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「両親に毒を盛り込んで…」旧統一教会の親により、追いつめられる宗教2世。兄妹は1世信者の財布になった

多田文明詐欺・悪徳商法に詳しいジャーナリスト
(写真:つのだよしお/アフロ)

「こっそりと両親に毒を盛り込んで殺せないかな」

そこまで思い悩むほど、追いつめられた祝福2世もいます。

20代女性の武田さん(仮名)は、日本人の母と外国人の父のもとに生まれた国際祝福2世です。両親は1980年代の合同結婚式に参加して、文鮮明教祖に決められた相手と結婚しました。彼女には兄もいますが、兄妹で金銭的に苦しい生活を送ってきたと話します。

「両親はお店を経営していました。お客さんもたくさんきて商売繁盛しているのに、いつもお金がないんです。水道を止められたこともあります。電気、ガスも2~3回、あったでしょうか。家賃滞納でアパートを追い出されたことも10回位はありますね。それなのに、家には壺や弥勒菩薩、善霊堂(霊感グッズ)などがありますから、相当な献金をしたんだと思います。以前に母に『この壺はいくらなの?』と聞くと『レンタルだから』とはぐらかされました」

壺のレンタルなど聞いたことがありません。子供に嘘をついたか、そういう形にして分割で献金をずっと払わされているかのどちらかと思われます。

両親の言葉に、2世の心は追いつめられていく

「父と母はいつも喧嘩をしていて、仲はよくなかったです。双方ともお互いが嫌いだけれど、教祖によるマッチングですので別れられずに、やむをえず一緒にいるという感じでした。私が『離婚すれば』といったこともあります」

特に母親の言動に、武田さんは嫌悪感を抱いたといいます。

「子供の頃、母親とクッキーを作る約束をしていて、家に帰ってきたので、エプロンをつけて楽しみに待っていると、不機嫌そうな様子で帰ってきて『やらない!』と吐き捨てるようにいうんです。それで仕方なく一人でクッキーを作って失敗すると、母はその様子を見て「あんたは、きちがいだから、失敗するの!」と罵ってきます。本当にショックでした。何かにつけて母からは「あんたは、きちがい」という言葉を何度もいわれました」

一方で父親も彼女にひどい態度を取ったといいます。

「私が泣いていると『こんなうるさい娘は、俺の子ではない!』と怒鳴り散らすんです。もう心は限界でした」

両親から数々の言葉の暴力を受けていたことがわかります。

毒を盛って殺せないかと、本気で考えた子供時代

「ここだけの話ですが…」

彼女はその時に抱いた気持ちをこっそりと打ち明けます。

「小さい頃に、毒のある花があることを知り、こっそりと両親に毒を盛り込んで殺せないかを考えました。それで当時、同じように信仰のない兄に相談したところ『完全犯罪は難しい。バレるからやめた方がいい』と止められました。今では、思い留まってよかったと思います。その後も、兄には色々と助けてもらいました」

信者である親を殺したくなるほど、嫌いだった気持ちを持っていたことを吐露します。本当に2世は正直に心の内を話せないために、どれほど苦しい気持ちを抱えていることでしょうか。

兄も信仰なし。不信感は信者らの行った泥棒まがいの行為から

彼女の兄も教団への不信感があったと話します。

「その理由の一つに『子供の頃、教会に行くたびに、お小遣いを貯めてやっとの思いで買った遊戯王カードがなくなった。誰が盗んだのか。信じられない』といっていましたね」

これには筆者も経験があります。

献身(出家)した後に、わずかに支給される小遣いで買ったお菓子などを冷蔵庫に入れて置くと、いつの間にかなくなっているのです。それで、冷蔵庫には本人の名前が書かれた「〇〇主管(管理)」という食べ物がたくさんありました。しかしそれでも食べられることはあります。

偶然、その犯人を捕まえたら、責任者の女性だったこともあります。もう口のなかに食べ物は入っていました。

「それ自分のですけど」というと「この世の物は神様のものだから、皆で共有しなければならない。自分のものだという意識をもってはいけない」という詭弁を弄して、謝ることなく去っていきました。

