やってきましたかき氷の季節。日本と一味違う台湾式かき氷のトレンドは?
台湾は夏全開! やってきました氷の季節。
ようやく日本も完全に梅雨明けしたようだ。暦の上では大暑も立秋も過ぎ、台湾ではかなり前から夏真っ盛りを迎えている。6月には、すでに6月としては史上最高の38.9度を叩き出し、7月にも38度を超える日が6日に達した。台北の気温は2013年の39.3度が最高気温だったが、今年7月19日には気温39度となり、限りなく最高に近い日が続いている。
こうなると俄然、人気が出てくるのは冷たいものだ。とりわけ台湾の暮らしに欠かせないひと品がかき氷。
かき氷を含め、台湾のデザート屋さんをめぐった書籍の日本語版が出版されている。書名を『台湾レトロ氷菓店』(ハリー・チェン著/中村加代子訳、グラフィック社刊)という。この「氷菓店」について、冒頭にこんな記述がある。
なるほど、日本なら青が波打つ海面に真っ赤な字で「氷」と書かれた氷旗は、「かき氷、やってます」を掲げているわけだが、そこが必ずしもデザート専門というわけではない。氷旗は夏祭りとか縁日で見かけることもあれば、喫茶店にだってある。そこへ行くと台湾はどうなのか。
本書は、台湾人である著者が台湾の暮らしに氷菓店は「欠かすことのできない風景」だと気づいて取材を決めたくだりからスタートする。紹介されているのは全23店舗。北から南、西から東、くまなく歩いて、その店の店主に話を聞き、店の歴史や作り方の細部に至るまで取材した内容をまとめている。
取り上げられている店は、80年前に屋台から始まった店、3代目が後を継ぐ店など、その街で長年親しまれているところが多い。店のこだわりをさりげなく聞き取ったインタビューに加え、使い込まれた道具や店内を撮影した写真とともに、氷菓店の丁寧な仕事が伝わってくる。
読んでいるうちに、紹介されている店より前の台湾の氷事情が気になり、昔の新聞を探してみた。
台湾と氷の付き合いの始まり
台湾に初めて製氷会社ができたのは、1896年とある。その前は、香港から氷を輸入していたようだ。製氷会社ができて以降、台北ほか各地に氷を売り始める者が生まれた。
ただ、氷店が売るものには、いろいろあったようだ。こんな記述もある。
100年前の台湾では、4、5月から夏の間に氷を売っていたようだ。今に近い氷の記述もあった。
無銭飲食はともかく、この五一郎さんとやら、かき氷を食べていた瞬間よりも馬を引いていた時間に、冷えていたに違いない。
最近の台湾かき氷トレンドは?
一気に時計の針を現代に戻そう。ここ数年、台湾では昔ながらのかき氷に加え、日本式のかき氷を出す店が増えているという。人気店に向かった。
台北MRT古亭駅2番出口を出て、通りに沿ったまま2分ほど行くと金門街にぶつかる。その路地を右に折れてすぐの場所に「Kakigori Toshihiko」なる店がある。7月の定休日、店主の呉俊彦さんにお話を伺った。
俊彦さんが店を出したのは2018年7月のこと。それ以前には、反対する親御さんを説得し、2014年から日本に留学した。そしてまず1年半ほど東京・秋葉原にあるインターカルト日本語学校で日本語を学び、それからお菓子づくりの伝統校である東京製菓学校に進学した。当時のクラスメートがアルバイトしていたのが、東京・谷中にあるかき氷専門店のひみつ堂だった。
「天然の氷にこだわるお店でした。そこで初めて、いちごのシロップを本当のいちごで作る店に出会いました」
それまでのかき氷の概念を打ち破られて開眼したのは、台湾に戻ってからの自らの方向性だけではない。台湾と日本のかき氷の姿が決定的な違いだった。
「日本のかき氷は、氷がメインですよね。台湾は氷とシロップだけではなく、いろんなものを入れるんです。だから、かき氷というけれども、氷はむしろ脇役なんですよ」
言われてみれば、一般に台湾のかき氷といえば色とりどりで、具材のバリエーションも多い。小豆、緑豆、ピーナッツ、タロイモといった豆芋類から、タピオカのようなトッピング、パイナップル、スイカ、マンゴーなどの台湾フルーツ……氷はむしろベースのような役割を果たす。
「昔ながらの台湾の氷は、少し粒が粗めのものです。けれども最近では、日本のようにきめ細かな氷に、抹茶を加えるのが人気ですね。ただうちの店は、私がスイーツづくりを学んだ経験を生かして、ほかの店にはできないものを、と考えて商品を開発しました」
そうして出来上がったひと品が、タロイモ・モンブランという名のかき氷である。氷の上には細かく削ったパルメザンチーズを載せて「雪が降っている様子をイメージした」という。外側のタロイモのクリームと滑らかな氷をかき分けると、中にもタロイモのクリームが隠れている。日本式でもあり、台湾式でもあり、両方のよいところをミックスさせたかき氷。
つまりは、台湾でスイーツとして進化したかき氷だといえる。
ホテルと老舗かき氷店によるコラボイベント
もう一つ、最近の台北でかき氷にスポットの当たったイベントがある。
台北松山空港から距離にしてわずか4キロ、台北MRT大直駅から徒歩5分ほどの場所に、グランドメイフルホテル台北(台北美福大飯店)がある。建物の上部はツインタワーという特徴的な姿は、市内にいるとすぐに目に留まる。
充実した設備を備えた146室のホテルは、新型コロナが問題化する前、日本をはじめとした各国からの旅行客が利用する場所だった。海外からの入境に大きく制限がかけられた今、地元客の掘り起こしにさまざまなプランを提供している。
そのひとつが、ホテル内のレストランで提供するビュッフェでの新企画だ。台北市内の士林夜市で老舗のかき氷店として名高い「辛發亭」とのコラボとして、かき氷を提供する、というもの。
「開業以来、初めて取り組んだイベントです。かき氷は、台湾人にとって懐かしいひと品でもあります。昔ながらの味をお客様に提供することで、ホテルに足を運んでいただけたらと考えて企画しました」
以上、1世紀ほど前から今までのかき氷を辿ってみた。夏はまだまだこれから。体を冷やしすぎないようにかき氷を楽しみつつ、この夏を乗り切りたい。