Yahoo!ニュース

関係の深い日豪野球界。オーストラリアンベースボールリーグへの加盟を目指す「チーム・ジャパン」とは?

阿佐智ベースボールジャーナリスト
2018年に大阪で行われた日豪戦

 ポスト・コロナの光明が見えてくる中、開催が延期されていたWBCが来年に行われることになりそうだ。それを見据えて、日本代表チーム、侍ジャパンも活動を再開。日本ハム、巨人との試合を経て、明日から対オーストラリア代表2連戦に臨む。

 北京五輪出場権をかけたアジア選手権を前に2007年11月に福岡で行われた強化試合(2試合)以来、オーストラリアはたびたび侍ジャパンのテストマッチの相手として来日している。現地にはオーストラリアン・ベースボール・リーグ(ABL)という2010年に発足したプロリーグがあるのだが、北半球とは野球シーズンが逆のウィンターリーグにとって、日本の野球シーズン直後の代表戦は、まさにシーズン前の最終調整といっていいものである。開幕に向けてすっかり仕上がっているオージーたちが侍ジャパンにどうまみえるのか楽しみなところである。

 現在ABLには8球団が加盟している。発足当初は国内6都市に本拠を置く6球団で構成されていたが、2018⁻19年シーズンより隣国のニュージーランドのオークランドのチームに加え、韓国人選手で構成されるチームがメルボルン近郊の港町、ジーロングに根を下ろして活動することになった。両チームはコロナ禍の中、過去2シーズンは活動を休止していたが、今シーズンを迎えるにあたってABLに復帰している。

 そんな国際色豊かなリーグに、日本人チームが参加を計画していることが、5月に報じられた。この「チーム・ジャパン」は果たしてどのようなチームになるのか。仕掛け人であるスポーツマネジメント会社を率いる加藤謙次郎氏に話を聞いた。

元侍ジャパンスタッフが仕掛ける野球のグローバル戦略

侍ジャパンスタッフだった加藤氏(右)(本人提供)
侍ジャパンスタッフだった加藤氏(右)(本人提供)

 加藤氏は、東京ヤクルトスワローズのフロントスタッフから侍ジャパンの運営会社、NPBエンタープライズを経て独立したスポーツマネジメントのプロだ。現在は多くのスポーツ選手やスポーツイベントのマネジメントを行っている。

 加藤氏の下に「チーム・ジャパン」の話が舞い込んできたのは、2年前のことだという。ABLはかねてより、日本人チームの参入を企画しており、日本側でもそれに応じようとする動きもあった。しかし、採算面がなかなかクリアできず、現在までABLの日本人選手の参加は、NPB球団や社会人実業団チームからの派遣と独立リーガーやプロ志望者の個人参加にとどまっている。

 ニュージーランドにできた新球団、オークランド・トゥアタラと元NPB選手の橋渡しを行った実績のある加藤氏は、ABL側からの打診に当初、3カ月間にわたるレギュラーシーズンのフル参加には採算面において不安を感じた。とりあえず短期間のスポット参戦なら可能ではないかとこれをABLに打診。まずは、試験的に日本人チームを派遣して、実績を作った上で、本格参戦するという二段構えの構想を打ち立て、2021-22年シーズンからこの計画を実行に移すべく動き始めた。

 ところが、スポンサー集めにもめどが立ち、元NPBの大物選手をはじめとする陣容も整い始めた矢先に、豪州政府から外国人に対する入国後3週間待機義務の通達があり、結局、このシーズンの参入は断念することとなった。

国外に飛び出す「独立リーグ球団」のイメージ

 この「チーム・ジャパン」の陣容について、既報では、あたかもNPB選手を中心としたメンバーで臨むような報道がなされていたが、基本は「フリーエージェント」、つまりNPBに所属の無い選手が中心となりそうだと加藤氏は言う。つまりは独立リーグ球団が国外に飛び出すようなイメージだ。

「一種のトライアウト的なものと考えていただいて結構です。プロを目指している選手、あるいはNPB球団をリリースされた選手がベースになるということです。NPB各球団とも話をしていきたいとは思っていますが、現状はそんなところです」

 すでに同様の試みは韓国でなされている。先述のABL新規参入球団、ジーロング・コリアは、韓国プロリーグKBOをリリースされた者や、日本の独立リーグやアメリカのマイナーでプレーする者、韓国のドラフトから漏れた者で構成されていた。球団はオーストラリアでの食住は保証するものの、基本的に選手報酬はなしというまさにトライアウトチームというべきものである。

ABLの韓国人球団ジーロング・コリアにはMLB傘下のマイナーリーガーも参加した。
ABLの韓国人球団ジーロング・コリアにはMLB傘下のマイナーリーガーも参加した。

 しかし、加藤氏の構想では「チーム・ジャパン」はプロリーグに参戦する以上、選手にはそれなりの報酬を払う予定だ。

「ABLはプロと言っても、NPBやKBOに比べればまだまだ未熟なリーグです。例えば、私がかかわったシーズンのニュージーランド球団の場合、日本人選手は5人いましたが、当時ドジャースのマイナーに所属していた北方悠誠(北九州フェニックス退団)は、アメリカのプロ球団からの派遣選手ということで、オークランド球団は彼には報酬を支払ってないはずです。一方、私がマネジメントした元ヤクルトの村中恭兵には給料が出ていました。彼らの他、独立リーガーが2人、現地採用の日本人選手が1人いましたが、彼らのうち1人の話では、無報酬でずっとやっていて、年明けから給料が出たらしいです」

