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【新型肺炎】指定感染症になるとどうなる?

忽那賢志感染症専門医
(写真:つのだよしお/アフロ)

1月27日に安倍総理大臣が新型コロナウイルス感染症を指定感染症にすると発言されました。

新型コロナウイルス感染症が指定感染症になると、これまでとどのように対応が変わるのでしょうか?

自称「史上最も感染症法に定められた感染症を届け出た感染症医」の立場から考察しました。

感染症法に指定されている感染症

日本では感染症法(感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律)という法律があり、これに基づいて届け出や、場合によっては隔離などの対応が行われています。

感染症法では感染力や重症度などに応じて1類感染症から5類感染症まで分類されています。

感染症法に指定されている感染症(筆者作成)
感染症法に指定されている感染症(筆者作成)

例えば、今もコンゴ民主共和国で流行しているエボラ出血熱は1類感染症、新型コロナウイルスと同じコロナウイルスであるSARSやMERSは2類感染症に定められています。

これらの感染症は、診断されれば管轄の保健所に届け出ることになっており、国が全体の発生数の把握をし、必要に応じて対策を講じることができます。

さらに1類感染症、2類感染症については感染の拡大を防ぐために都道府県知事が必要と判断した際には入院措置を取ることができます。

1類感染症、2類感染症を診療する医療機関

感染性や病原性の強い1類感染症、2類感染症を診療する医療機関も定められています。

2類感染症を診療するのは第2種感染症指定医療機関(348施設)、1類感染症と2類感染症を診療するのは第1種感染症指定医療機関(55施設)となっており、さらに「未知の病原体による感染症」と認定された新感染症を含め1類・2類感染症を診療する特定感染症指定医療機関(4施設)が指定されています。

第2種感染症指定医療機関の指定状況(平成31年4月1日現在)

特定および第1種感染症指定医療機関の指定状況(平成31年4月1日現在)

指定感染症とは?

指定感染症とは、感染症法に以下のように記載されています。

「指定感染症」とは、既に知られている感染性の疾病(1類感染症、2類感染症、3類感染症及び新型インフルエンザ等感染症を除く。)であって、第三章から第七章までの規定の全部又は一部を準用しなければ、当該疾病のまん延により国民の生命及び健康に重大な影響を与えるおそれがあるものとして政令で定めるものをいう。

出典:感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律(平成十年法律第百十四号)

ちょっと一見すると何を言っているのか分かりませんが、要するに「これまで感染症法に指定されていない感染症のうち、緊急で患者の行動を制限することが必要な場合に、一定の期間に限って措置を行えるようにする」というものです。

これだけ噛み砕いてもまだ分かりにくいとは思いますが、さらに要すれば「臨時で特定の感染症を感染症法の中のいずれかのカテゴリー一時的に当てはめることができる」というものです。

一時的とは、通常1年、必要に応じてさらに1年延長し2年、というものであり、その後も必要であれば審議の元に1類〜5類のうちのいずれかに指定されることになります。

今回の新型コロナウイルスの病原性や感染性を考慮すれば、おそらく2類感染症相当とされる可能性が高いと考えます。

これまでに指定感染症になった感染症としては鳥インフルエンザやSARS、MERSなどがありますが、いずれも指定感染症になったあとは2類感染症として定められていますので、2類感染症相当となった場合は、その後2類感染症に指定される可能性が高いでしょう。

指定感染症になるとどうなる?

