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ジャニーズ性加害問題、再発防止特別チームの会見はなぜ違和感だらけだったのか―全文と解説―(後編)

石川慶子危機管理/広報コンサルタント
日本リスクマネジャー&コンサルタント協会提供

前編

https://news.yahoo.co.jp/byline/ishikawakeiko/20230707-00356517

中編

https://news.yahoo.co.jp/byline/ishikawakeiko/20230708-00356778

被害の大きさを把握しない方針で果たしていいのか

オオクボ:『朝日新聞』のオオクボといいます。網羅的に調査をするつもりはないということをお伺いしました。確かに被害者の方にお話を聞く、あるいは思い出させるということがかなり負担になるってことは重々承知をしているんですけども、申告されている方なら、あるいは相談窓口を設置していますというご説明を聞いていると、非常に消極的に感じます。これまで申告されている方の中にも、セカンドレイプに当たるので、私ども、その数など報道しておりませんが、数百人いると思うというような発言も出てきています。そういったことについて、例えば数人の被害と何百人という被害ではかなり違うと思うんですね、組織としての責任も含めてですけども。そういった点はどのようにお考えでいらっしゃいますか。少なくとも今申告されている方の中に、数百人という声を、数百人はいたんじゃないかというようなことをおっしゃっている方が複数人いらっしゃるので、すごく消極的に見えるんですけども、苦労は十分分かりながら質問させていただいております。

林:私たちは、まずは網羅的に今までの事実を発掘すること自体が私たちの設置の目的ではないと思っています。一方で、でも先ほど申し上げたように、事実があったことを前提として、ガバナンスの問題について再発防止策を考えると。そういった意味では、むしろ積極的に厳正に、事務所に対してはそういったヒアリング検証を行って、積極的に提言したいと考えております。

飛鳥井:先ほど来ご説明をいろいろしていただきましたけども、私も繰り返しますが、網羅的調査はいろいろ被害者の方にとって負担だろうということで、賛成できないという立場は変わりません。一方で今のご質問、それではほんとに全容解明に至るのかといったような内容だと思うんですけれども、今回の事案、加害者と被害者との関係性、それから性加害としての行為類型は恐らくほぼ共通しているということです。それからご質問にありましたように、複数の被害者の方々の申し立てによって、被害者の数は相当数に上るだろうということも確かなんだろうという、この3点については恐らく確かなんだろうと思います。

 ただ、そういったような事実を認識した上で再発防止対策というのは検討を進めることができると思うんです。しかしそれで本当に100%問題を把握できているか、漏れてないかといったようなことは実際にあると思いますけれども。これは網羅的調査ということでなくても、いろんな過程で、ここのところはもう少し掘り下げるべきだといったような、つまり加害者、被害者の関係ですとか、行為類型とかで質的に違う問題がどうもありそうだという時については、さらに事情を丁寧に説明して、改めて掘り下げていくといったような対応は可能だと思います。

 オオクボさんの「被害の大きさからして消極的すぎるのではないか」といった質問は国民の感覚を背負っていてよかったと思います。被害の大きさを把握せず、再発防止、ガバナンス提言が可能とは思えないからです。被害者発掘をしなくても規模だけは把握する必要があるのではないでしょうか。林さんの回答は繰り返しで守りの姿勢。唯一事務所に対しては「積極的」「厳正」と強い言葉遣いで工夫があらりました。飛鳥井さんは「被害は相当」「行為類型」「改めて掘り下げる対応は可能」と丁寧な回答で好印象が残ります。

島崎:『朝日新聞』の島崎と申します。本日ありがとうございます。先ほど、こういった事実認定をするのはわれわれチームの仕事だというふうにおっしゃいましたが、そして事実認定といいますか、そういった性暴力があったことについては前提として調べていくというふうに言われましたけれども。重ねてになるんですが、事務所側としては事実を認定していない状況にあると思います。これからいろんなお話を聞かれて、やはりこれが確からしいというか、事実としてあるということを再度認識された際に、事務所側に対して、その事実として認めてほしいといったことを提案されるおつもりは全くないんでしょうか。そのことも可能性としてあるのか、その部分を教えてください。