 日本から選手を送り、報酬を支払い、チームを遠征させるとなると、当然それなりの資金が必要となる。来シーズンからの本格参戦の際には、韓国人チーム、ジーロン・コリアと同じくしかるべき町に本拠を置く予定だというが、そうなると、球場の賃貸料、選手寮の費用もかかってくる。フランチャイズを置いたところで「外国人チーム」に多くのファンを望むことは難しい。そうなるとスポンサーシップが収入の柱となってくるであろうが、そのあたりの目算は立っているのだろうか。

「おそらく1000万円単位の初期費用は必要となってくるでしょうね。本格参入は来年なので、トライアウト後の営業が重要になってくると思います。当たり前ですけれども、現段階でお金を出すよというスポンサーは少ないと思うので、今シーズンの遠征でどれだけ実績を作るか、形として見せていくかというところ次第かなと思っていますが、今までの自分の経験から考えて、大丈夫じゃないかと思っています。ABLサイドとは、何度もオンラインミーティングをして、この12月に試合を行って問題がなければ、来年の春には正式に参入の決断をするということになると思います。そういう大きな流れはすでにABLとは共有しています。もうすでに、ABL側では本拠地の選定の話も進んでいて3箇所ぐらい候補が出ています。中には新球場を建てる計画もあるそうです。オーストラリアはスポーツチームへの自治体の支援も厚いのでそこもあてにはしています」

日本だけでなく広くアジア各国からも選手を募る

 上位プロを目指す、ある種の独立球団というのがコンセプトのようだが、スポンサー獲得には、高いレベルの選手を集めることは必須だろう。NPBやメジャーリーグ経験者のネームバリューも必要だと思われる。その点についても、まずは国内各独立リーグとの連携を進めている最中だ。あるいは、もっと国際的に視野を広げて、日本以外からも選手を獲得することもあると加藤氏はいう。

ABLへは台湾のCPBLも選手を派遣している。
ABLへは台湾のCPBLも選手を派遣している。

「ABLには過去には台湾のプロリーグ、CPBLからの派遣選手もいました。放送権料のことも考えると、こういうところからも選手を獲得できればと思います。実際、韓国人チームの場合、ネット配信が収入源になっているというふうに聞いています。まだ、詳細はわかっていないんですが、インドに野球に投資をしたいという会社がひとつあるらしいんですよ。本当に投資をしてくれるのであれば、インド人選手を受け入れることも可能です。まあ、技量面を考えれば、当面は練習生ということになるのでしょうが、それでも双方にとってウィンウィンではないかと思います。

 国際的な視野という点では、選手が目指すところは別にNPBだけということでなくていいと思います。実際、ニュージーランドでプレーした日本人選手のもとには、メキシコのチームから話もありましたから。私の頭の中ではABLは、アメリカ、メキシコのスカウトの視野にあるという認識です」

 指導者についても、当然NPBのOBを考えているというが、スポンサー集めのためには、是非とも「ビッグネーム」が欲しいところだ。しかし、加藤氏はこの点については、慎重さを崩すことはない。

「基本、日本人の指導者を探して、行ってもらうという感じですね。監督1人にコーチ2人かな。確かにビッグネームは欲しいですが、そういう方に監督として3カ月向こうに行ってくださいとなると、日本で仕事のある方だと、その仕事をキャンセルしてもらわねばならない。そうなると、それなりに金額が必要になってくるので、監督、コーチは若い方にお願いして、ネームバリューのある方にはアンバサダー的に顔を出していただくような形になるとは思います」

ニュージーランドの新規参入球団、オークランド・トゥアタラには多くの日本人選手が参加していた。
ニュージーランドの新規参入球団、オークランド・トゥアタラには多くの日本人選手が参加していた。

 結局、諸事情があり、今シーズンの参加は見送りとなった。まだまだ前途は多難なようだが、加藤氏は「チーム・ジャパン」実現に邁進している。それは、単なるビジネスではなく、「日本野球」に関わった者の宿命だと考えているからだ。

「来シーズンもスポット参戦から始め、その翌シーズンから本格加盟ということになりそうです。私自身、今の仕事はビジネスにうまみを感じてやっているというよりは、野球界への恩返しのつもりでやっています。侍ジャパンでお仕事をさせてもらって野球界全体を見ることができた経験を球界のために活かしたいという使命感のほうが強い気はします。とにかく、今はチームづくりと、事業づくりをリンクさせている段階です。是非とも実現させたいですね」

 日豪の野球を通じた交流は、68年前の巨人による遠征までさかのぼることができる。長い交流の歴史に新たなページを加えるべく、オーストラリアプロ野球への「チーム・ジャパン」の挑戦は動き出している。

(特記のない写真は筆者撮影)

ベースボールジャーナリスト

これまで、190か国を訪ね歩き、23か国で野球を取材した経験をもつ。各国リーグともパイプをもち、これまで、多数の媒体に執筆のほか、NPB侍ジャパンのウェブサイト記事も担当した。プロからメジャーリーグ、独立リーグ、社会人野球まで広くカバー。数多くの雑誌に寄稿の他、NTT東日本の20周年記念誌作成に際しては野球について担当するなどしている。2011、2012アジアシリーズ、2018アジア大会、2019侍ジャパンシリーズ、2020、24カリビアンシリーズなど国際大会取材経験も豊富。2024年春の侍ジャパンシリーズではヨーロッパ代表のリエゾンスタッフとして帯同した。

阿佐智の最近の記事