コスト上昇への懸念強まる…2022年6月景気ウォッチャー調査
現状は下落、先行きも下落
内閣府は2022年7月8日付で2022年6月時点における景気動向の調査「景気ウォッチャー調査」(※)の結果を発表した。その内容によれば現状判断DI(※)は前回月比で下落、先行き判断DIも下落した。結果報告書によると基調判断は「景気は、緩やかに持ち直している。先行きについては、緩やかな持ち直しが続くとみているものの、ウクライナ情勢などに伴う影響も含め、コスト上昇などに対する懸念が強まっている」と示された。
2022年6月分の調査結果をまとめると次の通り。
・現状判断DIは前回月比マイナス1.1ポイントの52.9。
→原数値では「よくなっている」「変わらない」「やや悪くなっている」「悪くなっている」が増加、「ややよくなっている」が減少。原数値DIは51.8。
→詳細項目は「サービス関連」以外の全項目が下落。「住宅関連」のマイナス4.0ポイントが最大の下げ幅。基準値の50.0を超えている詳細項目は「飲食関連」「サービス関連」「雇用関連」。
・先行き判断DIは前回月比でマイナス4.9ポイントの47.6。
→原数値では「よくなる」「やや悪くなる」「悪くなる」が増加、「ややよくなる」「変わらない」が減少。原数値DIは49.2。
→詳細項目は全項目が下落。「製造業」のマイナス8.8ポイントが最大の下げ幅。基準値の50.0を超えている詳細項目は「飲食関連」「サービス関連」「雇用関連」。
現状判断DI・先行き判断DIの推移は次の通り。
現状判断DIは昨今では海外情勢や消費税率引き上げによる景況感の悪化を受け、基準値の50.0以下を示して低迷中だった。2020年10月では新型コロナウイルスの流行による落ち込みから持ち直しを続け、ついに基準値を超える値を示したものの、再流行の影響を受けて11月では再び失速し基準値割れし、以降2021年1月までは下落を継続していた。直近月となる2022年6月では新型コロナウイルス流行への懸念は薄らぎつつあるものの、ロシアによるウクライナ侵略戦争などによるコスト上昇が大きな影響を見せており、景況感は後退を示している。
先行き判断DIは海外情勢や消費税率引き上げによる景況感の悪化から、昨今では急速に下落していたが、2019年10月以降は消費税率引き上げ後の景況感の悪化からの立ち直りが早期に生じるとの思惑を持つ人の多さにより、前回月比でプラスを示していた。もっとも12月は前回月比でわずかながらもマイナスとなり、早くも失速。2020年2月以降は新型コロナウイルスの影響拡大懸念で大きく下落し、4月を底に5月では大きく持ち直したものの、6月では新型コロナウイルスの感染再拡大の懸念から再び下落、7月以降は持ち直しを見せて10月では基準値までもう少しのところまで戻していた。ところが現状判断DI同様に11月は大きく下落。
直近の2022年6月では新型コロナウイルスのオミクロン変異株にかかわる国内外情勢への懸念は和らぎを見せる一方で、原油価格の高騰、半導体をはじめとする原材料や部品の供給不足、ロシアによるウクライナ侵略戦争や中国でのロックダウンに対する不安はあることから、景況感は後退を示している。
DIの動きの中身
次に、現状・先行きそれぞれのDIについて、その状況を確認していく。まずは現状判断DI。
昨今では新型コロナウイルスの影響による景況感の悪化からの回復期待で少しずつ盛り返しを示していたが、流行の第三波到来が数字の上で明確化されるに従い景況感は大幅に悪化。今回月の2022年6月はロシアによるウクライナ侵略戦争や中国でのロックダウンなどの影響でコスト上昇が現実のものとなっており、それが景況感の足を引っ張る結果となった。
なお今回月で基準値を超えている現状判断DIの詳細項目は「飲食関連」「サービス関連」「雇用関連」。
続いて先行き判断DI。
今回月で基準値を超えている先行き判断DIの詳細項目は「飲食関連」「サービス関連」「雇用関連」。新型コロナウイルスのオミクロン変異株の猛威への不安は和らぎを見せているものの、半導体を中心とした部品や原材料の不足、原油価格の高騰、そしてロシアのウクライナ侵略戦争への懸念が景況感の足を引っ張っている。
目に見えるコスト高という不安
報告書では現状・先行きそれぞれの景気判断を行うにあたって用いられた、その判断理由の詳細内容「景気判断理由の概況」も全国での統括的な内容、そして地域ごとに細分化した内容を公開している。その中から、世間一般で一番身近な項目となる「全国」に関して、現状と先行きの家計動向に関する事例を抽出し、その内容についてチェックを入れる。
■現状
・例年よりも早い梅雨明けで、必要な商品の購入が増えている。特に夏物家電のエアコンは、この猛暑で需要が増え、来客数が大きく伸びている(家電量販店)。
・暑くなってきたので、冷たいドリンクやアイスクリームの販売量が増えたことに加えて、冷凍食品や総菜の販売量も増えてきた(コンビニ)。
・ほとんどの仕入商材で、ひっきりなしに値上げがある。スーパーに行っても食品、日用品の値上げは当たり前で、これでは買物や出費を控えるようになるのは当然である(一般レストラン)。
・客単価、来客数の減少が続いている。光熱費の料金引上げに加え食品の値上げが相次ぎ、明らかに家計への影響があり、消費の引締めが起きている(スーパー)。
■先行き
・外国人観光客の入国が再開されたため、今後のインバウンド需要に期待できそうである(都市型ホテル)。
・来月からは全国的な旅行需要喚起策である全国旅行支援のスタートが予定されており、個人客を中心に更に客の増加が期待できることから、ややよくなるとみている(テーマパーク)。
