正捕手・小山一樹が復帰した兵庫ブルーサンダーズが快勝!選抜組は読売ジャイアンツ3軍戦でアピールだ!
■負傷からの復帰即、攻守に躍動した小山一樹捕手
打った瞬間だった。
高く上がった打球は放物線を描いて左中間フェンスをまたぎ、向こう側で大きく弾んだ。
復帰第1戦の初打席、それも初球だ。
「しっかりタイミングとって振り抜こう」―。
そう考えて臨んだのだと振り返った兵庫ブルーサンダーズ・小山一樹選手は、その端正な顔をほころばせた。
「(打ったのは)まっすぐ。コースとか球種とか気にせず、いいところにきたら振ろうと思ってたんで。思いきりいけたかな」。
身上である思いきりのよさは、いついかなるときも失わない。
9日前の出来事だった。対堺シュライクス戦でいつものようにマスクをかぶっていた小山選手の頭頂部を、相手打者のバットが直撃した。
ワンバウンドのボールを止めようと小山選手がやや頭を出したところに、バットのフォロースルーが勢いあまって回ってきて、衝突した格好だ。
頭頂部からはかなりの量の出血が見られ、そのまま病院に運ばれた。幸いにも脳には異常がなく、4針縫ってその後は静養に努めた。
26日に抜糸し、その足で練習に参加。紅白戦でいきなり初球をスタンドインさせた。そして翌日の実戦でも同じく初球を放り込んだのだ。箇所が箇所だけに負傷後は安静にしなければならなかったが、そんなブランクなどまったく感じさせない“2戦連発”となった。
1週間、まったく動くことはならなかった。しかし体が動かせないのならばと、脳内はフルに活動させた。これまで撮ってもらった自身の動画に見入り、また自宅の鏡を見ながら、頭の中のイメージだけは持続させた。
「タイミングだけとって、しっかり振った結果がホームランという形になってよかった」。
チームメイトも「すげぇな」「さすがや」と口々に讃え、橋本大祐監督も「こういうとき、小山はよく打つ。バッティング練習してないときとか、人が打たないときとか。そういうの持っている」と、その能力の高さに舌を巻いた。
ここまで公式戦出場12試合でヒットが出なかったのはわずかに2試合。6試合連続でマルチ安打を放ち(3安打が1試合)、.425というハイアベレージを記録している。さらには出塁率.520、長打率.560でOPSは1.080である。
安定した打撃だけではない。守っても正捕手として投手陣をしっかりリードし、1失点にとどめた。恐怖心など微塵も感じさせない堂々とした司令塔ぶりだった。
「紅白戦でも2回くらい座らせてもらって、立ち位置とか距離感とか確認できた。多少は怖い部分もあるけど、ケガはつきものなんで、そんなに。当たったらしかたないくらいで」。
なんという強靭な精神力なのか。ケガの恐怖より野球ができる喜びが、小山選手の全身から満ち溢れていた。
先発の西村太陽投手を「本調子ではなかった。先発というので独特の雰囲気もあるし長いイニングも意識したと思う。中継ぎでやってるときと比べて若干、外れたり垂れたりしていた。でも高さを意識してゴロを打たせることができていた」と、しっかり引っ張った。自身もより低い重心を意識し、低めに投げさせるよう腐心した。
「打たれたらしかたない」と割り切り、「曖昧に(ストライクを)取りにいった球を打たれて点が入るんだったら、はっきりコースを決めて、それで四球ならしかたないっていう意識で入った」とのバッテリーの意図を明かす。
そんな小山選手に、橋本監督も絶大な信頼を寄せる。
「小山にすべて背負わせる」と言ってスタートした今季。正捕手として、また打線の中核として、そしてチームの精神的支柱として、全面的に小山選手に任せている。
「やっぱり、あいつがいてくれないと全然ダメだったな」。
小山選手を欠いた試合で苦戦したことを振り返り、復帰を心から喜んでいた。
■“声出し番長”・蔡鉦宇選手は上昇気配
この8月最後のゲーム、対和歌山ファイティングバーズ戦ではまず蔡鉦宇選手のソロ弾が飛び出し、先制した。
「なんとか塁に出たいっていう気持ちだった。正直、ホームランは狙っていなかった」。
初回1死無走者の場面であるから、2番に入った蔡選手としては当然だろう。しかしインサイド高めのストレートに体が反応した。
「少しボール球だった。インコースにきたのを払った感じだった。早めにタイミングをとったのがよかった」。
