安倍政権は、本気で長時間労働改善に取り組む気があるのか?
こんなニュースを目にしました。
安倍総理が述べる「長時間労働は仕事と子育ての両立を困難にし、少子化や女性の活躍を阻む原因となっている」との指摘は、全くもって正しい現状認識です。
長時間労働(とりわけ男性正社員)で、家事負担を女性に押しつけられ、女性が自ら活動を断念せざるを得ず女性の活躍、出産育児の可能性をも阻害されています。
それ以外にも、過労死・過労うつを生み出す命と健康の問題も、労働者に地域社会で活動する時間を奪い地域の活性化を阻害するといった、問題もあります。
長時間労働の是正に取り組まねばならないという現状認識について、安倍総理は全くもって正しいのです。
ただし、実際の安倍政権が実現しようとしている政策は真逆。長時間労働促進政策です。
現在提出されている労基法改悪=「長時間労働促進法」
現在の第190国会では、「労働基準法等の一部を改正する法律案(平成27年4月3日提出)」 が継続審議となっています。
この内容の核となる部分を、端的に言えば、労働時間規制の緩和=長時間労働の拡大です。
具体的に問題がある制度は、裁量労働制の大幅拡大、「高度プロフェッショナル制度」と称される残業代適用除外の制度です。
裁量労働制は、労働時間管理がおろそかになり、結果的に長時間労働が放置され、残業代減らしの脱法に悪用されています。
現在でも制度は存在しますが、対象業務など厳しい限定が有り、経済団体からは、規制緩和が強く求められていました。これを受けて、裁量労働制の規制緩和を行うのが、今回の労働基準法改正法案です。
裁量労働制の拡大
今回対象となっている「企画業務型裁量労働制」の対象業務は、現行法では、企業の中枢業務のみに厳しく限定されています。法が予定しているのは、本当に業務に裁量があり規制を緩和しても実害が無い労働者だけなのです。
ですが、現実には、みなし労働時間よりも実労働時間のほうが長い事業所が数多く存在し、長時間労働が問題となり、過労死も起きています。
その現状に何ら手当てをせず、に極めて広範な業務に対象を拡大すれば、裁量労働制の名のもと、制限ない「定額¥働かせ放題」を許すことになるでしょう。
長時間労働の拡大につながると批判されているのは、そこに理由があります。
しかも、この裁量労働制には、一切年収要件がありません。
新卒採用直後から、裁量労働制=実質残業代ゼロで働かせ放題が、実現可能となってしまうのです。
「高度プロフェッショナル制度」
これは、単に一定の高年収の労働者を対象にした、労働時間規制の適用除外制度です。
例え高年収であっても、必ずしも自分の仕事量を自分で決定できる訳ではありません。
現在の労働時間規制=長時間働けば残業代が高くなる=歯止め(規制)が消えれば、際限なく仕事を振られてしまい、長時間労働に結びつくき易くなります。
なお、そもそも高年収なのは当初だけで、いずれ政府が年収要件引き下げを画策しているのではないかとう点も、見逃せません。
提案されている対策の評価は?
先の報道では、安倍総理が
労基法の改正に関し「36協定の時間外労働規制のあり方について再検討を行う」と表明した
これだけでは、何をやろうとしているのか良く分かりません。
現行法でも可能な取り組みに早急に取りかかるよう、塩崎恭久厚生労働相に指示した。36協定により健康に望ましくない長時間労働を設定した事業者に対し、指導を強化する。具体的には、時間外労働が100時間を超えた企業に対する労働基準監督署の立ち入り調査の基準を、80時間に引き下げることなどを実施する。また公正取引委員会や中小企業庁と連携し、親会社と取引先の取引慣行などで長時間労働を強いられていると疑われる独占禁止法違反事例などの取り締まりも強化する。
無意味だとは思いませんが、立ち入り調査の基準引き下げなどで抜本的な改革が実現するとは到底思えません。何よりも、現状の調査では全く長時間労働は改善していないし、調査にあたる労働基準監督官の人員が少なすぎるという問題も放置されています。
やるべき対策は?
1 労働時間の量的上限規制
これは、1日・週・月・年間、それぞれの労働時間の上限を明確に法律で定めることです。
2 休息時間(勤務間インターバル)規制の導入
勤務間に、適切な休息時間をとらせることで、健康被害を防ぐことができます。
例えば、「勤務開始から24時間以内に連続11時間以上の休息時間を与えなければならない」といった規制を取り入れるのです。
既に、先進的な個別企業において、労使の努力で、実現している例(例えばKDDIなど)も見られます。
1・2を実現することのメリットは、労働者だけではありません。
リフレッシュした労働者は新しい発想が浮かび、生産性も向上するので、使用者にとってもメリットがあります。
なお、この1・2の提言は、日本労働弁護団で発表した
で詳しく触れられています。
3 労働時間の客観的把握が使用者の法的義務であることを明記すること
多くの職場では、そもそも労働時間管理が適切になされていません。
そして、労働時間管理が法的義務として明確にされていないが為に、労働時間管理を怠った悪質な使用者が、かえって利益を受けるという不公正な現状もあります。
働き過ぎで健康被害を受けたのに、労働時間管理がなされていなかったが為に、労働者が労働時間を証明しきれず(証明責任は労働者側にあります)、労災認定・使用者への損害賠償をが認められなかった事件が多数あるのです。
長時間労働を是正するには、まずもって現状の労働時間を使用者に適切に把握させ、これを怠った使用者に対して厳しい制裁(罰則だけでなく、裁判で労働時間争いになった場合、立証責任を転換する等)を課すべきです。
使用者が不公正な態度を助長しているのは、そもそも使用者に明確な法的義務として、労働時間管理を義務づけていない点は見逃せません。
こういった3つの提案。実は、これまで労働政策審議会などで、労働者側から提案されてきたにもかかわらず、採用されず見送られてきたものです。
要するに、政府が本気を出せば、実現可能だったものなのです。
結論
こういった、本来やるべき取り組みには手を付けず、実際に提出している法案は長時間労働を助長する改正案というのが、安倍政権の表明する「働き方改革」の実態です。
私たちは、その場しのぎのパフォーマンスには目を奪われず、実際にやっていること・やろうとしていることを見極めねばならないでしょう。