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豊島名人(29)竜王戦3連勝 歩を1枚補充で詰めろ逃れの詰めろの変化&打ち歩詰め回避で奇跡的大逆転

松本博文将棋ライター
(記事中の画像作成:筆者)

 11月9日・10日、兵庫県神戸市・神戸ポートピアホテルにおいて、竜王戦七番勝負第3局▲豊島将之名人(29歳)-△広瀬章人竜王(32歳)戦がおこなわれました。棋譜は公式ページをご覧ください。9日9時に始まった対局は10日19時35分に終了。結果は157手で豊島名人の勝ちとなりました。

 豊島名人はこれで七番勝負を3連勝として、初の竜王位獲得まであと1勝と迫りました。

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 第4局は11月21日・22日、山梨県甲府市・常磐ホテルでおこなわれます。

豊島名人、奇跡的な勝利をたぐり寄せる

 トップ棋士として充実著しい両者。王将戦リーグでは、先日ともに勝利を収めています。

【前記事】

広瀬章人竜王(32)王将戦リーグ暫定トップの4勝目 挑戦権獲得に前進

 また広瀬竜王は7日におこなわれた王位戦予選で、石川陽生七段に必敗形に追いこまれながら、大逆転勝利を収めています。

 第3局は豊島名人の先手。戦形は角換わり腰掛銀となりました。49手目に豊島名人が前例から離れる手を指して、そこからは未知の局面に入ります。

 1日目の進行は68手まで。中盤でかなり進み、そして形勢が均衡している局面で、豊島名人が69手目を封じ手としました。

 2日目に入って、豊島名人の本格的な猛攻が始まります。桂頭に歩を打つ華麗な筋も織りまぜ、さらには馬(成り角)を相手に取らせ龍(成り飛車)を作り、広瀬陣に迫りました。しかしこの順を選んだために「苦しくなってしまった」と豊島名人は反省していました。

 広瀬竜王は巧みにしのぎます。豊島名人の鋭鋒をかわし、豊島陣の急所に筋よく歩を突き出します。

豊島「困ってしまった」

広瀬「感触がよかった」

 と両者の感想は一致しました。そして受けに打った角が出世して、馬となって豊島玉に迫る形となり広瀬竜王がはっきり優位に立ったようです。

 終盤戦。広瀬竜王はちょっと気づきにくい筋で、豊島玉への寄せの網をしぼります。そして豊島玉、広瀬玉ともに、きわどく詰むや詰まざるやという局面で、広瀬竜王は勝勢を築きました。

 強者はここからが強い。豊島名人は局面を単純化させず、複雑なままに保って、逆転のチャンスをうかがいます。

 そして128手目。ここが運命の分かれ道となりました。広瀬竜王が金を中段に出た手は、うまい攻防手のようにも見えました。しかしわずかに読み抜けがありました。

 変化の先の局面で、広瀬竜王の玉は、豊島名人に歩が1枚足りないために、助かっているように見えます。しかし1筋の広瀬玉から遠く離れた8筋の歩を取る筋が生じていて、そこまで進めば広瀬玉は詰めろがかかり、豊島玉は詰めろがはずれます。

 つまり「詰めろ逃れの詰めろ」で逆転という、驚くべき奇跡的な順が存在していました。

 2000年の竜王戦第7局。藤井猛竜王と羽生善治五冠の最終決戦で、藤井竜王が互いの2筋の玉からは遠い8筋の歩をじっと補充して、竜王位防衛を果たした故事がありました。それを彷彿とさせる劇的な筋が生じたのは、何か運命的なものを感じさせます。

 広瀬竜王はその筋が表れない順を選んだために、以上は実戦の棋譜には表れない変化となりました。

 広瀬竜王が選んだのは、打ち歩詰めの筋で自玉が逃れる順でした。そして他の筋で詰ましにきても、ギリギリで逃れています。豊島名人はその罠を見破って、前述の筋とはまた違う、広瀬竜王の要の金をはずす「詰めろ逃れの詰めろ」を実現。

「ほんと将棋って怖いですよねえ・・・」

 解説の深浦九段がしみじみと語るような、奇跡的な大逆転で、豊島名人が大きな一番を制しました。

「着地に失敗してしまった」

 広瀬竜王は局後にそう語っていました。感想戦では、広瀬竜王の勝ち筋が確認されて、1時間ほどで終了となりました。

 広瀬竜王はこれで3連敗。苦しくなりましたが、まだ望みがないわけではありません。将棋のタイトル戦の七番勝負では、3連敗から4連勝した例は過去に2回あります。やはり竜王、名人決戦となった2008年の竜王戦七番勝負。渡辺明竜王は羽生善治名人を相手に、史上初めて3連敗からの4連勝を達成しています。

 一方の豊島名人は、鬼神のごとき強さです。将棋界4人目の竜王位・名人位同時制覇に向けて、あと1勝と迫りました。

将棋ライター

フリーの将棋ライター、中継記者。1973年生まれ。東大将棋部出身で、在学中より将棋書籍の編集に従事。東大法学部卒業後、名人戦棋譜速報の立ち上げに尽力。「青葉」の名で中継記者を務め、日本将棋連盟、日本女子プロ将棋協会(LPSA)などのネット中継に携わる。著書に『ルポ 電王戦』(NHK出版新書)、『ドキュメント コンピュータ将棋』(角川新書)、『棋士とAIはどう戦ってきたか』(洋泉社新書)、『天才 藤井聡太』(文藝春秋)、『藤井聡太 天才はいかに生まれたか』(NHK出版新書)、『藤井聡太はAIに勝てるか?』(光文社新書)、『棋承転結』(朝日新聞出版)など。

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