「知識」で圧倒する話し方
●人を動かす2種類の知識
人を動かすためには、圧倒的な知識量があると容易になります。知識とは、大きく2つに区分できます。
1)第1の知識(調査すれば入手できる情報)
2)第2の知識(体験から来る理解)
ひとえに「知識」と言っても、教科書やインターネット上に載っている言語データを指すだけではなく、体験を通じて理解した事柄や、何かを達成しようとして生み出した知恵や工夫も含みます。話し手がこれら2種類の知識を手にしていると、トーク技術をそれほど磨かなくとも、人を説得し誘導できる可能性が高まります。
しかも、その知識の量が圧倒的であれば、聞き手は反論する力を喪失するどころか、話し手の知識量に感動し、快く動いてくれることでしょう。それでは、どのような知識に威力があるのでしょうか? 話し手が話す「内容」、「態度」の視点で解説していきましょう。
●調査によって獲得する情報には、ディテールが必要――第1の知識
まず話す「内容」に関して解説します。
「第1の知識」は、調査することによって知り得る情報を指します。人を動かすうえでとても有用です。抽象的で曖昧なものではなく、聞き手が驚くほど豊富な情報を手にしていると、聞き手に対してインパクトを与えることができます。ここで表現している情報を「ミクロ情報」と「マクロ情報」の2つに分けて紹介します。
1)ミクロ情報
「ミクロ情報」とは、普通の人なら注意を向けないほどの細かい情報のことを言います。
2)マクロ情報
「マクロ情報」は、物事の向こう側に広がる背景や世界についての知識です。たとえば統計データがあれば、「選好の逆転」「社会的証明の原理」といった心理効果も働き、聞き手の信頼を勝ち取ることが、より簡単にできます。
どんなに話し手が知識をひけらかせても(たとえ表面的な知識であっても)、聞き手はあまり細かいことまで聞いていません。しかし話し手がそれだけの知識を備えていることに聞き手は感嘆し、「この人に任せたら安心だ」と受け止めるのです。ですから「安心・安全の欲求」が満たされるのです。相手をプロだと認めるのです。
●体験から来る知識が奥行きをつくる――第2の知識
「第1の知識」は、キチンと勉強したり調査すれば頭に入れることはできます。資料やメモなど手元に置いておくこともできることでしょう。しかし、所詮、調べた情報は表面的な知識です。「うわっ面のデータ」であることに変わりはありません。話し手にその体験がなければ、他者や本からの受け売りなどと受け取られてしまい、説得力に厚みをつけることはできません。
そこで、体験した者でないと味わうことのできない知識が必要なのです。これが「第2の知識(体験から来る理解)」です。この知識にとりわけ「一般常識を覆す内容」が盛り込まれると、聞き手に驚きと感動を与えます。
「お客様、家を建てる際、家の耐震性を判断材料にするかもしれませんが、現在は建築基準法で制定されている基準はクリアしないと建てられないのです。これは、数百年に一度発生する地震に対して倒壊・崩壊しないという基準ですので、それほどナーバスにならなくてもいいのです。それよりも、家具や棚が地震によって倒れないようにする工夫のほうがもっと大事なのです。そうすることで、工賃が大幅に安くなり……」
体験した者でしか味わうことのできない知識が提供されますから、前述した疑似体験のレベルがいっそう高くなります。話し手の体験談が聞き手に役立つかどうかは、あまり関係がありません。話し手が実際に体験していると、自然に心がこもり、情熱も注入されます。話し手の感情は、相手を動かすうえでとても大きな材料になります。
学習や調査する習慣を身に着け、圧倒的な「第1の知識」を身につけましょう。そして新しいことを果敢にチャレンジし、体験の量を増やし、これまた圧倒的な「第2の知識」を身につけましょう。体験だけあってもいけません。「神は微細に宿る」と言います。どんなに小さく、役に立つかどうかわからないぐらいの知識も身につけるのです。勉強だけしていてもいけません。爆発的な行動量で失敗体験も重ねることで、知識に奥行きができるのです。膨大な言語データを持っていれば、多少、口ベタであっても、人を動かし、説得することはできます。