炎上した元乃木坂46山崎怜奈さんに伝えたい「コスパ至上」の害悪と世界で起きていること #ガザ
世界最悪レベルの人道危機となっているパレスチナ自治区ガザへのイスラエル軍の攻撃。日本含む世界各地で、イスラエルへの抗議活動が行われていますが、米国で広がる大学での抗議活動について、元乃木坂46でタレントの山崎怜奈さんの報道番組での言動がネット上や一部のメディアで批判が相次ぐなど、炎上しました。山崎さんの発言は、「デモの有効性はどれくらいあるのか」と、番組に同席していた別のコメンテーターに質問を振るもので、デモ自体を否定するものではありませんでした。ただ、彼女の発言が批判された背景には、ガザ攻撃のあまりの深刻さに加え、日本社会が抱える「もの言わぬ主権者」などの問題があります。
*本記事はtheLetter「志葉玲ジャーナル」に配信したものに若干の加筆をしたものです。 https://reishiva.theletter.jp/
〇炎上した山崎さんの発言内容は?
炎上した山崎さんの発言は、日テレ系列の報道番組「ウェークアップ」(今月4日放送)の中でのものでした。ガザ攻撃を続けるイスラエルに対する抗議デモが米国のいくつもの名門大学で行われておりことを同番組で紹介、これに山崎さんは以下のように発言しました。
番組の流れの中で見ると、山崎さんはデモの意義を全否定しているわけではなく、その効果について質問を振るものだったのでしょう。質問を振られた元NHK記者の岩田明子さんも「(番組中紹介した)実際にガザの子ども達から有難うのメッセージが送られたように世界に影響を与えている訳ですね。ですから、(バイデン)政権としてもメッセージを受け取って何らか反映させないといけない状況になると思うんですよね」と答えていました。
ただ、山崎さんの発言は強い反発を招き、SNSやスポーツ紙、週刊誌系のネット媒体などで、「何もわかっていない平和ボケ」「コスパ志向の行き着く先」等と批判されるなど、燃え広がるように批判がネット上で殺到する、いわゆる「炎上」状態になりました(関連記事)。それは、一つはガザ攻撃による人道危機があまりに深刻なこと、そして、山崎さんの発言はその真意がどうであれ、聞きようによっては、反戦を訴えるか否かを損得や効果あるなしで決めるコスパ*至上主義かのようのにも受け取れることが大きいのではないか、と思われます。
*コストパフォーマンス、費用対効果のこと
〇爆撃等で3万5000人超が死亡、100万人が飢餓状態
ガザ攻撃による人道危機は、ますます深刻化しています。攻撃による死者は、本稿執筆時点で3万5000人を超え、その大半が女性や子どもだとされています。さらに瓦礫の下に約1万人の遺体が埋もれているとの情報もあります。本来、国際人道法によって攻撃が禁じられている病院や避難所となっている国連の学校等もイスラエル軍によって攻撃され、国連の職員も約190人が殺されました。
また、イスラエルはガザへの支援物資の搬入を極端に制限している上、包囲されたガザへの出入口となるガザ南部ラファへの攻撃を行っているため、人道支援関係者らもその活動が大きく制限され、100万人以上の人々が深刻な飢餓に苦しみ、実際に子ども達が餓死しています。国連などの発表によれば、支援が届かないことによる燃料不足で、病院が機能不全となり、特にICU(集中治療室)で治療を受ける患者、人工保育器を必要とする新生児や帝王切開が必要な妊婦などが脅かされているとのことです。
〇米国で学生達が声をあげる意味
こうした中、米国各地で学生達が声を上げているのは、米国こそがイスラエルにとって最大の支援国であるからです。米国は毎年38億ドル(現在のレートで約5900億円)もの軍事支援を行っており、ガザ攻撃にも米国産の兵器が使われていることが確認されています。
また米国の多くの大学はその基金による投資で利益を得ていますが、学生達は、大学がイスラエル関連への投資を引き上げることを求めています。ガザ攻撃が続く中、イスラエルへ投資することは、虐殺への加担だと言えるからです。つまり、米国の学生達はガザでの人道危機を自分ごととして捉えており、コスパや損得勘定で動いているのではないのです。
〇バイデン大統領も無視はできない
山崎さんが問うた「デモの有効性」という点でも、学生達の抗議活動はバイデン政権の姿勢に影響を与えていると言えるでしょう。様々な世論調査で、米国の若者層がガザ攻撃に心を痛めており、イスラエルを支持・支援してきたバイデン政権の対応に不満を持っていることが明らかになっています。例えば、米国大手テレビネットワーク「ABC」の世論調査(今年4月下旬)では、民主党支持者のうち、とりわけ40歳未満の世代の54%が「バイデン政権はガザの市民を守る努力を怠っている」と批判的に見ていることが示されました。学生達の抗議行動は、米国の各メディアが大きく取り上げており、米国の若者世代のバイデン大統領への反発を可視化しています。
今秋の大統領選での再選を目指すバイデン大統領にとって、若者達の声は無視できません。前回の大統領選(2020年)でも、18~24歳で34%、25~29歳で11%、トランプ氏より多く若者層の投票を得たことが、バイデン大統領の勝因の一つとなったからです(米ニュース専門放送局CNBCの報道)。
当初は、露骨にイスラエルを支持・支援してきたバイデン大統領ですが、若者達の声もあり、ここ最近は、その姿勢に変化が生じています。国連安保理で常にイスラエルのために拒否権を発動してきた米国ですが、今年3月25日のガザ停戦を求める安保理決議では「棄権」し、15ヵ国中14ヵ国の賛成を得て、停戦決議は採択されました。さらに、避難民が集中するガザ南部ラファへの大規模な攻撃を行おうとしているイスラエルをけん制、今月8日にはイスラエルへの爆弾などの兵器供与を停止しています。
同様に、やはりイスラエル寄りだった欧州の国々も、各地で大規模なデモが行われ、各国の政府のスタンスに変化をもたらしています。このように、学生達の抗議活動は、世界情勢に影響を与えていると評価すべきでしょう。
〇市民として声をあげることは大切
山崎さんの発言が反発を買った別の要因として、日本の特殊な社会状況もあるのでしょう。米国や他の先進国の国々では、人々が平和や環境のため、そして自らの権利のために声をあげ、デモなどを行うことは、ごく自然なことです。それは主権在民の民主主義国として、人々は自らを主権者だと意識しているからです。ところが、日本においては、デモなどの行動を起こすことに消極的な人々が多く、加えて特に若者や女性が声をあげようとすると、足を引っ張ったり、バッシングして潰そうとする意地悪い人々がネット上や実社会(含むメディア業界)に少なからずいます。こうしたことが社会全体を萎縮させ、様々な課題解決を阻む、一つの要因となっているのです。
こうした背景もあり、山崎さん本人の意図はどうあれ、その発言に「デモなんかしても無駄だし、むしろ失うものが多いなだけでは?」というニュアンスを感じた人々が一定数いたということなのではないでしょうか。
米国の学生達の抗議活動は、日本の人々にとっても他人事ではなく、ガザ攻撃の対応や、その他の様々な課題、私達、日本の人々自身の権利のためにも、市民として声をあげるなど、世界や日本で起きていることに主体性を持って関わろうとすることは、やはり大切なのです。
(了)