春畑道哉 ソロ活動35周年、さらに“深化”した“歌う”ギター。新作にCharが楽曲提供し、共演が実現
ソロデビュー35周年、11枚目のオリジナルアルバム『SPRING HAS COME』は“テーマ曲”が満載
今年ソロ活動35周年を迎えた、TUBEのギタリスト・春畑道哉が3年振りのソロアルバム『SPRING HAS COME』をリリースした。春畑は1987年にソロデビューアルバム『DRIVIN’』を発表し、これまでにインスト中心の10枚のソロアルバムをリリースしている。憧れのCharとの共演が実現したニューアルバムについて、春畑にインタビューした。
「この3年間、ありがたいことに色々なところからテーマ曲を、というリクエストをいただいて、その曲達がどんどん溜まってきて、早くアルバムにして出したい、という気持ちが大きかったです」。その言葉通り、日本初の女子プロサッカーリーグとして昨年秋にスタートしたWEリーグの公式アンセム「WE PROMISE」、2020年の『WRESTLE KINGDOM 14 in 東京ドーム』のテーマ曲「Kingdom of the Heavens」など、サッカーや格闘技などのテーマ曲が多く収録されている。春畑は「Jリーグ」のオフィシャルテーマ曲を始め、アンセムになるテーマ曲を作り続けているイメージがある。
「インストは歌詞がないので、イメージが広がりやすいからではないでしょうか。歌にするとそのチームだけのものになってしまいますが、インストは聴いた人それぞれが色々なことをイメージできるし、解釈できるのでオファーしていただけているのだと思います。『Kingdom~』は、格闘技のテーマ曲は初めてなのでお話をいただいた時は嬉しかったです。ヘビーなギターのリフとかも合いそうだし、緊張感のあるアルペジオも合いそうだし、是非やりたいと思いました」。
そう春畑が言うように『Kingdom~』はヘビーメタル、オルタナティヴロックの激情と繊細さを感じさせてくれ、試合前の緊張感~リング上での爆発力が感動を呼び、試合を終える…そんなレスラーの姿が浮かんでくる。
「J’S THEME(Jのテーマ)~FRONTIER ver.~」は自身が1993年のJリーグ開幕時に作った公式テーマソング「J‘S THEME(Jのテーマ)」を、コロナ禍で開催ができないという苦境に立たせれ、しかし再びファンのため、自分達のために立ち上がろうとする選手の心を鼓舞する、“今”の空気を纏わせ、更新した。
「当時確かまだ10代だったと思いますが、Jリーグのテーマ曲を書く時、レコード会社のスタッフから“お前が死んだ後も流れる曲だから、真剣に作れよ”って言われたことを思い出しました(笑)。コロナ禍でJリーグもストップしてしまって、手探り状態で再開するにあたって、選手のモチベーションを第一に考えた村井(満 元Jリーグ)チェアマンから、その時のための新たなテーマ曲を、というオファーをいただきました」。
「自分からは出てこないコード進行、曲調、グルーヴを、Charさんが作ってくださいました」
「このアルバムの核になる」と春畑が語る、Charが書き下ろした「I feel free(feat.Char)」は、「小学校の時からテレビで観ていた」憧れのギタリストからの贈り物に、ギター少年・春畑の心は躍った。Charがインスト曲を他のアーティストに提供するのはこれが初めてだ。
「今まで接点がなく、去年フェンダーのチャリティプロジェクト『Fender 75th Anniversary Charity Project - We Love Music』企画に参加させていただいて、そこで初めてCharさんとじっくりお話する機会があって。僕はきっちり準備して、正確にメロディを弾くタイプで、Charさんはその真逆で、感覚的、瞬発的にギターを弾くかたなので、僕が作れないコード進行とか曲調、グルーヴのものを作って欲しいですとお願いしました。それでしばらくしたら、Charさんがご自分でウーリッツァーを弾いて、コンガを叩いてギターを弾いて歌っているデモをいただいて、カッコイイ!って一発でしびれて、このままファンの人に聴いて欲しいと思いました(笑)。今回初めて知ったコードがたくさんあって、勉強になりました」。
「Charさんと一緒に弾きたいってなかなか言えなくて…(笑)」
「Charさんからも『このアレンジを越えるものを作って欲しい』というメッセージをいただき、レコーディングメンバーも気合が入って、2テイクくらいですごくいいグルーヴを作り上げてくれました。レコーディングで、Charさんに一緒に弾きたいとなかなか言えなくて(笑)、Charさんのダビングの日に行きますと伝えて、こっそり自分のセッティングもしておいて『次、ギターの掛け合いお願いします』って言って一緒に弾きました。1テイク目からすごくいいものが録れて、Charさんが『記念にもう1テイクやっておく?』と言ってくださってやったのが、この音源です」。
「Period.」ではチェロとの出会いで、また新しい音を作り上げている。
