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「このままでは飢え死にする!」ロックダウンで食料不足の上海で起きている悲痛な叫びと「食料格差」問題

中島恵ジャーナリスト
(写真:ロイター/アフロ)

「どうしよう…もうすぐ食べ物がなくなりそう……。団購(マンションや同じ地区の有志らと共同で購入する団体購入というシステム)に申し込んでみるけど、ダメかもしれない……」

4月8日朝、上海在住の友人がSNSにこのような書き込みをしていた。

つい3日ほど前までは食料もあり、在宅ワークなので自分は心配ない、と元気に話していたばかりだったが、ロックダウンが延長されて以降、ネットスーパーも機能しなくなり、急に不安にさいなまれたようだ。

その後も「食料を購入できた」という連絡はない。

「食料が足りない!」という声

もちろん、このような厳しい状況に置かれているのは、この人だけではない。

大勢の人が「(ロックダウンが)ここまで長引くとは思わなかった」とショックを受けており、今、人口2600万人という東京都の2倍近い巨大都市で、多くの人が「食料が足りない!」「物資が欲しい!」「(コロナ以外の病気で具合が悪く)病院に行きたい!」などさまざまな声を上げている。

マンションによっては、窓から大勢の人が一斉に外に向かって叫んでいるし、マンションの1階で数人が拡声器を使って「食料をよこせ!」「死にたくない」と抗議活動を行っているところもある。

SNSにSOSの投稿が相次いでいる

SNSに「求救!!!」(HELP!)という文章を投稿する人も、この1~2日で急激に増えた。

筆者も昨日、外出中にそうした投稿を友人がいくつか教えてくれて、あとでじっくり内容を読もうと思っていたら、数時間後に投稿自体がネット検閲により削除されていて、もう読み返すことができなくなっていた。

政府にとって都合の悪い情報は次々と統制されているようだ。

上海で深刻な食料不足が起きているのは、もちろん、3月28日以降、市を東西に分けて行われている大規模なロックダウン(都市封鎖)の影響だ。

ロックダウン解除の見通しは立たず

当初は各4日ずつの予定で、4月5日には解除されるはずだったが、感染者が日に日に増えていき、延長された。4月8日時点で感染者は過去最高の2万2000人を超えたため、解除の見通しはまったく立っていない。

上海市は3月11日以降、マンション群ごと(数千人規模)のプチ・ロックダウンを行ったり、解除したりしていたため、最も長いところではすでに4週間近いロックダウンとなっているところもある。

上海市は政府と同様「ゼロコロナ」政策を堅持する姿勢を貫いており、これだけ感染者が増えたからには、部分的に解除することも難しいだろうといわれている。

配給だけでは全然足りない

ロックダウン開始後、市は無料の食料配給を始め、不足している食料問題を少しでも改善しようとしているが、まったく追いついていないのが現状だ。

1回目の配給のときは、急場しのぎだから「もらえるだけ、ありがたい」といって配達員を労ったり、感謝したりしている人が多かったようだが、それぞれが配給品を写真に撮り、SNSに投稿すると「なんでうちには肉がないの!?」と不満を言い出す人もいた。

筆者も当初、あまりに急なロックダウン開始に、とくに東部地区で不満が高まっている人が多いと聞いて取材したが、西部地区の人にも不満はあった。

「確かに私たち(西部地区)はスーパーには行く時間があったけれど、行ったらほとんど売切れで、あまり買えずに戻ってきた」と落胆していた人が多かった。

いずれにせよ、食料のストックが万全な状況でロックダウンに入ることができた人は多くなかったのだ。

ロックダウン直前、ほぼ空っぽになったスーパー(上海市内で、筆者の友人撮影)
ロックダウン直前、ほぼ空っぽになったスーパー(上海市内で、筆者の友人撮影)

