階層型組織はもう限界か? Z世代とベテランは「混ぜたら危険」!
■1時間の会議より10分のLINE
「会議は全部LINEで」
Z世代と会議をする場合、すべてLINEでやってみた。そういう社長がいた。
今年のはじめ、経営課題を洗い出すために、世代ごとに3つのプロジェクトチームを作って、発表させる取り組みをした。
新人と先輩社員(19歳~25歳)で構成されたチームが実際に集まったのは、顔合わせの1回目だけだ(それもオンラインミーティングだった)。
それ以降の会議はすべて「LINE」が使われたという。LINEでグループを作り、チャットで意見交換を繰り返した。
社長もその中に入って、やり取りを見守ったのだが、
「驚くほど活発に意見交換されていた」
と言う。
リーダーを決めるときも、プレゼンターを決めるときも一瞬で決まった。メンバーの顔色をうかがう必要がないせいか。19歳や20歳の若者も遠慮がない。
リーダーが、
「日ごろ課題だと思うこと発言して」
と呼びかけると、
「本社勤務の人も工場の清掃を経験してほしい」
「安全衛生について研修があるといい」
「学歴で給料の差がつくのは時代遅れと思う」
といった意見が出てきた。23歳~25歳の先輩たちもしっかり受け止め、そのうえで発言した。
「年功序列の考え方を見直したほうがいいかも」
「安心して長く働ける会社にすべきだとも思う」
「総務の私も工場で1年ぐらい働くべきかな」
短い文章で、次々とメッセージが交換される。毎回テーマを決めて意見交換をするため、10分もあれば十分だった。
「議事録は?」
「スクショでいいよ」
なんと毎回の議事録を、LINEのスクリーンショットで提出してきた。プロジェクトを統括する事務局が戸惑っていたが、
「議事録なんて内容がわかればいい。フォーマットを決めてるわけじゃないんだから」
と言って、社長が許可を出した。固定観念にとらわれないところが、若者のいいところだ。そう社長は再認識した。
いっぽう、別の世代はどうか?
■無駄だらけなのに仕事が速いベテランたち
入社10年目以降のメンバーで構成されたチーム(29~35歳)は、
「きわめて、物足りない」
と社長は断じた。
すべてオンラインミーティングで実施されたのだが、初回からグダグダだったと言う。
「吉田さん、参加してないですよね」
「急ぎの仕事があって、忙しいらしい」
「そんなの、みんな一緒ですよ」
「そもそも、このプロジェクトの目的って何ですか?」
……と、やる気のない発言が続く。1時間経っても、リーダーやプレゼンター、書記などの役割分担さえ決まらず、解散となった。
実務以外のプロジェクト運営に不慣れなせいか、様子見、腹の探り合いが続き、毎回会議は1.5~2時間以上かかった。
「経営課題を考えろと言われても……」
「役員が考えることでしょ」
「こんなプロジェクトをやること自体が課題ですよ」
社長が同席しているのにもかかわらず、おかまいなしだ。毎回不満ばかりが噴出する。日ごろから目の前の仕事に追われているせいだろう。
入社20年目以降のメンバーで構成されたチーム(主に40~50代)はどうか。
「良くも悪くも、余裕ありすぎだ」
と、社長は苦笑していた。
会議はすべてリアルで、定時後の夜7時から。にもかかわらず、毎回時間通りに始まらない。緊張感がなく、無駄なお喋りも多い。
「佐藤課長はどうしたんですか?」
「遅れるらしいですわ」
「あの人のことだから、一杯ひっかけてやってくるんじゃないの?」
「佐藤課長ならあり得るな~」
「この前なんか取引先で泥酔して、先方の経理部長から電話かかってきたよ」
「佐藤なら、やりかねんな!」
「ハハハハハ!」
といった具合だ。社歴が長いせいか、気心知れたメンバーが多い。仕事の話だけでなく、家族や趣味の話で花が咲く。なかなか会議が始まらない。
開始時間から20分遅れでスタートしてもお喋りが続き、テーマに沿って意見交換が始まったのは、さらに15分後という有様だった。
しかし、ここからが違う。
「リーダーは誰がやりますか?」
「そりゃあ、佐藤課長でしょ。初回から遅れてきたんだから」
「そんなのある? じゃんけんにしましょうよ」
「ダメダメ!」
「はい、決まり!」
「参ったな~」
このような調子で、サクサク決まる。リーダーもプレゼンターも書記も、すぐさま決定した。8時過ぎには終了し、
「さて、飲みにでも行きますか」
「私は車なので、お先に」
有志のメンバーだけで繰り出していく。毎回の会議はこのような調子で、きわめて生産性が低い。出てくる経営課題や解決策も、日ごろから部門会議で出されているものばかりで、目新しさがなかった。
だが、意思決定は速い。同質性が高く、みんな同じ価値観だからだろう。
「若い人の主体性が低い。これに尽きますな」
「こらえ性がないんです。最近の子は。何を考えているかわからない」
「物流の新人も、辞めたらしいですよ」
「3年ぐらいガマンできんのか。ったく」
「何か困ったことがあったら、すぐに相談に来いと言うんですがね」
■Z世代とベテランは「混ぜたら危険」?
それぞれの世代のチームに関わってみて、社長は、
「とても勉強になった」
「今まで意識してこなかったが、これではマズい」
と言った。
若者のチームはまとまりがよく、プロジェクトに対しても肯定的に受け止めるメンバーが大半だった。まだ経営や組織について理解が乏しい分だけ、現実的ではない改善案が目立った。が、意外にもプロジェクトの運営に関しては非常に効率的だった。
中堅のチームはまとまりがなく、プロジェクトにも後ろ向きだった。経営や組織に関して学んだことも、意識したこともないせいか、
「何を考えたらいいか、わからない」
という意見が目立った。プレゼンも、現場の作業や実務に関する課題が大半で、中堅社員の視野の狭さが浮き彫りになった形だ。
ベテランチームは若者チームと同様、プロジェクトに対して肯定的に受け止めるメンバーばかりだった。経営に近い立場なので、課題設定も改善提案も現実的。プレゼン内容も驚きはなかった。問題は、プロジェクト運営の生産性が著しく低かったことだ。この取り組みの成果を
「メンバー同士がさらに仲良くなった」
としていることにも、社長は違和感を覚えた。
それぞれの世代のコミュニケーションの取り方を見て、
「当社の経営課題が浮き彫りになった」
と社長は手ごたえを掴んだそうだ。次の言葉が強く印象に残っている。
「『混ぜたら危険』だ」
■階層型組織はもう限界か?
多くの日本企業がそうであるように、この会社も「縦割りの組織」だ。それぞれの部門は、40~50代のミドルマネジャー、そして30代の中堅社員、20代の若者というメンバー構成になっている。
だいたい会議では、40代の部課長が一方的に喋り、30代の中堅社員は黙って聞いているだけ。ほとんど口を開かない。
「積極的に発言するように」
「わからないことは、何でも聞いて」
と言われている20代の若者たちは、最初のうちだけは発言する。しかし、
「まだ経験が浅いから」
「意見を言う前に、まずはやってみて」
と、たびたび言われると、徐々に何も発言しなくなる。日ごろから「発言しろ」と言いながら、その発言を受け止める気がないとわかるからだ。最悪の場合は、
「自分の存在も受け止められないだろう」
と思うようになり、会社を辞めていく。だから「混ぜたら危険」なのだ。階層型組織はもう限界なのかもしれない。