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「どういう錯覚なんだ」「エアポケットですね」渡辺明王将(37)王将戦第3局、最終盤での逸機を悔やむ

松本博文将棋ライター
(記事中の画像作成:筆者)

【終局直後コメント】

渡辺明王将「なんか難しいかなとは思ってたんですけど、今日の昼のところは(69手目)▲5八玉でちょっとあんまり手がなくなってしまったんで。うーん、なんかどうだったかなという感じで。(直前の68手目)△3二玉とか寄ったあたり、どうだったかなと思いながらやってましたけど。(1日目の進行は)まあ一局にはなったかなと思ったんですけど。(3連敗となったが次局に向けて)やることは変わらないので、次が特別なにか、ということはないです」

(感想戦では最後、117手目▲9三歩の王手に対して△8三玉の代わりに△9三同玉の順が検討された)

(以下、感想戦の言葉を抜粋)

深浦「最後△9三同玉は(▲4八角と)遠見の角の形になるんですか?」

渡辺「これ取るのか」

藤井「それはそうですね」

渡辺「いや、最初自分から上がる手(△9二玉ではなく△9三玉)は歩(▲9四歩の王手)で負けだと思って読んでるから。それで(9三歩を取らず)影にしようと思ってたんだけど。そうか、影にしても(本譜の順で)詰むのか」

藤井「えっ、角。いやあ・・・」

渡辺「えっ、遠見の角ってどういう手ですか?」

(△9三同玉▲9六香△5六角成▲9五香△9四歩合▲4八角という変化で)

渡辺「これ角打つの? それは激戦ですね」(一同笑)

藤井(▲3九角か▲4八角か迷って▲4八角と打つ)

渡辺「いや、簡単に負けだと錯覚してました」

戸辺「(持駒の)歩の枚数がたしか渡辺さんの方が1歩だったですね」

渡辺「なんか関係あんの、それ? 関係あるか」(苦笑)

藤井「あれ、そうか。じゃあ(115手目)▲7二金って錯覚でした?(苦笑) そうか、確かに(代わりに)▲8四歩突くんだった・・・」

(コンピュータ将棋ソフトの形勢判断では本譜の▲7二金でも藤井勝勢だが、依然難しい変化が残されていた)

藤井「うーん、勝ちとは思えないですね、これは」(苦笑)

渡辺「簡単に負けだと思ってるんで。(△9三同玉のあと▲9四歩と)歩打たれて。(△9二玉と)下にさがるのか。普通ですね」

渡辺「どういう錯覚なんだ、これ(苦笑)。説明不能」「理解に苦しむね」(苦笑)

深浦「▲9三歩打たないで香車(▲9六香)走って・・・」

渡辺「えっ? そうなのか」

(▲9三歩の王手に代えて▲9六香と角取りに走る順が最善か。以下△5六角成▲9五香△9三歩合▲同香成△同玉▲9九飛で、後手は歩切れのため王手が受けづらい)

渡辺「(合駒に)なに打つの? 桂(△9四桂)ですか。で、角(▲4八角)で。歩ないんじゃ泣きますね。だってここ(それ以前の藤井玉周辺の触り方)で1歩無駄遣いしてるんでしょ?」(一同笑)

藤井「得してますね」

渡辺「これで1歩無駄遣いしてるから気が狂うね。(102手目から△4七歩▲同金△5七歩▲同金と進んだが)単に△5七歩と打っても▲同金の可能性が高かったですよね」

藤井「確かに。▲同金のつもりでした」

渡辺「はー」(深い溜息)

藤井「えっ、じゃあ、あやしいのか」

渡辺「やっぱ1歩無駄遣いは、よくないことが起きるんだな、将棋は・・・」

藤井「そうか、本譜は危ないですね。(△9三同玉以下▲4八角と)角打った図は」

渡辺「じゃあこれなに。寄って歩打って同玉(△9二玉▲9三歩△同玉)だと同じになるんだ。お互い1歩無駄遣いして」

藤井「ああ・・・」(一同笑)

渡辺「(▲9四歩の王手に△9二玉と)下がるって不利感だよなあ・・・」(駒音高く、何度か△9二玉と繰り返す)

藤井「角打った図・・・(苦笑)。まあでも角打って祈るしかないですね」(苦笑)

渡辺「なるほど・・・。あれ、じゃあ別に、このルートでも致命的なことをやっていたわけではなかったのか。(相手玉の)触り方はおかしいんでしょうけど。(歩を打つのではなく)△5六桂に比べたら」

藤井「確かに結局、こっちが祈ってるから・・・」

渡辺「これ上がり(▲9三歩に△8三玉)が見た目詰まないって読みでやってたんで。(▲9三歩の)たたき効いちゃった時点でがっかりしてんだよな」

(しばらく手順が検討されたあと、やはり難しいということになり)

渡辺「指運ですね、これは」

藤井「ああ、そうか。だから(▲9三歩と)叩いちゃいけないんですね。なるほど・・・」

渡辺「ああ、本譜はね」

藤井「そうか。(▲9三歩に代えて▲9六香以下最善の順で寄せれば)確かに飛車回り(▲9九飛)がぴったりな」

渡辺「玉寄って叩いて玉(△9二玉▲9三歩△同玉)か。なんだ。それまあ・・・。エアポケットですね。そっか・・・」

藤井「叩いてはいけないんですね」

渡辺「そうか・・・」(頭を抱える)

将棋ライター

フリーの将棋ライター、中継記者。1973年生まれ。東大将棋部出身で、在学中より将棋書籍の編集に従事。東大法学部卒業後、名人戦棋譜速報の立ち上げに尽力。「青葉」の名で中継記者を務め、日本将棋連盟、日本女子プロ将棋協会(LPSA)などのネット中継に携わる。著書に『ルポ 電王戦』(NHK出版新書)、『ドキュメント コンピュータ将棋』(角川新書)、『棋士とAIはどう戦ってきたか』(洋泉社新書)、『天才 藤井聡太』(文藝春秋)、『藤井聡太 天才はいかに生まれたか』(NHK出版新書)、『藤井聡太はAIに勝てるか?』(光文社新書)、『棋承転結』(朝日新聞出版)など。

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