指定感染症になることによるメリットとして、以下が挙げられます。

1. 患者に対する入院措置を取ることができる

これまでは新型コロナウイルス感染症の患者において入院が必要だと医師が判断しても、患者が拒否すればそれ以上は強制力がないという状況でした。指定感染症となると法に基づいて隔離措置を取ることができるようになります。

これにより、感染性の強い患者からの伝播を防ぐことが可能になります。

2. 入院費が公費負担となる

また、これまで新型コロナウイルス感染症の患者が入院になった場合、比較的軽症であり入院を望んでいない場合も患者自身が自費で診療費を支払う必要がありました。指定感染症になることで公費から入院費用が賄われることから、患者の負担なく隔離措置を取ることができるようになります。

つまり「お金がないから入院したくない」というような事例を防ぐことができます。

3. 届け出が必須となり発生動向調査が容易となる

現時点では新型コロナウイルス感染症が疑われた場合も、保健所や行政に届け出ることは義務ではなく協力ベースであることから取りこぼしが生じる可能性があります。

指定感染症になることで、診断した際に届け出ることが必要となることから全数把握がより正確になるという利点があります。

4. 接触者の把握が容易になる

患者と濃厚接触した人が今後新型コロナウイルス感染症を発症しないかを追跡することは非常に重要ですが、今の状況では接触者に協力をお願いするものであり法的強制力はありません。指定感染症になることで、接触者の調査をより確実に行うことができるようになります。

5. おそらく医療従事者の感染リスクが減る

感染症指定医療機関はエボラ出血熱、SARSやMERSなどの感染性・病原性の強い感染症の診療に備えるために日頃から訓練されている医療機関です。

新型コロナウイルス感染症と確定診断された患者の診療を、新興感染症の診療の備えが十分ではない病院を含めた全ての医療機関で対応するよりも、感染症指定医療機関のみに絞った方が医療従事者の感染リスクは下げることができるだろうと考えます。

指定感染症になるデメリットは?

では新型コロナウイルス感染症が指定感染症になることでデメリットはあるのでしょうか?

私が考えるデメリットは以下です。

1. 感染症指定医療機関に負荷がかかる

現時点では全ての医療機関が新型コロナウイルス感染症の診療を行うことになっていますが、指定感染症になることで確定診断された症例は感染症指定医療機関のみで診療することになります。

患者数が多くない現時点では対応可能と考えますが、今後国内でも流行が広がるとすると指定医療機関に負荷がかかりキャパシティを超える可能性があります。

万が一、症例数が感染症指定医療機関のキャパシティを超える場合には早期に感染症指定医療機関以外の医療機関でも診療できるように改正する必要があると考えます。

2. 感染症指定医療機関以外の病院での警戒度が下がる

新型コロナウイルス感染症が指定感染症になることで「うちの病院はこれで関係ない」と考え警戒を緩める医療機関があるかもしれません。

しかし、新型コロナウイルス感染症の患者は最初から感染症指定医療機関を受診するわけではありません。

疑い例と判断されるまで、あるいは確定診断されるまではそれ以外の医療機関も診療する可能性があります。

指定感染症になることで、かえって警戒が緩み医療従事者の感染リスクが高くならないことを願います。

3. 人権に関わる問題

強制力をもって人を病院に入院させるということは人の行動を制限する行為です。

もちろん感染症の広がりを防ぐために必要な行為と考えられるからこそこのような措置が取られるわけですが、そのために自由な行動を制限される人がいることに我々は自覚的である必要があります。

以上、新型コロナウイルス感染症が指定感染症になることに関するメリットとデメリットについて挙げてみました。

私個人の考えでは、指定感染症になることでデメリットよりはメリットが大きいのではないかと考えますが、今後の国内での症例数の推移次第では指定医療機関の医療従事者の負担が大きくなるため、その際には柔軟な対応が求められるところかと思います。

感染症専門医

感染症専門医。国立国際医療研究センターを経て、2021年7月より大阪大学医学部 感染制御学 教授。大阪大学医学部附属病院 感染制御部 部長。感染症全般を専門とするが、特に新興感染症や新型コロナウイルス感染症に関連した臨床・研究に携わっている。YouTubeチャンネル「くつ王サイダー」配信中。 ※記事は個人としての発信であり、組織の意見を代表するものではありません。本ブログに関する問い合わせ先:kutsuna@hp-infect.med.osaka-u.ac.jp

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