だが、ここへきて、「食料格差」と呼べるような状況も起きており、それもまた上海市民の不満の原因の一つとなっている。

東西の地区で事情がかなり異なる

具体的にどの地区のどのマンションとは明記できないが、さまざまな情報を総合すると、どちらかといえば西部のほうがやや食料事情はよく、東部のほうがやや厳しい状況になってきているようだ。

東部は金融街を中心としたエリアや郊外の比較的新しい住宅地、浦東国際空港があるエリアなどだが、ロックダウン決定から数時間後に外出制限となったため、西部よりも先に食料不足に陥ったという気の毒な面がある。

また、感染者数が東部のほうが多いことも関係しているのではないかと考えられる。動画で「物資が欲しい!」と叫んでいた人々も、東部地区に属する地区のマンションだ。

一方、西部は南京路、新天地などの観光地や、日本人、韓国人などが多く居住するエリア、虹橋国際空港などがあるエリアで、筆者の知人もこちら方面に住んでいる人が多い。

話を聞いた中で、「食料にはまったく困っていない」と言っていた人が数人おり、その人々はたまたま西部地区だった。

食料格差の問題

その人々は無料の配給のほか、冒頭に書いた団体購入、政府からの購入(政府配送)もすべて問題ないと話していた。政府からの購入は注文した当日には配送されず、翌日になるものの、ほぼ確実に入手できるとのこと。

配給も来ず、団体購入すらできないところの人からすると信じられないような話だが、その人は昨日(4月8日)時点でも物資は十分ある、と話していた。

一口に上海市といっても、冒頭に書いた通り、東京都の2倍近い人口、3倍近い面積がある。

これだけの広大な都市に住む人々に、平等に食料を配給したり、購入・配送できるシステムを構築し、人員を配置することはほぼ不可能といってもいいだろう。

だが、SNSで何でも見えてしまう時代、「なぜ、我が家やこの付近の住人だけ、こんなに食べものに困っているの?」「あの地区のマンションだけ先に物資が届くようになっているのでは?」という不満や不信感を持つのは、当然のことだろう。

上海の人々に聞いてみると、同じマンション内の知人とこっそり物々交換したり、分け合ったりしているそうだが、それだけでは全然足りない。

各地区(東京都でいえば区や市のこと)の担当者の行政手腕の差が物資の配送スピードや管理体制に出ているのであって、マンションや各住民の違いではないという話をする人もいるが、実態はよくわからない。

マンションによって全部違う

ただ、上海だけに限ったことではないが、中国では地区ごとに行政のやり方に差があり、マンションごとに管理の仕方もバラバラであることは確かだ。

同じ地区でもマンションが違えば、管理者の方針や厳しさも異なり、こちらのマンションでは見て見ぬふりをしてくれるけれど、あちらのマンションでは許されないということも多い。

住民が法律や規則を振りかざしても、結局、管理者との個人的な人間関係が良好かどうかがモノをいうということも、中国ではよくある。だからこそ、不公平感も高まるのだ。

まして、家に何日も閉じ込められている現状では、ストレスがピークに達している人も少なくなく、精神的なケアを必要としている人もいる。

せめて、ネットスーパーの機能が早期に回復し、人々が「飢える」ことのないようにと祈るばかりだ。

ジャーナリスト

なかじま・けい ジャーナリスト。著書は最新刊から順に「日本のなかの中国」「中国人が日本を買う理由」「いま中国人は中国をこう見る」(日経プレミア)、「中国人のお金の使い道」(PHP新書)、「中国人は見ている。」「日本の『中国人』社会」「なぜ中国人は財布を持たないのか」「中国人の誤解 日本人の誤解」「中国人エリートは日本人をこう見る」(以上、日経プレミア)、「なぜ中国人は日本のトイレの虜になるのか?」「中国人エリートは日本をめざす」(以上、中央公論新社)、「『爆買い』後、彼らはどこに向かうのか」「中国人富裕層はなぜ『日本の老舗』が好きなのか」(以上、プレジデント社)など多数。主に中国を取材。

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