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ジェシカ・アルバの自然派ブランド、表示に偽りあり?“女性起業家”アルバはどう乗り越えるか

猿渡由紀L.A.在住映画ジャーナリスト
ジェシカ・アルバは2011年にオネスト・カンパニーを創業(写真:Splash/アフロ)

ジェシカ・アルバの自然派ブランド、オネスト・カンパニーが、トラブルに直面している。「ウォール・ストリート・ジャーナル」紙が、ふたつの研究所に同社の液体洗濯洗剤をテストさせたところ、ラウリル硫酸ナトリウム(SLS)が入っていることが判明したのだ。テストを行った研究所のひとつは、「相当な量、」もうひとつの研究所も「一般の洗剤に入っているのと同じくらいの量」が入っていたと証言している。SLSは、歯磨き粉やシャンプーなど、幅広い商品に使われており、人体に必ずしも有害かどうかははっきりしないが、オネストは、これを使わないとうたうことで他社と差別化している。アルバは、2013年の著書「The Honest Life」でも、SLSを“毒”と呼んでいる。

“正直”(honest)を社名に掲げ、ブランドポリシーとする同社は、最近、「ナチュラルで、植物成分をベースにし、有害な化学物質は使用しない」といううたい文句が虚偽であるとして、集団訴訟を受けたばかりだ。それも一件ではなく二件で、ひとつはニューヨーク、もうひとつはカリフォルニアで起こっている。また、昨年は、ある女性が、ソーシャルメディアに、ひどく日焼けした肌の写真を投稿し、オネストのサンスクリーンは効果がないと訴えたのも、話題になった。

この4年間に驚くほどの勢いで成長を遂げてきたオネストは、今、創業以来最大の危機に見舞われている。「イントゥ・ザ・ブルー」「シン・シティ」などで、スリムなボディと小麦色の肌を露出し、ヘルシーでセクシーなイメージで人気を集めたアルバは、2008年に長女オナーちゃんを産んだことをきっかけに、安全かつスタイリッシュなベビー商品の開発を考えるようになった。最初はオンライン販売のみで始めたが、現在は大手スーパーなどでも販売され、昨年は17億ドルを売り上げている。商品展開も、もはやベビー関連商品だけにとどまらず、シャンプー、ボディローション、タンポン、入浴剤、栄養サプリメント、食器用洗剤など、100種類以上に増えた。昨年は、コスメライン“オネスト・ビューティ”もデビューさせ、L.A.のショッピングセンター、ザ・グローブに、フラッグシップ店をオープンしている。近々、株式上場もする予定だ。

オネストの拡大と反比例するかのように、アルバは、近年、映画にほとんど出ていない。多少なりとも話題になったといえば2014年の「シン・シティ 復讐の女神」くらいだが、これもアメリカでの興行成績はわずか1,400万ドルと、大失敗に終わっている。今や、アルバにとって、事実上の本業は、オネストの共同創業者兼チーフ・クリエイティブ・オフィサー。女優は副業になった形だ。長女の誕生と同時にコンセプトが生まれ、ウェブサイトにもショップ内のポスターにも顔を出して引っ張ってきたこの会社は、ふたりの娘をもつ彼女にとって、3人目の娘のような存在であるにちがいない。この苦境は、なんとしても乗り越えたいところだろう。

「ウォール・ストリート・ジャーナル」紙の報道に関して、アルバ自身は何もコメントをしていないが、アルバの弁護士は、「ジェシカ・アルバをはじめとするオネストのスタッフは、彼らの洗濯洗剤にSLSは入っていないと信じています。サプライヤーからもそのように確証を得ています」と語っている。また、オネストは、「『ウォール・ストリート・ジャーナル』紙に、そうではないというはっきりした証拠を提供したにも関わらず、彼らは私たちがSLSを使っているという間違った報道を出しました。私たちの洗濯洗剤には、刺激が少なく安全なココアルキル硫酸ナトリウム(SCS)を使っています。社内のリサーチ開発チームと外部のパートナーによるテストと分析で、その事実は確認されています。『ウォール・ストリート・ジャーナル』は、向こう見ずな姿勢でこの記事を用意し、データを見せてほしいという私たちのリクエストも無視し、ガラクタの科学を信ぴょう性のあるジャーナリズムのために使ったのです。私たちは、私たちの洗濯洗剤を信じています。そして、お客様のために、安全で効果のある商品を作る責任を、真剣に受け止めています」との声明を発表した。

オネスト対「ウォール・ストリート・ジャーナル」の戦いに誰よりも注意を払っているのは、グウィネス・パルトロウかもしれない。アルバ同様、近年、女優としてよりも、ウェブサイトgoop.comを大成功させた女性起業家として活躍してきたパルトロウは、最近、北カリフォルニアのコスメブランド、ジュース・ビューティに投資し、同社のメイクアップラインのクリエイティブ・ディレクターに就任した。ナチュラルでオーガニックな原材料を使用するとうたう同社は、多くの化粧品に含まれるさまざまな成分を含まないと宣言する。そしてパルトロウも、アルバのように、自分の顔を全面に押し出してプロモーションをしている。

出演した映画がコケたなら笑われて終わり。だが、たとえ小さな間違いのせいであったとしても、使っていないと言った成分が製品の中に混じり込んでいたりしたら、客の怒りは大きい。女性起業家には、女優とは違った、そして、もしかしたらもっと重いチャレンジがある。女優としてはたいして難しいことをしてみせてきていないアルバが、女性起業家として、この試練をどう乗り切ってみせるかに、注目したい。

L.A.在住映画ジャーナリスト

神戸市出身。上智大学文学部新聞学科卒。女性誌編集者(映画担当)を経て渡米。L.A.をベースに、ハリウッドスター、映画監督のインタビュー記事や、撮影現場レポート記事、ハリウッド事情のコラムを、「ハーパース・バザー日本版」「週刊文春」「シュプール」「キネマ旬報」他の雑誌や新聞、Yahoo、東洋経済オンライン、文春オンライン、ぴあ、シネマトゥデイなどのウェブサイトに寄稿。米放送映画批評家協会(CCA)、米女性映画批評家サークル(WFCC)会員。映画と同じくらい、ヨガと猫を愛する。著書に「ウディ・アレン 追放」(文藝春秋社)。

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