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2018 高校野球10大ニュース その8 甲子園未経験の札幌大谷が秋の日本一!

楊順行スポーツライター
札幌大谷の五十嵐大部長は駒苫時代、田中将大(写真)の1年上で連覇を達成(写真:岡沢克郎/アフロ)

「まだなにが起きたのか……信じられない気持ちです」

 第49回明治神宮大会。星稜(石川)との決勝を2対1で競り勝った札幌大谷(北海道)ナインがマウンド上に集まり、人さし指を1本立てて頭上に掲げる。北海道勢としては2005年、駒大苫小牧以来となる神宮大会V。もともと人さし指を立てて"ナンバーワン"をアピールするのは、04年夏の甲子園、北海道勢として初めて全国制覇した駒苫によるパフォーマンスだった。

 そのナインたちを見ながら、札幌大谷の船尾隆広監督がしみじみというのだ、「信じられない」と。それはそうだ、男女共学化を機に創部してから10年目。2016年春に北海道で優勝しているものの、今年の夏は南北海道大会で初戦負けと、甲子園にはまったく縁がないチーム。それがこの秋の北海道大会を制すると、初出場の神宮大会でも優勝し、秋の日本一に輝くのだから。

甲子園未経験で秋の日本一

 各地区大会優勝校が出そろうなかで、札幌大谷の勝ち上がりは力強かった。龍谷大平安(京都)との初戦は、初回に大量得点して逃げ切り。甲子園未経験の新鋭が、春夏通算101勝の名門ブランドを破ったわけだ。国士舘(東京)戦は打線が爆発し、筑陽学園(福岡)との準決勝では、筑陽打線が「大谷で一番いい投手」と警戒する右横手・太田流星が変幻自在の投球で、8回まで無安打とあわやノーヒット・ノーランの好投を見せる。

 決勝の相手は星稜。「世代一、二のピッチャー。見てみたかった」(北本壮一朗)という奥川恭伸を擁し、来春センバツでも優勝候補の一角だ。その奥川は連投の先発を回避したが、大谷打線はU15日本代表の1年生・荻原吟哉に苦しんだ。6回まで3安打無得点。だが7回、2死二、三塁から北本が中前に抜ける逆転タイムリーを放つと、エース・西原健太が1安打1失点の好投で守り切った。神宮大会4試合で20得点、チーム打率.309はまあ平均的としても、4人の投手で防御率1.50は出色だ。

 野球部の創部は、男女共学化した09年のことだ。中高一貫校で、中学時代は札幌大谷シニアでプレーした選手の多くが、そのまま入部する。16年のリトルシニア全国選抜で8強入りしたメンバーが、現チームの主力だ。中高一貫校だから、中学生は大会が終わった3年夏以降は高校の練習に参加できる。もともと能力の高い選手が多いうえ、一足早く高校野球に慣れているから、現チームはもともと「力のある年代」と評判だった。さらに就任4年目の船尾監督は、函館有斗(現函館大有斗)時代に2度甲子園に出場し、社会人(新日鐵室蘭、NTT北海道)時代には日本代表まで経験している。また五十嵐大部長は04、05年と夏を連覇した、あの駒苫の主力である。つまり、甲子園メソッドを熟知するから、指導の内容も充実しているわけだ。 

駒苫には、執念があった

「(五十嵐)先生がいうには、"駒苫には執念があった、練習から1球を大切にした"」

 というのは五番を打つ石鳥亮で、たとえば練習中、外野からの連携でラインが少しでもずれると、そこをイヤというほど突き詰めていく。エースの西原は、「(駒苫OBの)田中将大投手の気持ちの強さについて、よく聞きます」という。ちなみに、田中将大夫人の里田まいさんは同校の出身というのも、なにかの縁か。

「新チームのスタート時は、北海道で優勝することが目標」(飯田柊哉主将)だったが、その道大会は駒苫との準決勝、札幌第一との決勝ともに、4点差をはね返しての優勝。多少のことにはうろたえない勝負強さは、神宮の決勝終盤でも発揮されたことになる。来春、出場が確定的なセンバツでも、その勝負強さは大きな武器だ。

「優勝したことは、素直にうれしい。でもここはゴールじゃなく、センバツに向けては雪が降る冬場に練習し、もっと強くならないと」

 と西原はいう。秋の日本一は果たした。次は、道勢初めてのセンバツ制覇だ。

スポーツライター

1960年、新潟県生まれ。82年、ベースボール・マガジン社に入社し、野球、相撲、バドミントン専門誌の編集に携わる。87年からフリーとして野球、サッカー、バレーボール、バドミントンなどの原稿を執筆。85年、KK最後の夏に“初出場”した甲子園取材は64回を数え、観戦は2500試合を超えた。春夏通じて55季連続“出場”中。著書は『「スコアブック」は知っている。』(KKベストセラーズ)『高校野球100年のヒーロー』『甲子園の魔物』『1998年 横浜高校 松坂大輔という旋風』ほか、近著に『1969年 松山商業と三沢高校』(ベースボール・マガジン社)。

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