・入国制限の緩和で、インバウンド需要に多少期待しているが、秋冬商戦の中心素材となる革やカシミヤ、ウールの価格上昇の悪影響が懸念される。新型コロナウイルス発生前の水準への回復は、まだ先となりそうである(百貨店)。
・ウクライナ紛争や円安の影響により、電気やガソリンなどの販売価格の高騰が続き、消費が縮小して景気が減退すると考える(乗用車販売店)。
早い梅雨明けや暑い気候で夏物が大きく動いて恩恵を受けたという話が複数見られる。他方、先行きを中心に原材料不足・コスト上昇への懸念は強い。
企業動向でも原材料不足・コスト上昇への影響が多々見受けられる。
■現状
・受注量は増加傾向にあるが、資材価格の値上がりが気掛かりである(建設業)。
・ステンレス材を中心に仕入材料の価格高騰が続くなか、価格転嫁もままならず、収益環境が一気に厳しくなっている(金属製品製造業)。
■先行き
・現在、手持ちの受注残が若干増えてきている。したがって、2~3か月先は今よりもややよくなる(電気機械器具製造業)。
・通信・IT業界において、半導体不足による通信、サーバー機器などの納期遅れがみられ始めている。今後、業績への影響がますます大きくなるとみられることから、先々の景況感はやや悪くなる(通信業)。
原材料不足・コスト上昇が大きなマイナス要素となっている状況。
雇用関連でも原材料不足・コスト上昇による悪影響の足音が聞こえつつある。
■現状
・新規求人数は製造業、特に需要が回復傾向の観光土産物を中心とした食料品製造業の大幅増が目立つなど、社会経済活動に連動して改善が見込まれる業種で増加している(職業安定所)。
■先行き
・主に製造業の取引先では、原材料費の高騰や納期遅延が続いていることから、人手不足でも採用コストは抑制傾向にある。また、新型コロナウイルス感染症による外出自粛要請が解除されたことで、小売業や物流業からの派遣依頼が増えている(人材派遣会社)。
新型コロナウイルスの流行に関する規制が解除され、人の動きが活性化してきたことから、需要拡大が見込める業種を中心に堅調な動きが見られる。他方、原材料不足・コスト上昇は雇用関連にも大きな影を落としているのが分かる。
リーマンショックや東日本大震災の時以上に景況感の足を引っ張る形となった新型コロナウイルスだが、結局のところ警戒すべき流行の沈静化とならない限り、経済そのもの、そして景況感に大きな足かせとなり続けるのには違いない。恐らくは通常のインフルエンザと同等の扱われ方がされるレベルの環境に落ち着くのが収束点として判断されるのだろう。あるいは社会様式そのものを大きく変えたまま、強引な形で鎮静化という様式を取ることになるかもしれない。世界的な規模の疫病なだけに、ワクチンなどによる平常化への動きを願いたいものだが。
さらにロシアによるウクライナ侵略戦争や中国のロックダウンは、日本が直接手を出して状況を改善できる類のものではない。景況感の悪化を押しとどめ、改善へと向かわせる間接的な対応を、関係各方面に望みたいものである。
上記は今記事のダイジェストニュース動画(筆者作成)。併せてご視聴いただければ幸いである。
■関連記事:
【政府への要望の最上位は社会保障、次いで景気対策と高齢社会対策】
【2018年は2.1人で1人、2065年には? 何人の現役層が高齢者を支えるのかをさぐる】
【新型コロナウイルスでの買い占め騒動の実情(世帯種類別編)(2020年3月分)】
※景気ウォッチャー調査
※DI
内閣府が毎月発表している、毎月月末に調査が行われ、翌月に統計値や各種分析が発表される、日本全体および地域ごとの景気動向を的確・迅速に把握するための調査。北海道、東北、北関東、南関東、甲信越、東海、北陸、近畿、中国、四国、九州、沖縄の12地域を対象とし、経済活動の動向を敏感に反映する傾向が強い業種などから2050人を選定し、調査の対象としている。分析と解説には主にDI(diffusion index・景気動向指数。3か月前との比較を用いて指数的に計算される。50%が「悪化」「回復」の境目・基準値で、例えば全員が「(3か月前と比べて)回復している」と答えれば100%、全員が「悪化」と答えれば0%となる。本文中に用いられている値は原則として、季節動向の修正が加えられた季節調整済みの値である)が用いられている。現場の声を反映しているため、市場心理・マインドが確認しやすい統計である。
(注)本文中のグラフや図表は特記事項の無い限り、記述されている資料からの引用、または資料を基に筆者が作成したものです。
(注)本文中の写真は特記事項の無い限り、本文で記述されている資料を基に筆者が作成の上で撮影したもの、あるいは筆者が取材で撮影したものです。
(注)記事題名、本文、グラフ中などで使われている数字は、その場において最適と思われる表示となるよう、小数点以下任意の桁を四捨五入した上で表記している場合があります。そのため、表示上の数字の合計値が完全には一致しないことがあります。
(注)グラフの体裁を整える、数字の動きを見やすくするためにグラフの軸の端の値をゼロではないプラスの値にした場合、注意をうながすためにその値を丸などで囲む場合があります。
(注)グラフ中では体裁を整えるために項目などの表記(送り仮名など)を一部省略、変更している場合があります。また「~」を「-」と表現する場合があります。
(注)グラフ中の「ppt」とは%ポイントを意味します。
(注)「(大)震災」は特記や詳細表記の無い限り、東日本大震災を意味します。
(注)今記事は【ガベージニュース】に掲載した記事に一部加筆・変更をしたものです。