住宅街に農園?北欧流:自然と暮らす コロナ渦で地域支援型農業がもたらす安心感
コロナ渦で人は自然との時間をより求めるようになるのだろうか。
北欧ノルウェーでは山やフィヨルドなどの自然が恵まれているために、もともと人生でアウトドア時間の占める割合が大きい。
自然と共存するライフスタイル「フリルフツリヴ」や自然をみんなで共有する「自然享受権」もある。
日本でもアウトドア時間が増えているようで、ノルウェーでの自然と共存する暮らしについての問い合わせがメディアから増えてきた。
18~27日、ノルウェーでは全国各地を「エコ週間」が開催中。毎年恒例の行事で、ノルウェー産のオーガニック食材との暮らしを祝うためのものだ。
19日はオスロ郊外にあるリンデルード農園を取材した。エコ週間の一環で農園を開放し、小さなカフェを開いたり、花の販売などが行われていた。
9月といえばもう冬を感じる寒さのはずだが、気候危機のためか20度近いあたたかさだった。
ソーシャルディスタンスを取りながら、市民は畑での収穫や野外カフェを楽しんでいた。
60年代から住宅街だったこの地域だが、たった数か月で彼らは空き地を「畑」にしてしまった。
ここにはメトロ駅から徒歩10分ほどでアクセスでき、住宅街の中にある小さな農園となっている。
栄養度の高い土を運び、畑を耕し始めたのは4月。ノルウェーでは新型コロナによる社会封鎖が始まったのは3月からだった。市民にとって耕す作業が良い気晴らしになったのだろうと想像できる。
世界各地で起きている都市の農園化や自分たちで食物を栽培するコミュニティ活動「エディブル・シティ・ネットワーク」にこの都市農園は属している。
市民がそれぞれの畑を耕す市民菜園とは違い、ここには農園全体を管理する庭師のようなまとめ役がいる。消費者が代金を前払いして、定期的に農作物が提供される「地域支援型農業」をしているのだ。
リンデルード農園では地域市民が3000~4000ノルウェークローネ(約3万4千円~)ほどの年間料を支払い、畑で獲れた作物を収穫するだけでなく、栽培などにも携わることができる。
販売可能な花や野菜をテスト栽培するなど、食物生産の研究もおこなわれている。
「市民はドゥーグナード(dugnad)として農業をすることができる」と責任者のひとりであるアグネス・メルヴァールさんは取材で話す。
ドゥーグナードは独特なノルウェー語で、「みんなで地域社会のために無償で助け合う」ことを意味する。
過去記事での一例:北欧流・社会の変え方 市民はこうして政治に影響を与える
リンデルード農園を耕す作業が始まった5月頃、地域市民はその魅力に夢中になったという。今は有料会員が60人ほどいる。
農業は天候にも左右されやすいが「今はこの作物が好きなだけ収穫できますよ」と会員に連絡をする。
コロナ渦で都市農園の需要はますます高まったとメルヴァールさんは感じている。
「市民の関心が高くなったのは明らかです。ジャガイモや玉ねぎを欲しがる人が多いですね」。
「もしお店で食品を買えなくなったらどうなるのだろうと、コロナ渦で考える人が増えた。脆弱な社会システムに改めて気づき、ご近所の畑に注目が集まっています」と話す。
今の社会システムはサステナブルではない。以前、雑誌『料理通信』の取材でオスロのカフェ「フグレン」を取材した時にも、オーナーが同じようなことを言っていた。詳しくは「料理通信 COVID-19対策――世界の飲食店はどう動いたか? ノルウェー編」。
若者の姿も多く、農園で獲れた食用花を使った手作りのデザートを販売していた。
都市での農作物栽培への関心は、ここ数年で明らかにオスロでは増えている。コロナ渦でこの動きはますます加速するのかもしれない。
現場では子どもも木や土を触りながら楽しみ、おばあちゃんが孫に、「さぁ、ニンジンを今から獲ろうね」と声をかけていた。
Text&Photo: Asaki Abumi