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一年の計は元旦だけにあらず。ガンバ大阪の復権に欠けたパーツを埋められるかが、タイトル奪還の鍵に

下薗昌記記者/通訳者/ブラジルサッカー専門家
中谷進之介やウェルトン、鈴木徳真、山下諒也ら移籍組が昨季のガンバ大阪を支えた(写真:つのだよしお/アフロ)

 ガンバ大阪にとっての2024年は、復権への胎動を確かに感じさせたシーズンだった。天皇杯決勝ではエース、宇佐美貴史の不在に泣き、ヴィッセル神戸に惜敗。9年ぶりのタイトル奪還は逃したが、J1リーグは4位でフィニッシュ。3年連続で残留争いに身を置いたチームは「V字回復」を果たしたと言っていいだろう。昨季、クラブが公的に掲げた目標はJ1リーグで「7位以内」。十分に及第点が付く成績ではあるが、タイトル奪還を果たす上で欠けていたのは「デランテロ・セントロ(スペイン語でセンターフォワード)」だった。

昨季の躍進の影には、指揮官のリクエストに応えた豪華補強あり

 前年、リーグワーストタイの失点数に喘いだ下位チームが、一気に躍進した理由はたった一つではない。

 2023年のホーム最終節で「腐った土から芽は出ない。恥と地獄の連鎖 誰が変える」と手厳しい横断幕を掲げたゴール裏のサポーターの心情は十分に理解できたが、結果論から言うとガンバ大阪の土壌は決して腐ってはいなかった。

 ダニエル・ポヤトス監督も開幕前から「現代のサッカーは走らないと勝てない。エネルギッシュさがない選手は今シーズン使えない、というのが自分の頭の中にある」とエースの宇佐美でさえ特別視しない厳しい姿勢を強調。その言葉が嘘でないことは開幕前のサンフレッチェ広島とのプレシーズンマッチやJ1リーグの開幕戦、FC町田ゼルビア戦では宇佐美をサブスタートに置いたことからも明らかだ。

 指揮官が耕そうとする土壌に「補強」という名の適切な肥料を与えたのはガンバ大阪の強化部である。

 ポヤトス監督が「最もプライオリティが高かった」と評した中谷進之介の獲得を筆頭に鈴木徳真、山田康太らも獲得。何より、前年「エストレーモ・プーロ(純然たるウイング)がいない」と指摘してきたスペイン人指揮官のリクエストに応えるべく、ウェルトンと山下諒也も獲得。レンタルバック組の一森純と坂本一彩も含めると、スタメンの半数以上が入れ替わった格好だ。

 これほどの豪華補強はクラブ史上例がなく、マグノ・アウヴェス、明神智和、加地亮が即チームにフィットした2006年のインパクトを上回るものだった。

自身初のベストイレブン選出も必然。中谷進之介は攻守でハイパフォーマンスを披露した。ガンバ大阪を生まれ変わらせた一人である
自身初のベストイレブン選出も必然。中谷進之介は攻守でハイパフォーマンスを披露した。ガンバ大阪を生まれ変わらせた一人である写真:つのだよしお/アフロ

クラブ史上屈指の堅守。そんなチームが露呈した限界とは?

 2024年はFC町田ゼルビア戦に次ぐリーグ2位の堅守を誇り、1試合当たりの平均失点数はわずかに0.921。クラブ史上最も堅守だった三冠イヤーの2014年の0.911にわずかに及ばなかったが、昨季のガンバ大阪は堅守をベースにしたチームだった。

 ただ、そんなチームの限界が露呈したのがヴィッセル神戸と対戦した天皇杯の決勝だった。

 11月23日の「国立決戦」の2日前、宇佐美は右ハムストリング肉離れで戦線離脱。あえてキックオフの直前にその離脱が発表されたが、結果的に二冠を制したヴィッセル神戸に対して、ガンバ大阪はエース不在を感じさせない好サッカーを演じていた。倉田秋を左ワイドに配置する戦術的な狙いを含めて、スカウティングに秀でたコーチングスタッフの力量が現れた一戦でもあった。

 昨季のJ1リーグでも上位3チームとの対戦を振り返ると2勝3分1敗。唯一敗れているホームでのFC町田ゼルビア戦も序盤は圧倒しながら、半田陸の退場劇で流れが変わり、敗戦を喫した格好だ。