林:再発防止策を提言するに当たっての前提となる事実認定っていうのは、私たちが専権で行えるものだと考えております。だから検証の結果、基本的にこういった事実があったであろうと私が考えたといたします。その時点で事務所側がその事実を認めるのか、認めないのか。これはどのような事態になるか、私は分かりませんが、仮にその時に事務所側が認めなかったといたしましても、そのことによって私たちの事実認定が左右されるものではないわけですので。それを前提として、私たちは再発防止策をまとめて、それを事務所側に提言いたします。そういった職責は確実に果たしていきたいと思っております。その上で、提言を事務所側が受け入れて、実行に移すのかどうか。当然受け入れていただくことを私たちは期待しますが、それは基本的には事務所サイドの判断になってくると思います。

 事実認定についてこれまでと同じ質問を繰り返しています。「事務所に認めてほしいと提案するのでしょうか」といった質問に違和感があります。回答も「事実認定は専権」と回答が繰り返されています。むしろもっと具体的に、責任の言葉で詰め寄ってもよかったのではないでしょうか。スルガ銀行の第三者委員会報告書のように、誰がどの会議でどう発言したのか、どう知りえたのか、どう行動すべきだったのかを調査し、被害のおおよその規模も検証し、経営責任だけではなく、企業としての社会的責任を明らかにすると期待してよいでしょうか、と。

実名告発者への対処窓口か

ニシムラ:すいません、読売テレビ「ミヤネ屋」のニシムラと申します。事務所が設置している心のケア相談窓口と再発防止特別チームとの役割についてお伺いしたいと思いますが。先ほど飛鳥井さんが、今回は事務所の信頼回復だけではなく、もちろん被害者の方の心の回復と表裏一体だというふうなお話をされました。そして頂いたペーパーの中に、心の相談窓口設置の、被害者の方からもご要望、お話を伺っていきたいとお話ありましたけれども、具体的に、再発防止チームと事務所が設置している心のケア相談窓口とのどのような連携をなさるのか。お話を聞く際には両方のチームがお話を伺うのか、それともまた別の策があるのか、お伺いできたらと。また、既に連携を図って、チームとして被害者の方からお話をされた事例があるかについてもお伺いできたらと思います。

飛鳥井:2つの窓口といいますか、心の相談窓口とわれわれのチームがあるんですが、この2つは連携しておりません。心の相談窓口は、あくまでもプライバシー保護ということがありますので、そこに来たら自動的に私どものチームとつながるとかそういうことはありません。きちんと非常に厳しく、そこは区切っております。ただアナウンスしたように、もしも心の相談窓口、訪れた方で、再発防止に向けた思いというものがあって、それはぜひ生かしてほしいといったようなお話があった時に改めて。これも非常に慎重につなげてもらうことになることになるんですけども、私どものほうのチームに何らかの形でつなげていただくっていうことを考えております。はなから両方のチームが一緒になって動くとか、そういうことは一切ありません。

 2つの窓口に違いについての質問はよかったと思います。被害者はどちらに相談すればいいのかの判断材料になるからです。というか、そもそも再発防止チームではアンケートもホームページも立ち上げないわけですから、どのようにアプローチするのでしょうか。その方針は示されていません。となると、おそらく、再発防止チームは実名報道されている人たちへの対応窓口のように見えます。今後も次々告発が続くことが予測できますので、それへの対処窓口。となると、それは危機管理対策本部のような役割です。再発防止特別チームという名称に益々違和感が湧きます。この点をもっと掘り下げて質問する記者はこの後、現れませんでした。

ツルタ:『読売新聞』のツルタと申します。再発防止特別チームの再発という言葉の定義について、お伺いしたいと思います。この問題、マネジャーの方の加害の報道も出てきていますので問題が複雑化してるんですが、基本的にはジャニー氏が亡くなっている以上、放置しても再発は起こり得ないという考え方もできると思うんですけども。チームの方々は再発というのをどういうふうに定義していらっしゃるんでしょうか。

