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テラハ木村花さん犠牲を利用、政権批判封殺に最大限の警戒必要―高市総務大臣、三原座長の発言から

志葉玲フリージャーナリスト(環境、人権、戦争と平和)
木村花さんのインスタグラムから ネット上の誹謗中傷に苦しんでいた

 人気リアリティー番組『テラスハウス』(Netflix/フジテレビで放送)に出演していた女子プロレスラーの木村花さん(享年22歳)が亡くなったことで、ネット上での誹謗中傷に対し法規制を求める動きが与野党の間で出てきた。確かに、ネットリンチやネットストーキングに対し、何らかの措置は必要であろう。ただ、政権与党に対しての、有権者としての批判までもが規制対象にならないかには注意が必要である。ネット上でも「言論封殺にならないか」との懸念の声が上がっている。

◯放送法を理解できない総務大臣がネット規制

 先日、急死した木村さんは『テラスハウス』への出演でネット上での激しい誹謗中傷を浴び、それを苦に自殺したのではと見られている。木村さんの死を契機に、既に社会問題化していたSNS等のネットでの誹謗中傷に改めて注目が集まり、政府与党は法規制も検討するとしている。今月26日の記者会見で、高市早苗総務大臣は「匿名で他人を誹謗(ひぼう)中傷する行為は人として卑劣で許しがたい」と述べ、発信者の特定を容易にするための制度改正を「スピード感を持って行う」とした。ただ、高市総務大臣は、過去に、報道の自由や放送法に反するような発言をしている。政権への有権者の正当な批判をも「誹謗中傷」とみなし、言論封殺することにならないかは大いに懸念すべきことだと言えよう

 高市総務大臣と言えば「停波発言」。2016年2月8日の衆院予算委員会で「テレビ局などの放送事業者が『政治的に公平ではない放送』を繰り返すならば電波を停止することもあり得る」との見解を示したのだ。だが、放送法第4条での「政治的公平」とは、放送事業者の自主的な倫理規定であって、政権が放送内容の善し悪しを判断するためのものではない。むしろ、憲法第21条の「表現の自由」「検閲の禁止」に基づき、報道機関への権力の介入を防ぐための規定であることは、放送法第1条に明記されている

第1条 この法律は、次に掲げる原則に従つて、放送を公共の福祉に適合するように規律し、その健全な発達を図ることを目的とする。

一 放送が国民に最大限に普及されて、その効用をもたらすことを保障すること。

二 放送の不偏不党、真実及び自律を保障することによつて、放送による表現の自由を確保すること。

三 放送に携わる者の職責を明らかにすることによつて、放送が健全な民主主義の発達に資するようにすること。

出典:放送法第1条

 つまり、自らが管轄する放送法について、高市総務大臣はまるで理解していないかのような発言をしたのであるが、同大臣の「停波発言」は、メディア関係者への大きな揺さぶりとなった。2016年4月に来日し、日本における「表現の自由」について調査を行った国連のデービッド・ケイ特別報告者も、放送法第4条の「政治的公平」の規定が、権力による介入を招くと放送事業者が懸念していることを指摘。日本のメディアの独立性に懸念を示し、同法第4条の撤廃を2017年に勧告し、2019年にまとめた報告書でも、再度、勧告した。

 最近でも、日本マスコミ文化情報労組会議(MIC)が今年2月から、メディア関係者を対象に行なっている「報道の危機」アンケートの中間報告でも、高市総務大臣の「停波発言」が尾を引いていることを指摘する訴えがあった。

放送法4条は本来倫理規定。強制できるものではない。しかし、今の政権は、番組の編集準則違反を、電波法 76 条が定める停波処分などの処分の対象になるとしている。こうした重い権限を総務大臣一人が握っているのもおかしい。(放送局社員)

出典:MIC「報道の危機」アンケートへの回答

 こうした経緯からみても、高市総務大臣がネット上の発信で何を「誹謗中傷」とみなすのか、政権への批判をも「誹謗中傷」として発信者特定の対象としないか、大いに警戒すべきだろう。

◯あいちトリエンナーレも「誹謗中傷」???

