新型コロナウイルスと闘う3階級制覇の名王者
WBCミドル級、IBFスーパーミドル級、WBAライトヘビー級と3階級を制し、2度にわたってあのトーマス・ハーンズを下したアイラン・バークレーが、臥せっている。
2月上旬に咳と痰が止まらなくなり、嗅覚を感じなくなったため病院で診断を受けると、即、入院となった。
2月10日、バークレーは周囲に「テストの結果、新型コロナウイルスに感染したって言われた。でも、酷い状態ではない。与えられた薬を飲み、体調が良くなった。日に日に回復しているよ。今週中に退院できると思う。飲んでいるのはステロイドじゃないかな」と語っていた。
が、その後、酸欠状態に陥ると同時に激しい咳が続き、体重が9キロも減ってしまう。今尚、コロンビア長老教会病院に入院中だ。
本コーナーでも何度か取り上げているが、私にとってバークレーはかなり思い入れのある選手だ。
3階級制覇を成し遂げたものの、防衛回数はゼロ。常にスター選手の斬られ役をあてがわれながら、「咬ませ犬にも牙がある」様を見せて来た。
長い付き合いのなか、彼もまた言ったものだ。
「プロモーターのボブ・アラムにとって、俺は単なるスケープゴートだった。奴隷契約を強いられたんだ」
彼の言葉は決して誇張ではない。1988年6月6日、バークレーはスター王者であるトーマス・"ヒットマン"・ハーンズを3回KOで下し、WBCミドル級タイトルを獲得する。しかし、左目の網膜剥離に見舞われた。十分な休養も治療時間ももらえぬまま、初防衛戦が決まる。相手は、<石の拳>と謳われたロベルト・デュランだった。
「俺が闘った中で、最強だったのはデュラン。彼と試合が出来たことを誇りに思っている。でも、チャンピオンであった俺以上のファイトマネーをデュランが手にしたのは納得いかない」
私と出会った頃は元王者の老兵として、昔の名を買われてリングに上がっていた。それでも、バークレーは「他にカネの作り方を知らない」と、リングに固執した。その姿が切なかった。※詳しく知りたい方は、拙著『マイノリティーの拳』(光文社電子書籍)をご覧ください。
現役引退後、ホームレスとなり、ニューヨークの地下鉄の駅を寝床としていた時期もある。やがてシェルターに引き取られると、音信が途絶えた。
が、甥っ子であるセイクワン・バークレーがNFLのスター選手となり、ここ数年は経済的援助を受けて、シェルターを脱したと聞いていた。
バークレーには2度の離婚歴があったが、2015年末に3人目の伴侶を娶り、幸せに暮らしているようだった。
入院前のバークレーと会ったというジョージ・フォアマンの実弟、ロイにメッセージをお願いすると、先程ロイから返信が届いた。
「ほんの少し前に電話で話せた。思ったよりも元気そうな声だった。ドクターも、いい意味でアイランの回復に驚いているらしい 。引き続き、皆で祈ろう」
1960年生まれのバークレーは、5月9日に61歳になる。その日までには完治して、笑顔でバースデイを迎えてほしい。
取材時のバークレーの心の叫びは、今でも私の胸に突き刺さっている。