CL)を賑わすような選手も少なかった。

 時代は変わった。W杯ベスト8はもちろん、ベスト16を巡る争いもいっそう激化。アジアのチームが、そこに食い込む姿を想像することは難しくなっている。

 一方、欧州予選は13枠を巡る争いだ。A組からI組まで全9組の1位チームがまず通過。9ある2位チームのうち成績上位の8チームでプレーオフを行い、その勝者4チームにも出場権が与えられる。

 欧州の場合、W杯とW杯の中間年にユーロがあるので、物差しは4年単位と2年単位のものになる。4年単位、つまり2014年W杯と比較したとき、目にとまるのが、A組4位のオランダだ。

 前々回W杯準優勝。前回W杯は3位。グループリーグでスペイン、3位決定戦でブラジルにそれぞれ大勝。強国らしさを見せつけたが、アリエン・ロッベン、ロビン・ファンペルシー、ディルク・カイト、ウェズレイ・スナイデルなど、攻撃的なポジションはベテラン選手で占められていた。

 その顔ぶれは、準優勝に輝いた前々回2010年南アフリカW杯でも同様だった。同じ選手で2大会続けて戦ってしまったツケ、言い換えれば、若手が出現してこない育成に関する問題が、表面化している。

 悲哀はすでに、ユーロ2016予選で味わっていた。グループ4位。そして今回も現在第4位。8月31日のフランス戦では0−4の大敗。ユーロ2016の予選敗退が、不運によるものでないことが鮮明になっている。

 ユーロとW杯と立て続けに本大会出場を逃すことになれば、オランダサッカーの看板は大きく色褪せる。

 欧州予選A組の順位は、1位フランス(16)、2位スウェーデン(13)、3位ブルガリア(12)、4位オランダ(10)、5位ベラルーシ(5)、6位ルクセンブルク(4)。

 ベスト4に輝いたユーロ2016から経つことわずか1年強。ウェールズには暗雲が立ちこめている。現在の成績はD組3位(11)。初戦のモルドバ戦に4-0で勝利したものの、その後は5試合連続引き分け。セルビア(15)、アイルランド(13)に、先着を許している。

 まずまずの戦いを見せているのが、ドイツ、スペイン、フランス、ポルトガル、ポーランド、イングランド。

 また、ベルギーは、本大会出場をすでに決めている。

 ポーランド、ベルギーには、上位国の仲間入りを果たしたような風格がある。ドイツには例によって安定感を感じる。ポルトガル、フランスもユーロ2016優勝、準優勝の流れは続いている。しかし、それ以上に目を引くのがスペインだ。9月2日、サンティアゴ・ベルナベウで行われたイタリア戦では、イスコが2ゴール、モラタが1ゴールを挙げ、3−0の快勝。首位の座を揺るぎないモノにした。

 2014年W杯(グループリーグ敗退)に続くユーロ2016の不成績(ベスト16)で、その時代は終わりを告げたと見る向きもあるが、見限るのは早い気がする。これはフランスにも言えることだが、若手選手に好素材がひしめいていて、それが代表チームのレベルを下支えしているのだ。

 昨季のCL決勝ユベントス戦で、レアル・マドリードの4点目のゴールを決めたマルコ・アセンシオは、今シーズン一番の注目株と見る。

 最後にアフリカ。全20か国を4チームずつ5組に分け、その最上位国に本大会出場権が与えられるという最もシンプルな予選だ。全6試合中、現在2〜3試合を消化した段階にある。

 注目はナイジェリアとカメルーンが同じ組で戦うB組だった。ナイジェリアが2戦2勝(勝ち点6)なのに対し、カメルーンは2戦2分け(勝ち点2)と大きく出遅れた。そしてその両者は9月1日、ナイジェリアホームで直接対決した。結果は4−0でナイジェリア。カメルーンの予選敗退は、決まったも同然だ。

 今回の国際Aマッチデー。注目は日本戦だけではない。他に語ることは山のようにある。「世界」は大きく動きそうである。

スポーツライター

スポーツライター、スタジアム評論家。静岡県出身。大学卒業後、取材活動をスタート。得意分野はサッカーで、FIFAW杯取材は、プレスパス所有者として2022年カタール大会で11回連続となる。五輪も夏冬併せ9度取材。モットーは「サッカーらしさ」の追求。著書に「ドーハ以後」(文藝春秋)、「4−2−3−1」「バルサ対マンU」(光文社)、「3−4−3」(集英社)、日本サッカー偏差値52(じっぴコンパクト新書)、「『負け』に向き合う勇気」(星海社新書)、「監督図鑑」(廣済堂出版)など。最新刊は、SOCCER GAME EVIDENCE 「36.4%のゴールはサイドから生まれる」(実業之日本社)

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