神様を中心とした生活をする上では「自分の物」という自己中心なサタン的思考を捨てて、すべての物は神様の名のもとに「皆の物」(共有財産)として扱うべきだという、首を傾げるような信仰観を持つ人もいます。すべての信者というわけではありませんが、人の物を「盗んだ」という罪悪感がなく、勝手に食べる人がいたのです。

おそらく信者だった人はホーム(教団施設)や修練会などで、食べ物や日用品などの小物がなくなった経験をもっていると思います。今思えば、本当に社会規範のない組織でした。彼女の兄が教団への不信感を募らせるのもよくわかります。

高校を中退して、一人暮らしをする

武田さんは子供の頃から、困窮した生活を送ります。

「家には親はおらず、ほとんど食べ物がないので、ご飯と梅干だけといった食事をとることもありました。一番のご馳走は学校の給食でした。しかし、机の上には給食費未納の請求袋が置かれていて…、とても後ろめたい気持ちでご飯を食べていました」

武田さんはすこしでも早く、旧統一教会と信者の親から逃れたいと考えるようになります。

「自分がもしこのまま祝福を受けたら、両親のように毎日罵り合いながら生きていくことになるかもしれない。それだけは絶対に嫌だった」と話します。

武田さんは、高校を中退し家を出て一人暮らしを始めます。

両親は自己破産、そして兄も巻き込まれる

「すでに成人になっていた兄が保証人となり、住む場所を借りてくれました。そしてコンビニなど様々なアルバイトをしてお金を貯めました。その頃、両親の店はつぶれて、父はニートになり、母は教団職員として数万円の手取りをもらっていました。しかし二人の住宅の家賃は十万円を超える、母の手取りの倍近いところに住んでいました」

結果、両親は自己破産します。

「もちろん、お店の負債もあったと思います。ですが、商売は繁盛していたので、何十年にわたって高額な献金をし続けた結果だと思います。かわいそうなのは、兄でした。両親にお願いされて、お金を出させられたのか、あるいは連帯保証人になったのかはわかりませんが、両親と一緒に自己破産しました」

信者である2世の子供がいつも親の犠牲になります。

両親は知人に借りた借金がいまだあり、返済しています。今も、お金に困ると彼女のところにきて「生活費を貸してほしい」と無心してくるそうです。仕方なく、彼女はお金を渡すといいます。

厳しい言葉であえていいます。子供にいつまでも、お金を無心し続ける親。これが多額の献金をし続けた1世信者の偽らざる姿であり、この土台の上に今の教団があることを忘れてはいけません。

宗教2世の子供たちを保護してくれる仕組みをつくってほしい

今、武田さんは結婚して、親となり子供を育てています。

「兄は身ぐるみ剝がされた上、今でも私たち兄妹は両親の経済的な補填を強いられて、1世信者の財布になってしまっています。こうした宗教2世は山ほどいると思います。母親となった今、このような親子関係は異常であると思っています」と憤りをこめて話します。

「私は子供の頃、両親の知る大人たちに助けを求めました。しかし両親の外面が良かったために、誰も私たち兄弟の被害に耳を傾けてくれず、助けてもらえませんでした。ぜひとも、宗教2世の子供たちを保護してくれるような仕組みを作ってください」

今も苦しむ子供たちの未来を守るために、一日も早い旧統一教会による被害防止、2世救済の法整備を武田さんは強く訴えます。

詐欺・悪徳商法に詳しいジャーナリスト

2001年~02年まで、誘われたらついていく雑誌連載を担当。潜入は100ヶ所以上。20年の取材経験から、あらゆる詐欺・悪質商法の実態に精通。「ついていったらこうなった」(彩図社)は番組化し、特番で第8弾まで放送。多数のテレビ番組に出演している。 旧統一教会の元信者だった経験をもとに、教団の問題だけでなく世の中で行われる騙しの手口をいち早く見抜き、被害防止のための講演、講座も行う。2017年~2018年に消費者庁「若者の消費者被害の心理的要因からの分析に係る検討会」の委員を務める。近著に『信じる者は、ダマされる。~元統一教会信者だから書けた「マインドコントロール」の手口』(清談社Publico)

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