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WBCクルーザー級チャンピオンのケガ

林壮一ノンフィクションライター/ジェイ・ビー・シー(株)広報部所属
Chris Belser/Behind the Boxer Magazine

 6月7日に防衛戦を行う筈だったWBCクルーザー級チャンピオン、ノエル・ミカエルヤンが目の付近を負傷したため、試合はキャンセルとなった。今回の相手は、指名挑戦者のカナダ人、ライアン・ロジキの筈だった。

 27勝(12KO)2敗の33歳と、20勝(19KO)1敗の29歳の対決は、見応えがありそうな予感がした。

 1990年9月18日生まれのチャンピオンは、アルメニア生まれのドイツ系アメリカ人。2023年11月に同タイトルを獲得し、初防衛戦を迎える予定であった。

Chris Belser/Behind the Boxer Magazine
Chris Belser/Behind the Boxer Magazine

 興行を手掛けるドン・キング・プロモーションは、現地時間22日に「6月7日に向けて調整中だったミカエルヤンが、目の付近を切ったため、試合が出来なくなった」なる、プレスリリースを出したが、どちらの目なのか、どの程度深い傷なのかにはまったく触れていない。

 「ミカエルヤンは、ドン・キングが打つ次の興行には戻ってくるだろう。チャンピオンは『ファンとボクシング界に申し訳ない。キングが組むイベントで世界タイトルを防衛する準備を整えておきます』と語った」。

 そう、ドン・キング・プロモーションは発表している。

写真:ロイター/アフロ

 92歳のキングは捲し立てた。

 「こういうことが起こるからこそ、多くのタイトル戦を予定するのさ。6月7日は、複数のタイトル戦を用意している。ミカエルヤンはタイトルを防衛するために、早めに復帰するだろう」

 キングは今回の興行を<Fists of Fury>と名付けていた。怒りの拳。マイク・タイソンとイベンダー・ホリフィールド第2戦のキャッチコピーは、<The Sound and the Fury>だった。それをもじったのか。

 ただし、<The Sound and the Fury>とは、1929 年に出版された小説のタイトルで、貴族コンプソン家の崩壊と没落を 4 つの異なる視点から詳しく描いたものである。著者のウィリアム・フォークナーは、ノーベル賞作家で、20世紀のアメリカ文学をリードした重鎮だ。

写真:ロイター/アフロ

 キングが文学を愛しているとはとても思えないが、アメリカ国民の心を擽り、話題を提供する術は十分に心得ている。だからこそ、悪徳プロモーターと認知されながらも、ボクシング界のトップに上り詰めたのだ。

 さて、キングは今後、ミカエルヤンをどう扱うのか。

ノンフィクションライター/ジェイ・ビー・シー(株)広報部所属

1969年生まれ。ジュニアライト級でボクシングのプロテストに合格するも、左肘のケガで挫折。週刊誌記者を経て、ノンフィクションライターに。1996年に渡米し、アメリカの公立高校で教壇に立つなど教育者としても活動。2014年、東京大学大学院情報学環教育部修了。著書に『マイノリティーの拳』『アメリカ下層教育現場』『アメリカ問題児再生教室』(全て光文社電子書籍)『神様のリング』『世の中への扉 進め! サムライブルー』、『ほめて伸ばすコーチング』(全て講談社)などがある。

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