中国の「テスラ・クローン」問題はテスラの特許開放戦略のせいなのか
Wired.jpに「中国の"テスラ・クローン"EVが、イーロン・マスクを襲う」なんて記事が載っています。
中国(および台湾)の振興メーカーがテスラを模倣した安価な電気自動車を製造し、テスラ車の経営を脅かす可能性について書かれています。電気自動車の構成要素がコンピューターの世界と同様にコモディティ化していけば、長期的にはこのようなことが起きるのは必然でしょう。また、中国では、テスラ車には高額の関税が課される一方で、中国国産電気自動車には手厚いエコ減税が適用されるという問題もあるようです。
上記記事が示唆するテスラの課題はもうひとつの同社の「特許開放」宣言が裏目に出たのではないかいうことです。
と書かれています。
テスラの「特許のオープンソース化」宣言とは、イーロン・マスクが昨年の6月にテスラモーターズ社公式ブログに書いた” All Our Patent Are Belong To You” (下記注)という記事のことです)(過去に書いた関連記事)。そこでは、電気自動車の技術を進展させるために特許には頼らないこと、自社のテクノロジーを無断で使用されても特許権を行使しないことが宣言されています。
中国メーカーがこれを悪用して「テスラ・クローン」にテスラ社の特許技術を勝手に使ってしまうのではないかという点を上記記事は危惧しているわけです。
しかし、テスラは「特許のオープンソース化」を宣言してはいますが、別に特許出願をやめたり、特許権を放棄したわけではありません。宣言の後も(中国を含め)各国に特許出願を続けていますし、特許料の支払いも続けています。
「特許のオープンソース化」とはあくまでも特許権は維持するが、その権利は行使しないということです(いわば専守防衛ですね)。さらに言えば、「誠実に(in good faith)テスラの特許技術を使用した場合には」という条件も付いています。
ということで、仮に中国メーカーがテスラ車の完全デッドコピー車を販売することになれば、それに対してテスラ社が特許権に基づいて差止めを行なうことは可能ですし、完全デッドコピー車は誠実な使用とは言えないことから「特許のオープンソース化」宣言と矛盾することにもなりません。さらに言えば外観デザインを模倣されたのであれば意匠権による権利行使も可能です(米国では意匠権もpatentと呼ばれますが、文脈から考えて「オープンソース化」に意匠権は含まれないでしょう)。Wiredの記事におけるテスラ・クローンの脅威に関する読みは全般的に正しいのだと思いますが、「特許のオープンソース化」とは直接的には関係ない話だと思います。
ところで、たまに「特許はイノベーションを阻害する、ゆえに、特許制度は不要」という短絡的な意見を述べる人がいますが、そういう考え方は中国をはじめとする新興国が好き放題に模倣できる世界を許容するものだという点を念頭におくべきでしょう。
注)なんで”All Our Patent Are Belong To You”というブロークンイングリッシュなのか、”All of Our Patents Belong To You”ではないのはなぜかと思われた方は、こちらのWikipedia記事(日本語版)をご参照ください。