 天皇杯決勝を振り返るとシュート数は6対6で全くの五分。決定機に至ってはガンバ大阪が上回ったが、やはり大一番になればなるほど、決定力がモノを言う。「得点を決められた場面はヴィッセル神戸のタレント性をもって一つの瞬間でやられてしまった」(ポヤトス監督)。

 宇佐美がいれば、と思わせる展開ではあったが、ストライカー不足はシーズンを通じた昨季の慢性的な課題でもあったことも事実である。

 「今年は本当に彼の力で上に来られていた」と宇佐美の存在を評価した中谷は、同時にこうも言い切った。「夏以降、貴史君以外で点を取れる人がいなかった。それはチームとして明確にあったし、改めてその課題が出た」。

 チーム最多の12得点を決めた宇佐美はアシストも8。二川孝広を彷彿とさせる華麗なパスや、遠藤保仁がかつてそうだったように、絶対的なボールの落ち着きどころとしても機能。なおかつ守備にも奔走した宇佐美を「得点力不足」の一因とするのはお門違いである。

 そしてプロ3年目に二桁ゴールを達成した坂本も、得点数以上の貢献度を見せていた。

 ただチームで3番目の得点数として4得点の中谷(もちろん驚異的なパフォーマンスで彼のキャリアハイである)が顔を出すところに、チームがクリアすべき課題がはっきりと伺えるのだ。

ポヤトス監督が欲するのは「デランテロ・セントロ」

 昨季、J1リーグの最終節を迎えた段階で3チームに優勝の可能性があったのは実に10年ぶり。あと勝ち点4を積み上げていれば、ガンバ大阪も数字の上で最終節に逆転優勝の可能性を残していた。

 サンフレッチェ広島との試合を翌日に控えた12月7日、充実のシーズンを過ごしてきたポヤトス監督に、返ってくるであろう答えをうすうす承知しながら、あえて問うてみた。

――ガンバ大阪があとわずかで最終節に優勝の可能性を残せなかった要因は。

 にこやかな表情を浮かべて、指揮官が口にしたスペイン語は短く、そして簡潔だった。

 「Gol(ゴル)」。聞かなくても分かるでしょ、と言わんばかりにポヤトス監督は二度、呟いた。

 もっとも、常に丁寧に応対してくれるポヤトス監督は、率直な思いも口にした。

 「本当にこの一年間、しっかりとチャンスを作ったり、いい試合をして相手を支配した自負はある。(イッサム)ジェバリの怪我もあったが、貴史や康太らデランテロ・セントロのタイプでない選手たちと過ごしてきて、やはり9番タイプ(ポヤトス監督は「デランテロ・セントロ」と表現した)、仕留める選手がいればなという思いは正直あった。そこがいたら本当にタイトル争いには関われたと思う」。

 もっともクラブも決して無策だった訳ではない。6月末には林大地を獲得し、シーズン終盤に向けてのテコ入れも図ったが、コンディションの問題もあって出場時間は1試合5分にとどまった。

 「エストレーモ・プーロ」に続いてスペイン人指揮官が求めるのは「デランテロ・セントロ」である。

 一年の計は元旦にあり、と言うが、ジェバリは2023年1月5日、ウェルトンにいたっては昨年の2月11日にそれぞれ加入が発表されている。

 来たれ、デランテロ・セントローー。

記者/通訳者/ブラジルサッカー専門家

1971年、大阪市生まれ。大阪外国語大学(現大阪大学外国語学部)でポルトガル語を学ぶ。朝日新聞記者を経て、2002年にブラジルに移住し、永住権を取得。南米各国でワールドカップやコパ・リベルタドーレスなど700試合以上を取材。2005年からはガンバ大阪を追いつつ、ブラジルにも足を運ぶ。著書に「ジャポネス・ガランチードー日系ブラジル人、王国での闘い」(サッカー小僧新書)などがあり、「ラストピース』(KADAKAWA)は2015年のサッカー本大賞で大賞と読者賞。近著は「反骨心――ガンバ大阪の育成哲学――」(三栄書房)。日本テレビではコパ・リベルタドーレスの解説やクラブW杯の取材コーディネートも担当。

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