前編
https://news.yahoo.co.jp/byline/ishikawakeiko/20230707-00356517
中編
https://news.yahoo.co.jp/byline/ishikawakeiko/20230708-00356778
被害の大きさを把握しない方針で果たしていいのか
オオクボさんの「被害の大きさからして消極的すぎるのではないか」といった質問は国民の感覚を背負っていてよかったと思います。被害の大きさを把握せず、再発防止、ガバナンス提言が可能とは思えないからです。被害者発掘をしなくても規模だけは把握する必要があるのではないでしょうか。林さんの回答は繰り返しで守りの姿勢。唯一事務所に対しては「積極的」「厳正」と強い言葉遣いで工夫があらりました。飛鳥井さんは「被害は相当」「行為類型」「改めて掘り下げる対応は可能」と丁寧な回答で好印象が残ります。
事実認定についてこれまでと同じ質問を繰り返しています。「事務所に認めてほしいと提案するのでしょうか」といった質問に違和感があります。回答も「事実認定は専権」と回答が繰り返されています。むしろもっと具体的に、責任の言葉で詰め寄ってもよかったのではないでしょうか。スルガ銀行の第三者委員会報告書のように、誰がどの会議でどう発言したのか、どう知りえたのか、どう行動すべきだったのかを調査し、被害のおおよその規模も検証し、経営責任だけではなく、企業としての社会的責任を明らかにすると期待してよいでしょうか、と。
実名告発者への対処窓口か
2つの窓口に違いについての質問はよかったと思います。被害者はどちらに相談すればいいのかの判断材料になるからです。というか、そもそも再発防止チームではアンケートもホームページも立ち上げないわけですから、どのようにアプローチするのでしょうか。その方針は示されていません。となると、おそらく、再発防止チームは実名報道されている人たちへの対応窓口のように見えます。今後も次々告発が続くことが予測できますので、それへの対処窓口。となると、それは危機管理対策本部のような役割です。再発防止特別チームという名称に益々違和感が湧きます。この点をもっと掘り下げて質問する記者はこの後、現れませんでした。
こういった質問をしたくなるのはよくわかりますが、新たな何かを引き出す形にならないと思います。だから、回答もこれまでの内容の繰り返しとなってしまいます。
うーん、また法的アプローチになってしまいました。もっと社会的責任の言葉で攻めた方が国民を背負えます。林さんは検事総長ではなく、すでに弁護士です。クライアントのために働くのが弁護士です。検察官であっても、田中森一氏のように退官してから闇社会の守護神になってしまう人もいます。これが第三者委員会の限界でもあります。がしかし、そもそもチェック機能を果たすのはむしろ国民の知る権利のために働くジャーナリストではないでしょうか。
最後まで双方「企業の社会的責任」キーワード不在のまま
被害者がどう思っているのかをぶつける質問はありですが、チームメンバーの人数や多い少ないといった質問はあまり意味があるとは思えません。体制や数で切り込むのであれば、被害者にアンケートをとるなど積極的なアプローチをしない待ちの体制方針で本当に被害者からの納得は得られると思っているか、ガバナンスの問題や体制改善の提案はできても、企業としての社会的責任を果たすことにはならないのではないか、被害規模を完全ではなくても過去の所属人数、デビュー人数で予測は可能ではないか、事務的な数の把握なしで、ヒヤリングだけで本当に検証は可能だと思っているのか、としてもよかったのでは。
事実認定の「プロセス」という言葉で回答を得ようとしている点に工夫が見られます。それゆえ、林さんも丁寧に回答しています。ただ、ここでも法的責任に終始しています。質問側も回答側も「社会的責任」の言葉がこの段階でも出てきていない点が、この会見における最大の問題。
今の時点で回答できる内容ではない質問でした。むしろ、数で被害の大きさを検証すべきではないか、と圧力をかける質問にしていくべきだったのではないでしょうか。米国カトリック教会神父による児童への性的虐待では数十名の神父によるもので被害者数は1,000人程度とされ、英国の人気司会者ジニー・サビル(2011年84歳で死去)の性的虐待の被害者児童は200人以上とされています。ジャニー喜多川は一人で数百、もしかしたら1,000人以上に性加害をしていた可能性があります。つまり、史上最大規模の性加害事件になる可能性がある。被害の数はある程度出すことが、第三者委員会としての社会的責任ではないか、と。
最後の質疑応答は、それまでの平行線上ではなく、世界の他の性犯罪事例との比較や「加担」という言葉で前検事総長に責任ある調査への決意を引き出そうとした点で質の高い質問だったと思います。これに対して「今は一弁護士」とする立場の表明をしつつ、「ご指摘は承ります」とする回答は相手の気持ちを受け止める言葉ですっとかわしてしまいました。ただ、最初と最後で繰り返していることから、質問者の指摘について敬意は表した形になりました。緊張感のあるよい質疑応答だったと思います。
ただ、それぞれもう一歩踏み込むこともできたと思います。「法的責任」には限界があるわけですから、「社会的責任」といった言葉を使って詰め寄る。性加害でガバナンス問題があるなら、お金の使い方にもガバナンス不全があった可能性があります。企業は未上場であっても社会の公器であり、ましてや五輪や天皇即位イベントでジャニーズタレントが出演しているということは、税金がジャニーズに落ちていることになるわけで、全国民に対する責任があります。その社会的責任、経営責任を明らかにすることをこの場で約束してもらえるか、といった質問です。そして、林さんは、「公的な部分ではない」「そういった立場にない」と否定が重なっては、後ろ向きの印象が残ってしまいます。ここは、単純回答ではなく、切り返して「企業の社会的責任」の観点からしっかり調査検証をする、といった前のめりの決意を語ってほしい場面でした。
弊社ってどこなんでしょうか。ジャニーズ事務所、ボックスジャパン?再発防止チームの事務局? 最初と同様、立ち位置を示してアナウンスをしていません。ジャニーズ事務所から誰も出ていないこの会見。やはりジャニーズ事務所が記者会見をした、という実績を作りたいがための場に見えました。
再発防止チームがジャニーズ事務所のガバナンス改善のためだけに働くのか、経営責任を明確にし、企業の社会的責任を果たさせるために働くのか。そして、マスメディアはチェック機能を果たすことができるのか、注視していきます。
前編
https://news.yahoo.co.jp/byline/ishikawakeiko/20230707-00356517
中編
https://news.yahoo.co.jp/byline/ishikawakeiko/20230708-00356778
■動画解説 リスクマネジメント・ジャーナル(日本リスクマネジャー&コンサルタント協会)*前編掲載と同じ動画になります。
【参考サイト】
ジャニーズ事務所問題 再発防止特別チーム 記者会見(ABEMA)
https://www.youtube.com/watch?v=udoDn79Gr30
企業等不祥事における第三者委員会ガイドライン
https://www.nichibenren.or.jp/document/opinion/year/2010/100715_2.html
社長が「驚いた」と言っている場合ではない 現場の声と苦情が届かなかったかんぽ生命
(スルガ銀行、かんぽ生命の第三者委員会報告書について解説しています)
https://news.yahoo.co.jp/byline/ishikawakeiko/20200420-00173032