今季、ここまで打撃の調子はよくないと明かす蔡選手だが、この1本でやや手応えをつかんだという。第3打席でもフライアウトにこそなったが、レフト方向に強い打球を飛ばした。
「けっこういい当たりだった。今までは逆方向の打球はほぼなくて、しかもそんないい当たりはなかった。今までで一番いいかなと思う」。
この日の試合前、木村豪コーチから「肩を開かずにボールを最後まで見るように」とアドバイスされたことを実践し、引きつけて長く見た結果だった。さらに最終打席は遊撃内野安打で締めた。
1本のホームランと木村コーチの助言による逆方向への当たり。どうやらここから上昇気流に乗っていけそうな予感がする。次なるステージは関西独立リーグ選抜チームでの対読売ジャイアンツ3軍戦だ。
「今までやってきたように一生懸命プレーしたり、声を出したりもしっかりやりたい。行くまでに走り込んで体力をつけて、守備練習にももっと取り組みたい」。
目指すNPBで活躍するために、このチャンスをモノにするつもりだ。
■要所を締めて粘投した“初先発”の西村太陽投手
先発は西村太陽投手だった。実は2度目である。といっても前回の先発はコロナ禍でのチーム活動再開直後の試合で、体への負担を考慮して1人1回ずつで繋いだため、いわゆる“オープナー”という形だった。つまり実質的な先発はこの日が初だ。
前日に告げられ、ブルペンで約40球投じて「やってやるぞ!」と意気込んだ。当日の調整は、とくに中継ぎのときとは変えずに臨んだ。
チームはここ3戦連続で初回に複数失点している。
「立ち上がりは重要。初回はゼロでと思って全力でいった」。
ピンチは作ったが、落ち着いて踏ん張り、初回を無失点でしのいだ。五回に1失点し、なおも2死一、二塁の場面となったところで橋本監督がマウンドに来た。
「『ここ抑えよ、みんなで。初球大事やぞ』って言われて、気持ち入れて低めに低めにっていう感じで。コースをついたら抑えられると思ったんで、そこだけを間違えずに投げた」。
きっちりとインサイド低めにコントロールしたストレートで、ショートへの凡フライに打ち取った。
三回の2死満塁でも「初球から振ってくるってわかってた。小山さんが構えているアウトローにしっかり投げ込めた」と、相手の主砲を三ゴロに封じ込めている。
助けになったのは仲間の声だ。
「球が垂れて自分にイラついてたけど、周りが声かけてくれたんで平常心に戻れた。そしたらまた球がいきだして…」。
前回22日の対シュライクス戦で3回無失点だった中継ぎ登板のときに比べると、そこまで調子がよかったわけではない。しかしそれでも粘れた。守っている野手から、ベンチから、「ここからやぞ!」という声が口々に聞こえてきた。それでまたギアを入れ直すことができ、要所を締めることができたのだ。
開幕前から「どこかで西村を先発させたい」という腹づもりがあったという橋本監督だが、この好投には「よく投げた」と合格点を与えた。
「最近調子よかったし、立ち上がりはすんなり入れるだろうと思った。あとはイニングをどれだけ投げられるか心配だったけど。まぁ北海道でも4回放っているし」。
公式戦で、西村投手の可能性を探りたかったのだ。
「いつもに比べてリズムが悪かったし、投げにくそうにしていた。とくに3番4番には。でもそれ以外は、らしいピッチングはしてたかなと思う。もともと淡々と放るタイプで、表情も変わらない」。
ピンチでも動じないその姿が、より頼もしく映ったようだ。
入団するまではずっと先発をしてきたから「やってみたい」とは思っていたという西村投手。しかし今は中継ぎを自身の働き場所だと受け止め、そこで結果を出すことに注力してきた。
だがこうして5回1失点と粘れたことで自信もつかんだ。今後は先発、中継ぎどちらでも期待に応えることができる。
橋本ブルーサンダーズに“新戦力”が加わった。
■セットアッパーは“Wシロウ”のひとり、來間孔志朗投手
2点あれば後ろは盤石だ。ブルーサンダーズが誇る“Wシロウ”が八、九回を締めた。まずはコウシロウ…來間孔志朗投手が八回に登板し、下位打線を3人でピシャリだ。
しかし結果だけに満足はしない。先頭打者を2球で簡単に追い込み、チェンジアップで三振を狙いにいったが見送られてボールになったことを悔しがる。