林:この再発というのは個々の性暴力の再発だけにとどまるものではありません。例えば性暴力が起きた、しかも複数起きた。こういったことを前提にした時に、今後またジャニーズ事務所で。行為者はジャニー喜多川氏ではなくても、そうじゃない方であったとしても、こういった性暴力がジャニーズ事務所の中で起きていくということを防ぐという意味を持っております。もう一つは、この再発っていうのは、もし過去のジャニー喜多川氏の性暴力を巡って、それに対するジャニーズ事務所の対応の問題点、あるいはそういうものを複数回発生させてしまっているような組織の問題点というものがあったとするならば、そういった問題ある対応を起こさないようにするためのガバナンスの改善。こういったものを提言するというのが目的でございます。

 ですから、再発っていうのは個々の性暴力は入っておりますが、それにとどまるものではなくて、そういった生じてしまった性暴力というものについて全く対応ができてなかった、こういった問題への対応を二度と繰り返さない意味での再発。そういった捉え方の再発を考えて、再発ということを捉えて、それに対する提言を行っていきたいと考えています。

飛鳥井:ちょっと追加のコメントです。今のご質問ですけども、私どもの役割は、一般的な社会組織の中でセクハラ行為を防止しましょう、その対策考えましょうということだけではなくて。先ほど申し上げましたように、強い立場の者が立場を利用して、弱い立場の者に加害行為を続けると。それが否認と沈黙によって、長く表に出ずに、その間に被害者が増えてしまう。こういったような事態っていうのは、非常に取り組みとしてはいろいろなハードル高い問題があるんですけども、それをどうやって食い止めるか。仮に勇気ある証言ですとか、マスコミ、報道のスクープですとか、あるいは捜査機関が動くとかそういうことを待たないと防げないという状況ではなくて、何とかガバナンスの改善で、そういうことを未然に防ぐ。あるいは早い段階で防ぐための在り方、防止策っていうのはどういうものかっていうことを提案していく役割だと考えております。

 こういった質問をしたくなるのはよくわかりますが、新たな何かを引き出す形にならないと思います。だから、回答もこれまでの内容の繰り返しとなってしまいます。

オダ:たびたびすいません。『産経新聞』オダと申します。再発防止ということですけども、そもそも検挙に勝る防犯なしという言葉もありますけども、今回の分、強制わいせつとか非親告罪にもなって、なおかつ、あるいは時効が成立していないものというのも出てこようかと思います。そういう時に検挙に向けて、捜査機関の情報提供はするのか。それともあえてミッションではないということでしないのかという、そのところのアプローチをどうされるかということを伺いたいと思います。

林:犯罪捜査とか、それに連なる刑事手続きの問題に対してわれわれが関与していくっていうことは考えておりません。それは、私たちの与えられたミッションということとはまた別の話であろうと思っています。

 うーん、また法的アプローチになってしまいました。もっと社会的責任の言葉で攻めた方が国民を背負えます。林さんは検事総長ではなく、すでに弁護士です。クライアントのために働くのが弁護士です。検察官であっても、田中森一氏のように退官してから闇社会の守護神になってしまう人もいます。これが第三者委員会の限界でもあります。がしかし、そもそもチェック機能を果たすのはむしろ国民の知る権利のために働くジャーナリストではないでしょうか。

最後まで双方「企業の社会的責任」キーワード不在のまま

望月:東京、望月です。心配なのは、二本樹さんだとか橋田さんだとか、被害を受けたという方のお話を聞きますと、今まで全くジャニーズ事務所側が記者会見をしてないこと含めて、外部窓口というのが信頼に値するのかと。今日のお話ですと、林さん含め、全く独立した第三者機関的な調査をすると言っているんですが、これとまた別に窓口機関設置となると、果たしてこの窓口が適切なものなのか。情報を相談したら、その話が全てジャニーズ事務所側に筒抜けになって、違う形で利用されるんじゃないかと。二本樹さんはあれだけ前に出て告発されていますけれど、今そういう状況の中で外部窓口相談する気になれないというお話ししていました。お二人人から見て、外部相談窓口というのはどういうふうに見えるか。ここもジャニーズ事務所とはまさに独立した形でやっているということが、もしお二人がそう思うのであれば。しっかり、被害者まだ声に出さない方、たくさんいると思うので、アピールという言い方なんなんですけど発信していただきたいんですが、お二人から、この外部相談窓口がどう見えるかという点と。

