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中国がなぜか力を入れる「隣国で『危険な未知の肺炎』が広がっている」情報の発信

西岡省二ジャーナリスト/KOREA WAVE編集長
「未知の肺炎」に対する注意を喚起する中国大使館のウェブサイト=筆者キャプチャー

 中国当局が最近、「隣国の中央アジア・カザフスタンで新型コロナウイルス感染症よりも致死率がはるかに高い『未知の肺炎』が広がっている」と発信し、関係国の注意を引いている。カザフ当局は「新型コロナの第2波」と位置付けているとみられ、中国側と見解の相違が生じている。中国共産党系メディアは隣国キルギスで市中肺炎(一般的な肺炎)が起きているともあえて報じており、中国側の意図を探る向きもある。

◇新型コロナより強い

 中国の在カザフスタン大使館は9日、公式ウェブ上で、カザフスタン在住の中国人に向けて「未知の肺炎」に対する注意を喚起するメッセージを掲載した。

 その中に、カザフメディアの報道を引用する形で「6月中旬以降、アティラウ、アクトベ、シムケントでの肺炎の発生率が大幅に高まっている」としたうえ「これまでに500人近くが感染し、30人以上が重篤な症状」と記している。今年前半にこの肺炎で中国人を含む1772人が死亡、6月だけで628人が亡くなり、「致死率は新型コロナウイルス感染症よりもはるかに高い」としている。

 カザフスタン保健省や関係機関が肺炎ウイルスに関する比較研究を進めているものの、まだ原因を究明できていない、としている。

 中国共産党機関紙・人民日報系「環球時報」は、現地の中国企業職員の話として「『未知の肺炎』は、症状が新型コロナウイルス感染症によるものと似ていて、発熱と呼吸困難がある。ただ、このウイルスはより強力で、2~3日後には呼吸不全の症状が表れる」と伝えた。

 環球時報は現地報道を引用する形で、カザフ衛生責任者が8日に「この肺炎に関する詳細を近く発表する」と表明したと伝えた。この責任者はカザフ国内の肺炎患者が新型コロナウイルス感染症と診断された人の2~3倍はいると述べた――としている。

◇カザフ側は慎重な見方

 カザフスタンは中国新疆ウイグル自治区に隣接し、人口は2019年推定で1855万人超。世界保健機関(WHO)によると、同国での新型コロナウイルスの感染状況は、7月9日までに感染者5万3021人、死者296人。

 同国のトカエフ大統領は5日、「新型コロナウイルスの感染急増」を理由に、第2ラウンドの規制に乗り出した。中国の主張する「未知の肺炎」については触れられておらず、あくまでも「新型コロナの第2波」とみなしているようにみえる。

 ロシア国営テレビRTは「中国のカザフ大使館が未知の肺炎に対する警告を発している」との事実関係を伝えたうえ、カザフの衛生責任者の「この肺炎患者の多くは新型コロナウイルス感染とは診断されていない」との見解を紹介した。一方で「新型コロナウイルスの検査がしばしば正確さに欠けているという事実があり、これによって説明されるということもあり得る」とも指摘し、不正確な検査によって新型コロナウイルスが検出されなかったという可能性にも言及した。

 日本の在カザフスタン大使館のホームページでは「ギニヤト保健省次官は7日、(カザフ)国内に(新型)コロナウイルスPCR検査で陰性だった肺炎患者2万8000人が入院中であると発表した。うち98.9%が中等症状(軽症と重症の間)」としている。

 こうした数字の原因が、PCR検査による新型コロナ検出が不十分だったためか、あるいは中国の主張する「未知の肺炎」によるものなのか、現状でははっきりしない。米CNNテレビも「中国大使館の発表を独自に検証することができなかった」としている。

◇「キルギスで市中肺炎」報道

 また、環球時報は10日付で「警告!『市中肺炎』がキルギスに出現、8日だけで42人死亡」との見出しの記事も配信した。

 カザフスタンに隣接するキルギスでも今年3月から市中肺炎が起き、7月8日時点で新型コロナウイルス感染症を含め310人が死亡している、とした。

 環球時報が伝えたキルギス当局発表(7日)によると、今年3月から7月7日にかけ、全土で224人が市中肺炎で死亡。7月6日だけでも死者は29人に上るとしている。だが9日の発表時には「市中肺炎」という用語には触れられなくなった、という。

 キルギスの人口は2019年推定で641万人余り。WHOによると、同国での新型コロナの感染状況は、7月9日までに感染者8847人、死者は116人にとどまっている。

ジャーナリスト/KOREA WAVE編集長

大阪市出身。毎日新聞入社後、大阪社会部、政治部、中国総局長などを経て、外信部デスクを最後に2020年独立。大阪社会部時代には府警捜査4課担当として暴力団や総会屋を取材。計9年の北京勤務時には北朝鮮関連の独自報道を手掛ける一方、中国政治・社会のトピックを現場で取材した。「音楽」という切り口で北朝鮮の独裁体制に迫った著書「『音楽狂』の国 将軍様とそのミュージシャンたち」は小学館ノンフィクション大賞最終候補作。

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