鉄道廃止で「1時間から1時間半」に所要時間延びた北海道紋別市 観光振興に国防で名寄本線は復活すべき?
筆者は先日、JR石北本線の利用者が遠軽町内で宿泊する場合、宿泊費が最大で4000円助成されるという話を聞いたことから、1泊2日で遠軽町を訪問してきたことは、記事(JR北海道、石北本線利用で宿泊費「最大4000円」助成の遠軽町 実際に鉄道に乗り申請に行ってみた)でも詳しく紹介した。遠軽駅は、スイッチバック構造となっていることが特長で、札幌方面と網走方面のそれぞれからやってきた列車は、この駅で必ず進行方向を変えて、それぞれの目的地に向かって出発していく。
遠軽駅から先の紋別方面に続いていた名寄本線
しかし、この遠軽駅はもともとスイッチバック構造の駅だったわけではなく、1989年4月までは、現在、車止めが設置されているさらに先にも線路が続いていた。この路線は、遠軽駅から、中湧別、紋別、興部の各駅を経由して名寄駅までの138.1kmを結ぶ名寄本線という路線で、名寄本線にはこのほかに、中湧別―湧別間4.9kmを結ぶ支線も存在していた。
名寄本線沿線で最大の都市となる紋別市は、オホーツク海に面した人口約2万人あまりの街で、海上保安庁のほか裁判所や検察庁などの国家機関も置かれたオホーツク地方の中心都市である。観光の面でも紋別市はオホーツク地域の流氷観光の拠点となっている。遠軽町から紋別市までは47kmほどの距離があり、名寄本線があった時代は最速で1時間弱でアクセスができたが、現在の鉄道代行バスでは所要時間が1時間25分ほどに延びてしまった。
遠軽駅では紋別方面への乗り換え案内がない
筆者が旭川駅から乗車した網走行の特急大雪1号が遠軽駅に到着したのは14時45分のことであった。しかし、遠軽駅に到着しても、紋別方面に向かうバスの案内は特になく、駅前に出てあたりを見回してみてもバス停すらない様子であった。名寄本線の廃止から36年がたち、今では遠軽から紋別に行けることすら分からないという人が多くなったのではないかという印象すら受けた。
仕方がないので、筆者のスマートフォンで「遠軽 バスのりば」と検索したところ、駅から少し歩いた国道沿いに北海道北見バスの遠軽バスターミナルがあることが分かった。紋別方面へのバスはそこから乗車できるようだが、一見さんにはややハードルが高い乗り換えだ。
路線バスだと紋別往復に4時間、鉄道時代は2時間強だった
次に、遠軽から紋別に向かうバスの時刻を調べてみると、約1時間後の15時40分に発車する紋別行のバスがあることが分かった。紋別への到着時間は17時5分。遠軽―紋別間の距離は約47kmであるが、鉄道時代はこの間を約1時間で結んでいたのに対して、鉄道代替バスの所要時間は1時間25分と大幅に伸びていた。とりあえずこのバスに乗って紋別まで往復してこようかと思い、帰りのバスを調べてみたところ、18時20分に紋別を発車する最終便で遠軽には19時45分に遠軽まで戻れることが分かった。しかし、この日は消化しなければならないデスクワークがたまっていたことと、一般形の路線バスの車両に往復で3時間近くも乗り続けることは少々身体にこたえるという2つの理由から、今回は紋別行を断念し、また別の機会にリベンジをすることにした。
では、名寄本線があった時代はどうだったのかと思い、廃止直前となる1989年4月号の時刻表を見てみると、当時は遠軽駅を15時47分に発車する紋別行の普通列車が設定されており、到着時刻は16時52分。紋別駅からは16時54分発の遠軽行で折り返すことができ、これに乗れば遠軽駅には17時59分に戻ってくることができた。現在の紋別から遠軽に向かう最終バスの時刻は18時20分であるが、鉄道時代は前述の遠軽行の折り返し列車の後に、18時52分、20時31分、22時48分発の3本が設定されており、さらに最終に近い2本は快速列車で、最終列車の所要時間は58分と1時間を切っていた。
昨今の社会的変化から名寄本線の復活はあってもよい!?
1980年代に国鉄再建法のあおりを受けて北海道内の多くの鉄道路線が廃止され、バスに転換された。その際に多くの地域では、バスの方が本数と停留所が増え、鉄道よりも便利になると喧伝されたが、実際のところは鉄道よりも定時制が劣り、所要時間も延びる傾向があることから、乗客の減少に歯止めがかからず、溶けるように消えていったバス路線も多く存在する。2023年4月18日に参議院で開催された国土交通委員会では、鉄道廃止後の鉄道代替バスの利用者が5~7割減となる傾向があることが指摘された。このことは、筆者の過去記事(国会で明らかになったバス転換路線「利用者激減」の実態 バスは鉄道の代替交通としては機能しない)でも詳しく触れている。
北海道紋別市は、名寄本線廃止後は、遠軽駅からの乗り換えが分かりにくくなり、鉄道代替バスの所要時間も延びてしまったことから、かなり遠い土地になってしまった印象を受ける。ちなみに札幌から紋別まで行こうとした場合、1日3往復の高速バスで4時間20分かけて向かうか、旭川など鉄道で途中の駅まで行きレンタカーを使うか、4時間以上かけて自分でクルマを運転していくかの3パターンが主な選択肢となる。こうしたことから、鉄道の廃止により旅行者にとっても気軽に寄りにくい街になってしまっていると筆者は感じている。
先日、筆者はある観光関係者と意見交換をする機会があった。現在の日本では国策としてインバウンド観光の誘致を進めているが、日本にやってくるインバウンド客は、ジャパンレールパスでの移動を前提とするケースが多いことから、鉄道がある街のほうがインバウンド観光の効果は波及しやすいのだという。北海道では、直近では馬産地として名高い日高地方を走る日高本線を廃止してしまったが、この関係者は「日高本線の廃止で沿線は完全にインバウンド客の誘致を捨てたんだなと思った」と話していた。
紋別市についても名寄本線があれば、特急列車からの乗り換えで遠軽から1時間程度でアクセスできるようになり、インバウンド客を含めた旅行者にとっても訪れやすくなることから、流氷観光のさらなる活性化も期待できる。また、昨今、鉄道に対する新たな社会的な要請として、日本政府はトラックドライバー不足を背景に、今後10年間で鉄道貨物の輸送量を倍増させる方針を発表しているほか、防衛省でも自衛隊の装備品の輸送について積極的に鉄道貨物を活用していきたい姿勢を示しており、この10月14日には仙台から東京方面に96式装輪装甲車が貨物列車で輸送され、大きな話題となった。
現在、ロシア連邦と対峙する北海道のオホーツク海に面した鉄道路線は、ほぼ消滅してしまっているが、道路予算の5%を鉄道に回すだけで日本の鉄道網は劇的に改善できるという有識者の指摘も存在する。昨今の社会情勢の変化を鑑みて、インバウンドを含めた観光振興や国防面から見ても、せめて紋別までは名寄本線の復活があってもよいのではないだろうか。
(了)