「スケジュールが真っ白」。コロナ禍で「しずる」が見出した“先が見えない中でやるべきこと”
「キングオブコント」で過去に4回決勝に進むなど、コント師として絶対的な地位を築いてきた「しずる」の村上純さん(40)と池田一真さん(37)。新型コロナ禍で予定していた単独ライブが延期になり、26日には配信ライブの形で「しずるの公にするにはやり過ぎだと言われたコントを強引にお届けするコントセレクション(村上作)~gift~」を開催します。ネタに定評のあるお二人ですが、コロナ禍で披露する場がままならない。あらゆる変化を迫られる時代にもなりましたが、その中で湧き上がってきた思いをストレートに語りました。
先が見えない中でやるべきこと
村上:毎年2回、単独ライブをやっているんです。夏は池田が中心となって考えて、冬は僕が考える。今年2月26日が5回目の冬の単独ライブになるはずだったんですけど、緊急事態宣言が出て通常のカタチではできなくなってしまった。
ただ、何もしないのもイヤなので、これまでのベスト盤というか、選りすぐりのコントを配信でお見せする形にしてみました。
今回の流れもまさにそうですけど、コロナ禍で、あらゆる仕事がなくなりました。去年の春ごろからスケジュールが真っ白になりだして。これは何かしないといけない。
そこから文章を投稿するSNS「note」を始めてみたんです。書く以上は一生懸命に書こうと思い、力を込めてNSC時代の思いなんかを書いたりしてました。
書き出して、少し経った頃に「バッファロー吾郎」のA先生が「面白い」と言ってくださって。そこから話が進んで、結果、一緒にいろいろな芸人さんにじっくりインタビューをする配信ライブをやらせてもらうようになったんです。
なかなか真正面から芸人同士でしっかり話すということも実はあまりないですし、コロナ禍もあったからか、普通なら聞くことがない突っ込んだお話もたくさん聞けましたし、めちゃくちゃ勉強になりました。
いろいろな芸人さんが奥に秘めていた話を聞いてマインドも変わったというか、結果、前向きになれました。
インプットした部分もあったし、一方で、これは良い意味で「人は人。自分は自分」と確認できた部分もあった。そんな時間を経験して、それまでよりも、自分の言葉で堂々と話ができるようになったと感じています。
状況としては立ち止まっているのかもしれないけど、逆に世界が広がる。そんな時間にもなっている気がします。
先が見えない時代で、明日、何が起こるか分からない。なので、先々の目標というよりも、目の前にあることをどれだけできるのか。
そして、結果的に、それをしていると、実は先々につながっていくし、視野も広がる。もちろん、コロナ禍は大変なんですけど、大変だけでなく、そんな感覚も学びました。
池田:僕もコロナ禍であらゆることを考える中、いろいろなものをシャットダウンしようと思ったんです。
正直、何も思いつかなかったというのがあるんですけど(笑)、僕は他人からの影響を受けたら、そのまま出してしまうクセがあるんです。
なので、コロナ禍であらゆる接点がなくなった中で、強く誰かの影響を受けると、完全にその人になっちゃう。ちょうど去年の2月に子どもが生まれたこともあって、自分がやるべきこともできましたし、より自分自身とだけ対話するような時間を過ごしてました。
ただ、その中で、ラジオを聴く時間が増えたんです。ラジオにはもちろんニュースの時間もありますし、時期的に、ちょうどアメリカの大統領選挙もあったので、知らず知らずのうちにトランプさんの影響は受けていたかもしれません…。
その中で感じたことですか?トランプは横暴だなと思いました。
村上:(笑)
池田:でもね、本当に心に響いたというか、考えた部分もあったんです。
僕は今まで自信がないというか、自分を出したり、みんなを従わせるみたいなことがなかったんです。だけど、もう少し“トランプテイスト”というか「自分は、こうするんだ!」とハッキリ主張する。それも必要なのかなと。
ただ、言った以上、その責任は自分で取る。そこまでがセットになってないとダメだし、じゃないと、それこそ横暴になるなと。まさか、お笑いをやってて、大統領からインスパイアを受けるとは思ってなかったですけど(笑)。
