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岡山県「おんな相撲大会」が4年ぶりに開催 出場してわかった力士のすごさと相撲の奥深さ

飯塚さきスポーツライター
横綱になったのは写真中央の「柳腰」こと柳谷裕子さん(写真はすべて筆者撮影)

「おんな相撲大会」出場に至る経緯

「相撲大会、出てみる?」「うん、出る!」

筆者の前職の同僚であり友人の阿部悦子さんは、女相撲の大会で20年以上にわたり活躍した「横綱」である。「悦乃海」の四股名をとる彼女は、岡山県鏡野町の上齋原神社で行われる「おんな相撲大会」で過去5回優勝し、「永世横綱」の称号を得た。ここのところコロナの影響で開催できていなかった同大会が、今年実に4年ぶりに開催されるということで、ふと筆者も出場しないかと誘われたのだ。決断の速さは冒頭の通り。大変楽しみにはしていたが、筆者本人としては比較的軽い気持ちで決めたのだった。

岡山駅から車で約2時間。徐々に山深くなっていく景色を横目に、悦乃海とのドライブを楽しんで到着した上齋原神社は、土俵を中心に活気にあふれており、「いつもより人が多い」と人々が異口同音に話していた。皆この大会の開催を心待ちにしていたのだ。

会場の上齋原神社。歴代横綱のフラッグが立っていた
会場の上齋原神社。歴代横綱のフラッグが立っていた

自作のうちわでお母さんを応援する子どもたち。応援にも熱があった
自作のうちわでお母さんを応援する子どもたち。応援にも熱があった

町興しの一環の神社のお祭りとあって、とてもアットホームで和気あいあいとした雰囲気に心が和む。取組前に行われた神事では、永世横綱・悦乃海の土俵入りや相撲甚句が披露されるなど、やはり相撲は日本の文化なのだなと思い知らされた。

永世横綱・悦乃海の土俵入り。堂々とかっこいい姿を見て、自分が彼女の友人であることをあらためて誇らしく思った
永世横綱・悦乃海の土俵入り。堂々とかっこいい姿を見て、自分が彼女の友人であることをあらためて誇らしく思った

取組前にはオリジナルの相撲甚句が披露された
取組前にはオリジナルの相撲甚句が披露された

相撲に初挑戦!結果は…

いよいよ取組が始まる。トーナメント方式のため負けたら終わりだが、前夜に永世横綱から少々手ほどきを受けたのと、筆者は上背があるので(身長174cm)、女性相手であれば1回くらい勝てるのではないかと本気で思っていた。対戦相手も小柄な女性だ。悦乃海からの「貴ノ浪さんのように、外四つでいって相手を自分の高さまで持ち上げて前に出るんだよ」というアドバイスをしっかり頭に入れて臨んだ。しかし――。

立ち合いは相手を見てふわっと立ってしまった。その後上から両まわしを取りに行ったが、相手は低い体勢で力強く押してきて、気づけば一瞬にして土俵際。目の前の景色が空を通過してぐるりと一周回ったかと思えば、頭の後ろで「ゴン!」という鈍い音が響いた。相手から見ればそれこそ「シャミチ」。驚くほど何もできなかっただけでなく、後頭部と右足首を打ってくるぶしをすりむくというおまけ付き。東京であれだけ口々に「ケガだけはしないでね」と言われてきたというのに、本当にケガしてしまった。笑うしかない。とぼとぼと土俵を後にし、しばし呆然としたのちに救護へ向かう。「痛かったねえ」と手当をしてくださった救護の人の優しさが、傷口に染みた。

あらためて思い知った力士のすごさ

こうして、私の人生初の相撲体験は苦い黒星に終わった。わかったのは、普段接している力士の皆さんの本当のすごさと相撲の難しさ。そして、負けたらちゃんと「悔しい」のだということ。悔しさを自認したときは自分でも意外に思ったが、これも新たな発見だった。しかし、参加者、応援に訪れた人、運営スタッフを含め地元の人々の明るい笑顔に触れ、終始楽しさと高揚感で心が満たされていた。さらには、応援に来ていた子どもたちが、大会後に地面に円を描いて相撲を取る光景を見て、不覚にも目頭が熱くなった。大会を通じて多くの子どもたちが相撲を好きになってくれるといいなと思うと同時に、こうしたイベントは後世に残していかなくてはならないものだと強く感じた。

白熱した取組の数々
白熱した取組の数々

相撲自体は無様だったし、反省点を挙げればキリがないが、実際に体験したことで、相撲の難しさや奥深さをまざまざと見せつけられた筆者は、これから大相撲を見る目がいままでと違ってくるだろうと思っている。岡山の突き抜けるような青い空と高い山々に囲まれながら今後の取材執筆活動を思い、私自身もなんだか少し、大きくなれたような気がした。「出てみる?」と誘ってくれた悦乃海をはじめ、岡山で出会ったすべての人に、感謝の意を表します。

悦乃海(右)と筆者で記念撮影。貴重な経験を本当にありがとうございました!
悦乃海(右)と筆者で記念撮影。貴重な経験を本当にありがとうございました!

スポーツライター

1989(平成元)年生まれ、さいたま市出身。早稲田大学国際教養学部卒業。ベースボール・マガジン社に勤務後、2018年に独立。フリーのスポーツライターとして『相撲』(同社)、『大相撲ジャーナル』(アプリスタイル)などで執筆中。2019年ラグビーワールドカップでは、アメリカ代表チーム通訳として1カ月間帯同した。著書『日本で力士になるということ 外国出身力士の魂』、構成・インタビューを担当した横綱・照ノ富士の著書『奈落の底から見上げた明日』が発売中。

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