『浦和式ゼロトップ』が鹿島に炸裂。機能した5つの要因とは?
武藤の抜てきで攻撃が活性化
3日に行われたJ1第7節の浦和レッズ対鹿島アントラーズは、2-1でホームチームが勝利を収めた。スコアこそ接戦だが、浦和は完勝と言えるパフォーマンス。逆に鹿島はまったく良さが出なかった。
この試合を紐解く鍵は、『浦和式ゼロトップ』だ。浦和は前節川崎戦のスタメンから5人を変更し、武藤雄樹、明本考浩、武田英寿、柴戸海、西大伍がピッチに立った。リーグ戦4試合でスタメン出場した明本、ケガからの復帰待ちだった西の2人はともかく、それまで出場機会が少なかった武藤、武田、柴戸を同時に抜てきしたことはサプライズだった。
だが、この抜てきが、絶妙なハーモニーを奏でることに。指揮者は武藤だった。システムでは[4-2-3-1]の1トップに入った武藤だが、最前線から離れてゼロトップのように、相手ボランチの背後や隙間に立ち位置を取った。この立ち位置が相手CB(センターバック)に「追うべきか、留まるべきか」と判断を迫ることになる。
前半37分の先制場面では、その効果がゴールに結びついた。少し下がった武藤に鹿島CBの関川郁万が釣り出され、空いたスペースへ明本が鋭く飛び出して行く。そこへ逆サイドの西から精度抜群のクロスのような、ミドルパスのようなボールが送られ、そのまま左足で持ち込んでシュート。武藤を起用した『浦和式ゼロトップ』が、見事に機能したゴールだった。
もっとも、前節まで1トップでスタメン出場した杉本健勇も、最前線に張り付かずに動き回る意味では同じ。ただし、この試合の大きな違いは“連動”だった。武藤が下がって相手CBを釣り出したスペースを、左サイドハーフで起用された明本が常にねらっている。その連動がスムーズだった。
ラストピース西大伍
今まではうまく行かなかった連動が、この試合で成立した要因は何か。一つは、ポジショニングや連係に長けた武藤がゼロトップに入ったこと。二つ目に、左利きの明本を順足の左サイドに置いたことで縦へ飛び出す突進力とフィニッシュへの流れをスムーズに引き出したこと。三つ目に、対戦相手の特徴に言及すれば、鹿島が人に釣られる守備をしがちでスペースが空きやすいこと。これも重要な要因だった。
さらに挙げるなら、浦和が立ち位置を整理したことも大きい。同じライン間でも、武藤は左サイド側、トップ下の武田は右サイド側に立ち、ボールを引き出す。杉本が1トップで両サイドを自由に、広範囲に動き回った過去の試合と比べると、サイドハーフとの位置関係が整理された。これは再現性の高い連係が多く見られたことと、無関係ではないだろう。
最後に付け加えるなら、右サイドバック(SB)に西というパスの出し手が現れたことも大きい。今季これまでの試合も、鹿島戦ほどの再現性は無いとしても、明本や関根貴大らの背後への飛び出しは見られていた。しかし、その動きを見て、パスを刺せる選手がおらず、文字通り、無駄走りに終わっていた。
そこに出し手として、西が現れたのは大きい。再び先制場面を思い返すと、真ん中で武藤の下がる動きが相手CB関川を釣り出しただけでなく、近いサイド側では柴戸が長駆の飛び出しで相手CB町田浩樹を下がらせ、CB2枚を前後に引き裂いていた。
だが、せっかくこうした連係で相手を崩しても、肝心のパッサーが、おとりである柴戸や武藤のほうにパスを出してしまえば、もう台無しである。そのいちばん奥、明本の動きにパスを出せてこそ、連係は結実する。そこに西が現れたわけだ。ラストピース感ありだった。
また、西と柴戸の組み合わせにも未来を感じた。柴戸はボール奪取力、猛烈なプレスで相手の起点を潰す守備能力に長けたボランチだが、一方、ビルドアップの技術や視野には課題を残す選手だ。この試合ではプレーメーカーの小泉佳穂と縦関係のダブルボランチを組み、柴戸はアンカー気味になって、槙野智章と岩波拓也の間に落ち、3枚回しのビルドアップに参加した。最終ラインに入るほうが前向きにプレーしやすく、ターンの必要性が低くなって技術的な難易度が下がるので、柴戸はフィットしやすいはず。
その柴戸が下がったタイミングで中盤は薄くなるが、そこへ右SBの西がスッと寄り、ボランチのように中継点になる。鹿島戦では浦和の3枚回しに対し、西の対面する相手サイドハーフの白崎凌兵が前へ出て、岩波へかみ合わせようとしたので、西自身はその裏でスペースを得やすい状況だった。彼が出し手として好プレーを見せたのは、今回のかみ合わせもあったので、相手の対応次第では、左SBの山中亮輔がその役割を務めたり、トップ下を落として西を最前線まで上げたりと、色々なやり方が考えられるかもしれない。
いずれにせよ、守備が持ち味のアンカー柴戸、ボランチのようにプレーできるSBの西と山中、そして、相手のプレッシャー回避に長けた小泉。この4人が持ち味を活かす分業と補完の関係は、将来を感じさせた。
ピタッとはまった。
一言で言えば、そういうことだろう。様々な要因はあるが、ケガから復帰した選手、抜てきした選手らが共に、この鹿島戦にピタッとはまった。もう、それ以上の寸評はないのではないか。
一つの疑問は、この成功した『浦和式ゼロトップ』、あるいは分業と補完のボランチラインを、今後も継続するのか否かだ。次は清水エスパルス戦、徳島ヴォルティス戦と、中3日の試合が続く。日程を考えると、最初からターンオーバーすることも、リカルド・ロドリゲス監督の中にはあったかもしれない。また、そもそもこの監督は対戦相手に応じて起用を変え、個々の持ち味を活かすマッチプランを考えるので、今回は鹿島戦限定の組み合わせとして、次戦以降は変更する可能性もある。さて、どうなるか。
そして、浦和にとって、より大きな課題はこの勝利の捉え方だ。振り返れば、今季開幕のFC東京戦では思った以上にパフォーマンスが良かった新チームに期待が高まったが、次戦以降は、その高まりすぎた期待を裏切り、反落を経験した。状態の悪い相手チームに良い試合をしたことに、あまりにも自信を持ちすぎると、悪影響もあるかもしれない。勝って兜の緒を締めよ、とは、こんなときに使う言葉なのだろう。
清水 英斗(しみず・ひでと)
サッカーライター。1979年生まれ、岐阜県下呂市出身。プレイヤー目線でサッカーを分析する独自の観点が魅力。著書に『日本サッカーを強くする観戦力』、『サッカーは監督で決まる リーダーたちの統率術』、『サッカー守備DF&GK練習メニュー 100』など。