「哀愁しんでれら」
村上:あと、さっきのインプットということでいうと、最近、強烈にインプットすることがあったんです。
映画「哀愁しんでれら」を見たんですけど、とんでもない衝撃を受けまして。たまたま監督が知り合いだったので、見終わった後、すぐ電話をかけて長々と感想をぶつけたくらい心に刺さったんです。相手の迷惑も顧みず(笑)。
その後「note」に1万文字くらいで、レビューを書かせてもらいました。自分の思い。見た後に人と話したこと。そういったものを全部、全力で文字にしたんです。
中には「ステマじゃないのか」みたいな見方をする人もいましたけど、僕が純粋に伝えたいことを綴って、勝手に宣伝しているだけなので、そこには僕の本心しかない。
そうすると、また次の流れが来るというか、映画のファンの方とつながったり、それを求めて計算してやったわけでは全くないのに、新たな動きが出てくるんです。
目の前のことに熱中したら、何かにつながる。すぐ仕事につながるとかではなく、もっと大きな意味で、その熱が何かにたどり着く。そして、何がどうなろうが、熱中したことは自分の中では絶対に無益じゃない。そんなことを改めて思いました。
「キングオブコント」優勝
池田:今年を見据える中で、僕は明確に「キングオブコント」優勝。大きな目標になるかもしれませんけど、これを掲げたいと思っています。
なぜかというと、今年の「キングオブコント」はより一層、熾烈な戦いになると思うんです。コロナ禍でみんな仕事が減ってる。先も見えない。本当に苦労していますし、ある意味、乾いて、飢えている。
賞金1000万円というのも大きいですけど、それだけじゃない“栄養”を求めて、今年の「キングオブコント」はこれまで以上にバチバチになると思うんです。
その大会で、他の芸人をガッチリねじ伏せて優勝する。ここにはすごく大きな意味があると思っていますし、正直、これから多くの芸人が辞める時代にもなると思います。
一方で、売れる人はどんどん売れていく。その二極化を乗り越える意味でも、今年の「キングオブコント」の栄養価はすさまじい。
みんなが目を血走らせて、いろいろな武器を持って集まってくる。その中には、恐らく「哀愁しんでれら」をインプットしてネタにしてくるコンビもいると思います。いい映画だからこそ、その確率は高くなると思いますし。なので、僕はあえて「哀愁しんでれら」からは距離を置き、そして「哀愁しんでれら」カブリには最大限気をつけながら「キングオブコント」に向けて準備をしたいと思います。
村上:いや、本当に、いい映画なんだけどね(笑)。
池田:ただ、勝つためにはそれ相応のトレーニングをしないといけない。去年の大みそかにあった「RIZIN」で、堀口恭司選手対朝倉海選手の試合を見たんです。
試合後の解説で、勝者の堀口選手が「練習したことを、いかにそのままできるか。反復してきたことを機械的に出せる人間が強い」とおっしゃっていたんです。
この言葉に感銘を受けまして。一つのネタの精度をひたすら上げる。完成度を高くする。10本作ってそのうちの1本というよりも、2本作ってそのうちの1本の精度を上げる。それが勝つための戦いなのかなと。そんなことも考えています。
あとね、最後はどうしても、精神的な強さの世界にもなってくると思うので、そこはトランプさんの強さも参考にしながら…。やっぱり、影響されちゃってますね(笑)。
(撮影・中西正男)
■しずる
1981年1月14日生まれで東京都出身の村上純と、84年1月17日生まれで埼玉県出身の池田一真が2003年にコンビ結成。NSC東京校9期生。独創的な設定のコントで注目を集め「キングオブコント」では09年、10年、12年、16年と決勝に進出している。無観客オンライン配信ライブ「しずるの公にするにはやり過ぎだと言われたコントを強引にお届けするコントセレクション(村上作)~gift~」を開催する。イベントの詳細は「オンラインチケットよしもと」(https://online-ticket.yoshimoto.co.jp/)で確認できる。