前編
https://news.yahoo.co.jp/byline/ishikawakeiko/20230707-00356517
第三者委員会は誰のために働くのか
「よしいいぞ!」と思った切り口の質問ですがやや迫力に欠けます。「報酬額は開示されるのでしょうか」と加えてもよかったのでないでしょうか。多額の調査費用が支払われることが経営者に忖度するような結果を生み出す新たなリスクを生じさせてしまうのではないか、そこをチェックするためです。その報酬は組織のガバナンス改善のためだけに検証するのか、社会的説明責任まで背負うのか、多くのステークホルダーが注視している部分でもあります。補足しておくと、一般的に第三者委員会や検証では、数か月で数千万程度とかなりの金額と言われています。三菱電機は鉄道車両用空調装置等の長年の不適切検査について、調査関連で100億、検証で20億と記者会見(2022年10月22日)で回答しています。このような会見も無報酬ではなく、登壇者には相当な負担がかかる分多額の金額が支払われます。不祥事調査・検証ビジネスの側面もあるわけです。
この手の質問は回答が得られないと予測できます。「まだ1回しか会合を開催していないのになぜ今日会見を開くのですか?今までほぼ何も回答していないではないですか。調査期間や今後のスケジュール、予定や目標すら回答していません。網羅的な調査ではないとのことですが、幹部の聴取方法について回答していません。一般論しか回答していません。何についてなら回答するのでしょうか。3名の内1名が欠けているため顔出しにも至っていません。ジャニーズ事務所からとりあえず報道陣の前に立ってほしいと依頼されたのではないですか」としたらよかったのではないでしょうか。
危機時に混乱する名称は信頼回復を遅らせる
再発防止チームの位置づけを明確にする回答を引き出しています。それにしても第三者委員会ではなく「再発防止チーム」という名称は混乱させる名称であり、余計な質問や憶測を生じさせます。ジャニーズ事務所が事実に向き合っていない印象を与えてしまい、危機管理広報の視点から見ると、信頼回復を遅らせる不適切な名称です。
本当に何も回答していません。ここまでくると本当に何のための会見なのか、徒労感が出てきます。せめて3か月後に中間報告なり、スケジュールなりを公表します、程度のことを言えば、会見を開いた意味もあるものを。
引き受けた経緯を聞く質問はよかったと思います。一方、林さんらは幹部への聞き取りの進め方はやはり回答していません。特別チームからすると言えないのは十分わかりますが、司会からは「特別チームの今後の調査の進め方や取り組み状況について説明する」とアナウンスがありますので、会見の目的がわからなくなります。やはり単なる顔出し。睨みを利かせる会見だったのでしょうか。今、求められているのは、経営者の顔出しなのですが。
質問がよかったと思います。調査の手法もスケジュールも回答しない方針を立てている中、聞けることは「どう感じているのか」になるからです。このような質問は相手の問題意識、人柄を引き出すことが可能です。
アンケート調査をしない、ホームページを立ち上げない、といった方針を引き出すことができた質問だと思います。この回答から、かなり限定的な調査をすることが判明しました。しかしながら、このような受け身の調査で本当にいいのでしょうか。第三者委員会のガイドラインでは、「統制環境、コンプライアンスに対する意識、ガバナンスの状況などを知るためには社員を対象としたアンケート調査が有益なことが多いので、第三者委員会はこの有用性を認識する必要がある」とされています。嵐は天皇即位の祭典でも歌っていることからすると、税金が支払われていることになります。ホームページくらいは立ち上げる必要があるのではないでしょうか。後ろ向きの方針を感じさせる回答です。被害者目線だけではなく、組織構造だけではなく、社会構造的側面もありそうですから、国民目線を持った調査をする方向性が示されてもよかったのではないでしょうか。
本当に再発防止チームが会見開催を決めたのか?