 あと申し訳ないです。第三者チームつくったということですけれど、名前などは明らかにされていません。お2人以外の方々のお名前、一切出さないということなのか、何人ぐらいのチームでやるのかというところまで、言える体制でいいんですが、教えていただきたいんですが。

林:心の相談窓口に対して私たちがどのように考えているかっていうのは、これはある意味、全くジャニーズ事務所から独立して、専門家が相手の被害者、申告されてこられる被害を受けた方に対して、寄り添うためにつくられたものであると考えておりますから。そのことに対して、ややまだ周知がなされてないということであれば、それは、やはりジャニーズ事務所において考えていくべき問題だと私は思っています。

 もちろん今申告されている方の中で、私たちはそういった方々にはできる限り直接お話を伺っていきたいと思っていますから、そういった方々が直接私たちのチームに対する考え方も当然お聞きしますし。一方で、きっと心のケア相談窓口に対して、自分たちはこのように考えているんだっていうようなことも私たちはお聞きできる話だと思いますけれども。そういったことで、心の相談ケア窓口がもっとどのような点を改善したらいいかっていうのは、少なくとも私たちのミッションではありませんけれども、今後そういったところでの意見などは聞く立場にはあると思いますから、そこは何らか適切に対応していきたいと思っています。

 一方で、それとチームの全容。チームっていうのは私たちのチームですか。私たちのチームは3人でございますので、別に他にチームのメンバーがいるわけではございません。

最初に司会から紹介がありました、私の紹介、それから飛鳥井先生の紹介、そしてもう1人、実際に性暴力等の被害者支援の実践を行っている臨床心理の研究者。この方、女性でありますけども、これで3名でございます。その方は、本日の時点では所属組織の承認手続きが遅れていますものですから、ここには出ておりませんけれども、もう1人はその方でございます。

望月:ちょっと少な過ぎると思うんですけど。

林:もちろん今この3人で当然活動を開始しておりますので、この3人でやっていくつもりでおります。もちろん、この後もしいろんな、これでは人数が足りないということになっていけば、その時点でまたメンバーの追加とかそういうことは考える可能性はございますが、現時点ではこの3人でやっていこうと考えております。

 被害者がどう思っているのかをぶつける質問はありですが、チームメンバーの人数や多い少ないといった質問はあまり意味があるとは思えません。体制や数で切り込むのであれば、被害者にアンケートをとるなど積極的なアプローチをしない待ちの体制方針で本当に被害者からの納得は得られると思っているか、ガバナンスの問題や体制改善の提案はできても、企業としての社会的責任を果たすことにはならないのではないか、被害規模を完全ではなくても過去の所属人数、デビュー人数で予測は可能ではないか、事務的な数の把握なしで、ヒヤリングだけで本当に検証は可能だと思っているのか、としてもよかったのでは。

松谷:ジャーナリストの松谷です。事実認定についてなんですけれども、加害者とされる人が既に亡くなっていて、被害者の証言だけで、しかも物証も見つからないという中で、事実認定をするのはかなり難しいところもあると思うんですけれども。林先生の過去の捜査の経験等も含めて、どのようなプロセスを経て事実認定をしていくのかということについて教えていただければと思います。

林:最初に申し上げたように、当チームは何らかの法的責任を追及するものでありません。法的責任を追及する時には、事実認定は非常に慎重に資料を収集して、十分にこの事実があったという確証が得られなければ事実認定できないっていうことになりますけれども。当チームはこういったいろんな性暴力の案件が起きたということを前提として、今後そこに対する対応を巡るガバナンス上の問題点などを検証して、改善策を提言するということでございますので。