「チェンジアップの反応が悪かったんで、スライダーを投げてショートゴロだった…」。
右打者対策にチェンジアップの精度を上げることは目下の課題だ。空振りが取れることが理想である。
「落としどころというか、曲がりどころというか、そういうところかなぁ」。
ストライクからフッと落ちる球。思わず打者が振ってしまう球。独自の変化を身につけるべく、試行錯誤を続けている。
握りは人差し指と中指でがっつり挟んでいるが、フォークではないという。
「もともと抜く球種が苦手で、抜く感覚はまったくない。挟んでそのまま放っている。でもフォークじゃなくてチェンジアップ。自分がそう言えばそうでしょ(笑)」。
チェンジアップの使い手といえば、ブルーサンダーズでの先輩にもあたる井川慶(阪神タイガース―ニューヨークヤンキース―オリックス・バファローズ)や杉内俊哉(福岡ソフトバンクホークス―読売ジャイアンツ)ら左の名だたる投手の名が挙がる。
「來間孔志朗といえば…」と代名詞になるくらいの変化球に育てあげるよう、これからも挑戦を続けていく。
■クローザーはもうひとりの“Wシロウ”、小牧顕士郎投手
クローザーはケンシロウ…小牧顕士郎投手だ。先頭を不運にも内野安打で出塁させたが、後続を空振り三振と併殺打に仕留め、結果的に3人で片づけた。
これで7試合、7回を投げて被安打2、奪三振5で失点は1点のみ。この日も14日以来の登板となったが、重い剛速球は健在だった。
「投げる機会が空いていたけど、自分なりに調整もできて投げられたんで、よかったかな」。
ポジション的に登板間隔が一定しないことに加え、今季はコロナの影響も大きく作用したが、そういった外的要因に負けず、自己研鑽を続けてきた。
今、意識しているのは「バッターが振りやすいボールを投げるということ。今までの変化球をちょっと変えて、ゾーンに落とすみたいな。バッターの前のゾーンがあって、そこを通ったらストライクやと思うっていうゾーン」。
「ピッチトンネル」のことだ。打者が球種やコースを判断するギリギリのポイントに設定される仮想のトンネルで、そこを通してから変化させると打者が見極めづらくなるという話題の新理論である。
「まっすぐは自分の中では低めに収められる」という自信があるからこそ、次なる課題に着手しているのだ。持ち球である縦変化のスライダーを「ちょっと上にいくみたいなのに変えて」と改良している。
「ピッチトンネルを通す意識で。今日も通せたなと思った」と手応えも上々だ。「抑えだし1回なんで球種もそんなに多くなくていいから、そこだけ極めよかなと思って」。
速い球に目を慣れさせないよう、タイミングを外す目的であるチェンジアップも1球投げたが、それも効果を感じられた。カウント球にも結果球にも使えそうな完成度に近づいている。
ランナーを出してもまったく動じない。
「今季はもうまっすぐで押せるなと思ってるんで、その分ちょっと余裕ができてマウンドでも焦らない。そんなにピンチやと思わなくなった」。
投げるごとに自信を深め、それがボールに乗り移っている。現在1.29の防御率もまだまだ良化するだろう。
今週末は関西独立リーグ選抜のメンバーとして、読売ジャイアンツ3軍と対決する。自身の夢を実現するため、ヤングジャイアンツをきりきり舞いさせる。
■選抜組はアピールを、残留組はミニキャンプ?
兵庫ブルーサンダーズの次の試合は9月8日、対06ブルズ戦だ。その前に、選抜チームに選ばれた選手は5日と6日、読売ジャイアンツ3軍と対戦する。NPBのスカウト陣も訪れる、いわゆる“オーディション”である。
橋本監督は「勝ち負けよりも個人のアピールの場なんで、自分のいいところを思いきりアピールしてくれたらいい」と、期待を込めて送り出す。
そして選抜以外の選手たちには「次の試合に向けてしっかり調整してほしい。ちょっと間も空くし、投手陣には走り込めと言ってある」と、より一層の成長を求めている。
【対読売ジャイアンツ3軍戦】
関西独立リーグ選抜メンバー
(兵庫ブルーサンダーズ)
≪投手≫
山科颯太郎→小笠原智一
藤山大地
來間孔志朗
小牧顕士郎
≪捕手≫
小山一樹
≪内野手≫
柏木寿志
蔡鉦宇
≪外野手≫
梶木翔馬
(撮影はすべて筆者)