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ノルウェーのスローテレビ「トナカイの移動編」が開始!約1週間、延々と生放送

鐙麻樹北欧・国際比較文化ジャーナリスト|ノルウェー国際報道協会理事
のんびりと視聴できる癒し番組トナカイ編がスタート Photo: NRK

24日、ノルウェー国営放送局NRKで大人気のスローテレビ「トナカイの移動編」がスタートした。

鉄道や船の車窓からの風景、鳥の巣箱の中、犬の子育てなど、数台の限られたカメラのみで、編集せずに延々と生放送する人気シリーズだ。

編み物をする映像(12時間半)、サーモン釣りをする様子(24時間)など生放送時間は長時間に及ぶ。人口520万人の国にもかかわらず、2011年に放送された沿岸特急船からの景色編(134時間)は320万人が視聴、暖炉でパチパチと薪が燃えるシーン(12時間)は100万人が視聴した。

今回はトナカイの独自のスピードで移動が始まり撮影隊も動くため、放送時間は「5〜7日間を予定」と特定されていない。放送予定日は21日だったがトナカイが移動を開始しないため、3日遅れての放送となった。

約1週間の間は、NRKの第2チャンネル「NRK2」でニュース時間を除いて生放送、電子版では全てが放送され、スタッフが視聴者からの質問にネットで答えている。

冬から夏の季節の変わり目の牧草地から牧草地の移動はおよそ130キロに及ぶ。地上や上空からの映像、トナカイに取り付けたカメラでその様子を伝える。トナカイの放牧を行っているのはスカンジナヴィア半島に住む先住民族サーミ人。サーミ人家族の協力のもと、サーミの文化や音楽も紹介される。

この時期は夜中も真っ暗にはならないため、深夜を過ぎた時間帯でも空がうっすらと明るい色に染まっており、視聴には困らない。

北極圏では通信状態が悪いため、放送中に映像が乱れるというハプニングも続出している。

スローテレビといえば、動物たちが何をするか予想がつかない「ドラマ」も視聴者の間では人気がある。

初日の放送でも、トナカイが目の前のカメラをじっと見つめていたり、トナカイの足しか映らない映像、カメラの前で糞をする光景が。また、「トナカイ」がテーマにも関わらず、何分間もトナカイがいないシーンも続出しており、「トナカイはどこ?」と視聴者がツイッターなどのSNSやNRKのサイトでやり取りしている。これまでのスローテレビでは見られなかった、番組スタッフの姿もテレビには映る。

北極圏ならではの美しい自然の風景も見応えがある。ピンク、黄色、オレンジ色に染まる空など、首都オスロでは筆者は見たことがない空の色合いの変化には驚いた。

のんびりとしたノルウェー音楽もかかるため、これまにないほどの「癒し番組」になっている。司会者もほとんど番組では話さないため、音が一切なく、自然やトナカイのシーンだけが放送される時間も多い。「何も起こらない。それが最高だ」とNRKにコメントしている人もいる。

筆者の隣で一緒にテレビを見ていたノルウェー人は、リラックスしすぎて居眠りをしていた。今回は運がよければ、オーロラが輝く中で移動するトナカイが撮影されるかもしれないと期待されている。

Text:Asaki Abumi

北欧・国際比較文化ジャーナリスト|ノルウェー国際報道協会理事

あぶみあさき。オスロ在ノルウェー・フィンランド・デンマーク・スウェーデン・アイスランド情報発信16年目。写真家。上智大学フランス語学科卒、オスロ大学大学院メディア学修士課程修了(副専攻:ジェンダー平等学)。2022年 同大学院サマースクール「北欧のジェンダー平等」修了。多言語学習者/ポリグロット(8か国語)。ノルウェー政府の産業推進機関イノベーション・ノルウェーより活動実績表彰。北欧のAI倫理とガバナンス動向。著書『北欧の幸せな社会のつくり方: 10代からの政治と選挙』『ハイヒールを履かない女たち: 北欧・ジェンダー平等先進国の現場から』SNS、note @asakikiki

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