 片や加害者が死亡している。そして一方では、申告してきているのは被害を受けた人だけであると。そういう状況の下で、他に客観的な資料もないという前提ですと、恐らく通常の法的責任を追及するというプロセスの中では事実認定ができなかったということになるかもしれませんけども、われわれ、そういう手続きを行うわけでございませんので。当然被害の方々が言っておられることが、われわれのチームから見ても確からしいと考えれば、事実認定をすることに全く問題はないと考えています。

 事実認定の「プロセス」という言葉で回答を得ようとしている点に工夫が見られます。それゆえ、林さんも丁寧に回答しています。ただ、ここでも法的責任に終始しています。質問側も回答側も「社会的責任」の言葉がこの段階でも出てきていない点が、この会見における最大の問題。

村瀬:恐縮です。TBSの村瀬と申しますけれども、ジャニーズ事務所は、特に未成年のタレントの安全確保については責任があったと思うんですけれども。一つ具体的には『週刊文春』との裁判で、喜多川氏の性加害について事実認定がされた判決の後も、喜多川氏の自宅兼合宿所と呼ばれるようなところに未成年のタレントが泊まるという慣行が続けられたという、この対応についてどのようにお考えなのか。ぜひ、お2人からお聞かせ願えないでしょうか。

林:まさにそのようなこと、これまでのいろんな長い期間での経過がございますが、そういったところでの、その都度その都度のジャニーズ事務所としての対応、その時の幹部の在り方、こういったものが検証の対象になっていくわけでございまして。今のご質問に対しては、検証の結果それを明らかにしていくことになろうかと思います。今の時点でどのように考えられますかと言われても、今のそれ自体が今後の検証活動の中の一つであるというふうに考えています。

飛鳥井:今の先ほどの質問ですね。同じ意見でございます。まさにそのことも含めて検討すべきだと考えております。過去のガバナンスがどうだったかということも検討課題だと思います。

 今の時点で回答できる内容ではない質問でした。むしろ、数で被害の大きさを検証すべきではないか、と圧力をかける質問にしていくべきだったのではないでしょうか。米国カトリック教会神父による児童への性的虐待では数十名の神父によるもので被害者数は1,000人程度とされ、英国の人気司会者ジニー・サビル(2011年84歳で死去)の性的虐待の被害者児童は200人以上とされています。ジャニー喜多川は一人で数百、もしかしたら1,000人以上に性加害をしていた可能性があります。つまり、史上最大規模の性加害事件になる可能性がある。被害の数はある程度出すことが、第三者委員会としての社会的責任ではないか、と。

尾形:Arc Timesの尾形ですが。林さんにお聞きしたいんですけれども、先ほど刑事手続きに関与するつもりはないというお話ありましたけれども。既に報道されている内容で、ジャニーズ事務所が否定もしてない内容で、われわれもいろいろな方に話を聞いている段階で、数百人ぐらい被害者がいるんじゃないかというのは聞いています。

 アメリカと比較すると、アメリカでいえば、ジェフリー・エプスタイン事件とかハーベイ・ワインスタイン事件に匹敵する社会を揺るがした事件が、既に報道で見るだけで出てきているわけです。林さんは東京地検特捜部の検事でもあり、検事総長経験者でもあり、そういった組織的かつ子どもに対する暴力という、非常に悪質な犯罪を見過ごしてきた司法の責任者の1人であった責任もあると思うんですけれども。それでも、今回は再発防止チームだから、何か見つかっても法的な部分で情報提供すらしないのかですね。

 というのは、民法上の善管注意義務を違反していたんじゃないかっていうのは、われわれが取材してても、藤島社長がレッスン場に取締役の時に来ていて見過ごしていたという話も出てますし。同時に先ほどの質問でもあった、刑法上の問題で時効がまだ成立してないようなものもある。これって戦後の日本社会を揺るがすぐらいの大きい犯罪だと思うんですけれども、それを司法当局が見過ごしてきた責任もあると思うんですが。だからこそ林さんには特別な責任もあると思うんですけれども、それでも法的な部分が何か見つかっても何もしないんでしょうか。それは全体的な隠蔽(いんぺい)に加担することになってしまうんじゃないでしょうか。