ようやく会見の位置づけ、目的についての質問が出ました。やはり、ここは苦しい回答になっています。今回の会見について社長と何も話をしていないとのことですが、そうなるとこの会見は林さんと飛鳥井さんだけの判断で行った、そのように受け取れる回答です。しかし、まだ1回のみの会合だけで調査が進んでいない状態で林さんらが記者会見をしたい、と判断するものでしょうか。やはりジャニーズ事務所が会見をした事実を作りたいから彼らにお願いして開催したとしか見えません。ジャニーズ事務所のダメな対応に加担してしまったように見えます。もしかして、相当お金を積まれたのか、と疑いたくなってしまいます。
これは明らかに逃げてしまった回答です。彼らが検証するのはガバナンスであって経営責任です。したがって、法的責任ではなく、経営責任について回答する必要があります。なのに、「責任」を「問題点」とわざわざ言い換える必要があるのでしょうか。甘い視点が垣間見えてしまい残念。ここは前検事総長として威厳を示してほしい場面でした。ガバナンスの観点から経営責任は明らかにする、と言い切るのが被害者やステークホルダーへの説明責任であり、言いきれれば会見を開いた意味があったといえます。本当に第三者委員会は、クライアントから依頼された内容しか検証できないのでしょうか。責任を明確にしなくていい、と言われればそこまで踏み込めない。まさにかんぽ生命の第三者委員会はそう回答しています。一方、スルガ銀行の第三者委員会は、経営責任にまで踏み込んでいますから、絶対できないわけではなく、まさに委員会の方針次第といえます。
質問をもう少し具体的にしてもよかったと思います。マネジャーは現在何人いるのか、どこまで遡れそうか、喜多川氏以外で生存している加害者、見て見ぬふりをした人も含めて関与が疑われる人には受け身ではなく、チーム側からアプローチをするのか。被害者の心情に配慮はしても加害者の心情には配慮する必要がないので、網羅的に調査ができるのではないか、そのように加害者側にアプローチすることが再発防止につながるといえるのではないか、再発防止チームのミッションではないか、生存している加害者側に逃げ切れたと思わせることが次の被害を生んでいくのではないか、と。
赤旗二人目の質問も「感じ方」でした。このメディアの特徴なのかもしれないし、方針を回答しないから切り替えたのかもしれません。被害者支援、回復支援は、重要なテーマなので、質問も的を射ているし、飛鳥井さんの回答も「葛藤」「夢や希望」「性加害に耐える」「心の引き出しにしまった人」「整理できた人できない人」「悩んでいる人」といった被害者心理に寄り添った言葉が選ばれている内容でした。
ナカオさんの質問は極めて適切です。もっと踏み込んで「経営陣のガバナンスを調査する前に林さん達が記者会見することそのものが、経営陣のガバナンス崩壊に加担しているように見えるのです。なぜ林さん達はこの場にいるのでしょうか」と質問してもよかったかもしれません。
質問が最初の尾形さんと重なります。回答も同じ。手法について回答しないと林さんは決めているので質問の切り口を変えなければいけません。たとえば、「ジャニーズ事務所が設立してから何人をスカウトしたのか、あるいは応募の総数はどの程度だったのか、総勢何名が出入りしたのか、地域は北海道から沖縄まで全国から少年が来ていたのか、合宿所はいつからなのか、デビューしたのは総勢何名だったのか、こういったことは数として把握する重要性はあるとお考えでしょうか。我々メディアとしては全国民に関わる問題ととらえており、国民に知る権利があると考えていますが」としていれば国民を背負った質問になったのではないでしょうか。
第三者委員会メンバー選定プロセス透明化は大きな課題
第三者委員会メンバーの独立性、関係性、経緯、批判・指摘への受け止め方への質問と回答があり、緊張感のある質疑応答でした。東芝の不祥事、旭川市いじめ問題でも批判されたように、第三者委員会についてはメンバー選定のプロセスが不透明な点が問題視されてきています。
■動画解説 リスクマネジメント・ジャーナル(日本リスクマネジャー&コンサルタント協会)*前編掲載と同じ動画になります。
前編
https://news.yahoo.co.jp/byline/ishikawakeiko/20230707-00356517
後編へ(近日掲載)