 政府与党の動きを受け、ツイッター上では「#ネット上の誹謗中傷対策を政治的言論の封殺に利用しないでください」や「#政権批判は誹謗中傷ではない」等のハッシュタグを付けた投稿が相次いで行われている。映画評論家の町山智浩さんも、「インターネット上の誹謗中傷・人権侵害等の対策プロジェクトチーム」の座長となった三原じゅん子参院議員へ懸念を表明した。

 町山さんの投稿に、三原議員は「何度も書いていますが、批判と誹謗中傷の違いを皆さんにまず理解して頂く事が大切。まして政治批判とは検討を加え判定・評価する事です。何の問題も無い。ご安心を」と返答。だが、従軍慰安婦像のレプリカ展示等が賛否を呼び、政府が文化庁補助金の不交付を決定(その後、撤回し減額交付)した芸術祭「あいちトリエンナーレ」について、「誹謗中傷」とみなす投稿へ三原議員も「本当ですね」と賛同している関連情報)。政府与党の意に沿わない投稿を「誹謗中傷」であると三原議員がみなすことは、同議員のツイートから見て、あり得ることなのだ。

三原じゅん子参院議員のツイートのスクリーンショット 筆者が確認し作成
三原じゅん子参院議員のツイートのスクリーンショット 筆者が確認し作成

 また、筆者の先の記事*でも取り上げたように、特に著名人の政治的発言に対しては、安倍政権支持層による誹謗中傷が活発に行われ、政権よりのメディアがそれを煽っているという傾向が見て取れる。そのためか、三原議員に対しては「まず自分達の支持層へ誹謗中傷を止めるよう呼びかけたらどうなのか」とのツイートに、多くの「いいね」がついている。

*ネットの誹謗中傷、メディアが批判する資格はあるか?―きゃりーさんら芸能人の発言封じも

https://news.yahoo.co.jp/byline/shivarei/20200527-00180498/

◯最大限の警戒と共に注視していくことが必要

 社会問題化しているネット上での誹謗中傷に対し、何らかの措置をとること自体は必要だ。だが、何をもって「誹謗中傷」とされるかが、政治的な志向で判断されるようなことはあってはならない。また、報道への介入が行われたり、有権者としての当然の権利としての、政権への批判が「誹謗中傷」とされることも、あってはならないことだ。それでなくても、「報道の自由」「表現の自由」へ抑圧的な安倍政権の動きを、最大限の警戒と共に注視していくことが必要なのだろう。

(了)

追記:

 ネット上の誹謗中傷をいかに防ぐかは難しい問題ではあるが、大手SNS業者らで共同で基金をつくり、ネットリンチやネットストーキングに苦しむ人々が法的手段を取る際に助成したり、弁護士を斡旋したり、被害者の相談窓口を作ったりするべきかと。筆者の周囲でも、ネット関係のトラブルに悩まされている人が何人もいるが、手続きの大変さや弁護士費用がネックだという意見もある。亡くなられた木村花さんのご冥福を心より祈りたい。

フリージャーナリスト(環境、人権、戦争と平和)

パレスチナやイラク、ウクライナなどの紛争地での現地取材のほか、脱原発・温暖化対策の取材、入管による在日外国人への人権侵害etcも取材、幅広く活動するジャーナリスト。週刊誌や新聞、通信社などに写真や記事、テレビ局に映像を提供。著書に『ウクライナ危機から問う日本と世界の平和 戦場ジャーナリストの提言』(あけび書房)、『難民鎖国ニッポン』、『13歳からの環境問題』(かもがわ出版)、『たたかう!ジャーナリスト宣言』(社会批評社)、共著に共編著に『イラク戦争を知らない君たちへ』(あけび書房)、『原発依存国家』(扶桑社新書)など。

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