「歳を重ねてくると、大切なかたを亡くしたり、周りで新しいことを始める人も増えてきて、前向きなピリオドというのもあると思って書いた曲です。先日のBillboardLiveツアーで初めてチェロを入れて、なんて奥深い音なんだって感動しました。どんな高域でもハモれるし、和音でカッティングみたいなこともできるし、すごく好きになりました」。
そのBillboardLiveツアー横浜公演でのライヴ音源が収録されている「ノスタルジア」は、春畑のピアノの音色が美しく響く作品。童謡のような温もりを感じる始まりで、途中コミカルな描写があって、最後はノスタルジーな空気を連れてくる。
「生まれ育った町田の風景、エピソードを思い出して断片的なものを繋ぎ合わせたイメージです。コミカルと感じていただいたところは、僕が自転車で逃走しているシーンなんです(笑)」。
歌う、春畑のギター
どの作品でもそうだが、今作も全編を通して春畑のギターが“歌っている”。サビはどこまでもメロディアスで、雄弁なギターは深化している。「曲を作る時は、基本的にはギターもピアノも使わないで、譜面と向き合って落とし込んでいきます。TUBEの曲を書く時も同じです。これは昔から変わっていなくて、最初からタイトルがあると、そのイメージで広げていくこともあります。曲を作っていて、これはTUBEでやってみようという曲も結構あります」。
「TUBEもソロもどちらも面白い。真逆のことをやっているので楽しい」
TUBEの代表曲のほとんどを手がけるメロディメーカーでもある春畑は、バンドとソロ活動の違いをどう捉えているのだろうか。
「どちらも面白い。TUBEはもう家族より長い付き合いで、出会った頃からその関係は何も変わっていなくて。ミーティングではいまだに爆笑が起きて、とにかく楽しさが続いている感じです。ソロとは真逆のことをやっているなあと思いながら、楽しんでいます(笑)」。
このアルバムで、とことん気持ちいいグルーヴを作り出している「絶対的な信頼を置くメンバー」と、そのまま4月29日からスタートしたソロツアー『MICHIYA HARUHATA LIVE AROUND 2022 SPRING HAS COME +next』で全国(広島、福岡新潟、大阪、神奈川、愛知、東京)を回る。
「レコーディングもライヴも、何も言わなくてもどんどん気持ちよくしてくれる頼もしいメンバー。一曲目の「Spring has come」は、ツアーのスタートもいい季節だし、その一曲目にこのメンバーで演奏したいなと思って作りました」――ライヴで聴きたくなるアルバムだ。
『MICHIYA HARUHATA LIVE AROUND 2022 SPRING HAS COME +next』初日、4月29日戸田公演をレポート
というわけで、ツアーの初日4月29日の戸田市文化会館を観に行った。「ライヴをやり続けてきた人生なので、コロナ禍で会えなくなったファンの人と、とにかくコミュニケーションを取りたかったので、配信ライヴもやりました。でもやっぱりライヴってファンと一緒に作るものだと改めて実感しました」と語っていただけに、オープニングナンバーの「Spring has come」のギターのカッティングからは、ファンの前で、ファンと共にライヴができる歓びが伝わってくるようだった。サックスとの掛け合いも、観ている方が嬉しくなるくらい楽しそうだ。これが久々のライヴというファンも多かっただろう。最初から総立ちで体を揺らし、手拍子をし、音を心から楽しんでいた。
奥野翔太(B)とDREAMS COME TRUEを始め多くのアーティストのサポートをしているSATOKO(Dr)という、若いリズム隊が作りだす太く、エネルギー溢れるリズムに、TUBEでもおなじみの宮崎裕介(Key)、春畑の盟友ともいうべき存在の勝田一樹(Sax)という凄腕ベテランミュージシャンが紡ぐ音が重なり、素晴らしいグルーヴを感じさせてくれた。もちろんその中心にいるのは、正確無比かつ自由に、高らかに歌う春畑のギターだ。素晴らしいバンドアンサンブルだ。特にこのメンバーでアレンジを練り上げた「I feel free」は圧巻だった。やはりこのアルバムの核になっている。
「ライヴでやるのが初めての曲、普段ツアーではやらない曲もやります」
「ニューアルバムを軸に、35周年なのでライヴでやるのが初めての曲、普段ツアーではやらない曲もやります」と語っていたように、『SPRING HAS COME』の作品を中心にレアな曲もセットリストに含まれ、客席は一音も一曲も聴き逃さないという気持ちがどんどん前のめりになっていくのが伝わってきた。様々な映像がスクリーンに映し出され、春畑のギター、バンドの音が、客席ひとり一人の想像力をくすぐる。それぞれの思いをより深く巡らせることができる、インストライヴならではの極上の時間だ。
ツアーはスタートしたばかりなので、詳細は書けないが春畑を含め、ミュージシャン全員が心から音楽を、ライヴを楽しんでいる。それが客席に伝わり一体感が生まれる。これをいいライヴと言わず何というのだろう——そう感じたツアー初日だった。