林:ご指摘については承りますが、私は今、一弁護士として、公的な部分でなくて特別チームのメンバーとなり、座長となっているわけでございます。ですから、こういった地位に就いたから刑事手続きに関与すべきであるというところについては、そういう立場にはないと私は考えております。ご指摘は承りました

 最後の質疑応答は、それまでの平行線上ではなく、世界の他の性犯罪事例との比較や「加担」という言葉で前検事総長に責任ある調査への決意を引き出そうとした点で質の高い質問だったと思います。これに対して「今は一弁護士」とする立場の表明をしつつ、「ご指摘は承ります」とする回答は相手の気持ちを受け止める言葉ですっとかわしてしまいました。ただ、最初と最後で繰り返していることから、質問者の指摘について敬意は表した形になりました。緊張感のあるよい質疑応答だったと思います。

 ただ、それぞれもう一歩踏み込むこともできたと思います。「法的責任」には限界があるわけですから、「社会的責任」といった言葉を使って詰め寄る。性加害でガバナンス問題があるなら、お金の使い方にもガバナンス不全があった可能性があります。企業は未上場であっても社会の公器であり、ましてや五輪や天皇即位イベントでジャニーズタレントが出演しているということは、税金がジャニーズに落ちていることになるわけで、全国民に対する責任があります。その社会的責任、経営責任を明らかにすることをこの場で約束してもらえるか、といった質問です。そして、林さんは、「公的な部分ではない」「そういった立場にない」と否定が重なっては、後ろ向きの印象が残ってしまいます。ここは、単純回答ではなく、切り返して「企業の社会的責任」の観点からしっかり調査検証をする、といった前のめりの決意を語ってほしい場面でした。

司会:まだご質問あると思うんですけど、この後追加のご質問ある場合は弊社のほうに言っていただければ、再発防止チームにつながせていただきますので、よろしくお願いします。本日はどうもご協力ありがとうございました。これにて会見をいったん終了させていただきます。

 弊社ってどこなんでしょうか。ジャニーズ事務所、ボックスジャパン?再発防止チームの事務局? 最初と同様、立ち位置を示してアナウンスをしていません。ジャニーズ事務所から誰も出ていないこの会見。やはりジャニーズ事務所が記者会見をした、という実績を作りたいがための場に見えました。

 再発防止チームがジャニーズ事務所のガバナンス改善のためだけに働くのか、経営責任を明確にし、企業の社会的責任を果たさせるために働くのか。そして、マスメディアはチェック機能を果たすことができるのか、注視していきます。

前編

https://news.yahoo.co.jp/byline/ishikawakeiko/20230707-00356517

中編

https://news.yahoo.co.jp/byline/ishikawakeiko/20230708-00356778

■動画解説 リスクマネジメント・ジャーナル(日本リスクマネジャー&コンサルタント協会)*前編掲載と同じ動画になります。

【参考サイト】

ジャニーズ事務所問題 再発防止特別チーム 記者会見(ABEMA)

https://www.youtube.com/watch?v=udoDn79Gr30

企業等不祥事における第三者委員会ガイドライン

https://www.nichibenren.or.jp/document/opinion/year/2010/100715_2.html

社長が「驚いた」と言っている場合ではない 現場の声と苦情が届かなかったかんぽ生命

(スルガ銀行、かんぽ生命の第三者委員会報告書について解説しています)

https://news.yahoo.co.jp/byline/ishikawakeiko/20200420-00173032

危機管理/広報コンサルタント

東京都生まれ。東京女子大学卒。国会職員として勤務後、劇場映画やテレビ番組の制作を経て広報PR会社へ。二人目の出産を機に2001年独立し、危機管理に強い広報プロフェッショナルとして活動開始。リーダー対象にリスクマネジメントの観点から戦略的かつ実践的なメディアトレーニングプログラムを提供。リスクマネジメントをテーマにした研究にも取り組み定期的に学会発表も行っている。2015年、外見リスクマネジメントを提唱。有限会社シン取締役社長。日本リスクマネジャー&コンサルタント協会副理事長。社会構想大学院大学教授

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