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リーグワンの「長過ぎるチーム名」が示す、日本ラグビーの困難と“根本的な欠落”

大島和人スポーツライター
NTTコムはチーム名の長さが話題に(写真:つのだよしお/アフロ)

チーム名が長いリーグワン

自分はスポーツライターとして、ラグビーの原稿をそれなりの頻度で書いている。執筆時に考え込んでしまう難題がチーム名の表記だ。原稿の内容ならば、悩んでいるうちに答えが見つかる。しかしジャパンラグビーリーグワンのチーム名は、どう書いてもハマらない。

5月21日と28日に行われたリーグワンの1部・2部入替戦では、NTTコミュニケーションズシャイニングアークス東京ベイ浦安が三菱重工相模原ダイナボアーズに敗れて、2部降格を決めている。

「NTTコミュニケーションズシャイニングアークス東京ベイ浦安」は合計29文字。一般的に初出が正式名称、2度目以降は略称という記事執筆のルールがある。限られた字数で読者に情報を届けよう、一文字でもムダを削ろうと努力している文筆業従事者にとっては、悪夢のようなボリュームだ。

記事に使う写真をデータベースから検索しようとしても、どのキーワードで検索したらいいのか分からない。

1部昇格を決めた「三菱重工相模原ダイナボアーズ」も14文字なので、それなりに長い。

この長さには理由がある。そしてこの長さはリーグワンのチームが置かれた状況の難しさを象徴している。

統一されないチームの呼び方

リーグワンが開幕した直後、知り合いのスポーツアナウンサーに「NTTコムの呼び方をどうするのか」と聞いたことがある。「特に指示は受けていないけれど、“エヌコム”だけはNGと言われた」との説明だった。これは「NTTコムウェア」「エヌコム」という企業が存在することに対する配慮だろう。

結果として中継では「NTTコム」「アークス」「浦安」など複数の呼び方が許容され、並立している。関係者のコメントを見聴きした限りでは、慣れ親しんだ社名が一般的に見える。

もっとも各チームの公式な略称はリーグが定めていて、NTTコムならばSA浦安だ。ただしディビジョン1の12チーム中4チームの略称に“東京”が入っていて、BL東京(東芝ブレイブルーパス東京)とBR東京(リコーブラックラムズ東京)のような混同の起こりやすい略称もある。

またサンゴリアス、ワイルドナイツのような愛称ならば馴染みがあっても、「東京SG」「WK埼玉」といった文字列はどうもピンとこない。何より大手中の大手であるNHKはリーグの方針に反して社名呼び、社名表記を貫いている。

静岡ブルーレヴズのようにチーム名から企業名を完全に外して「静岡」「レヴズ」で定着しつつあるチームもある。リーグやメディアの新呼称定着に向けた努力が足りないと憤慨しているファンもいるだろう。

企業名、地名のどちらを選ぶか?

とはいえこの問題は“名前だけの問題”ではない。各チームが置かれた困難をそのまま反映していて、小手先の努力では解決しない部分もある。

そもそもスポーツチームに名前があるのは何故だろう?それは「自分たちが何者であるか」を示し、伝えるためだ。

阪神電鉄という大阪と神戸の間を走る鉄道会社があり、その傘下にある野球チームは阪神を名乗る。名古屋で活動するサッカーチームならば名古屋を背負う。これは極めて自然な話だ。

プロ野球は伝統的にオーナー企業に依存する傾向が強く、阪神に限らず企業名を冠してきた。一方で1993年に開幕したサッカーのJリーグは地域密着を標榜し、自治体との関係を強める、市民から広く支えられる体制を志向した。今はプロ野球も地域への浸透を強めていて、逆にJにもオーナー色の強いクラブは出ているが、いずれにせよ「会社と自治体のどちらに軸足を置くか」という選択がチーム名のベースにある。

自治体の冠にも選択がある。2021-22シーズンのBリーグ王者・宇都宮ブレックスは2019年まで栃木ブレックスを名乗っていた。背景には「新アリーナを県と市のどちらと組んで建てるか」という選択があった。パートナーを宇都宮市にすると定めた時点で、チーム名を宇都宮に切り替えたと聞いている。つまりこういったネーミングには基準、確かな理由がある。

「要素」が多いリーグワンのチーム名

リーグワンの各チームはオーナー企業からの支援に依存して、運営を成り立たせている。地域密着の努力は始めたものの、まだ移行期間でスポンサーの開拓や自治体との協力関係構築が進んでいない。チームが自治体と組んで新スタジアムを建てる、オーナー企業以外のスポンサー収入で経営を成り立たせる状態になれば、社名は自然と外れるだろう。しかしそれは今後の可能性で、現状の運営体制を見れば、社名推しが自然にも思える。

プロスポーツチームの名称は、基本的に2つの要素から成り立っている。それは「社名+愛称」か「地名+愛称」だ。ラグビーは「社名+地名+愛称」の3要素から構成されているケースが大半で、まずこれで長くなる。

命名に苦しみつつ工夫するJリーグ

もう一つはプロスポーツチームが抱える“愛称候補不足”の問題がある。伝統のあるプロ野球チームはタイガース、ライオンズ、スワローズと分かりやすい英単語を採用している。しかしプロスポーツ以外にも様々なブランド名で横文字が採用されたことで、“かっこいい英単語”は商標登録され尽くしてしまっている。

Jリーグは「意味不明なチーム名が多い」とよく批判される。「アントラーズ(鹿の角)」や「グランパス(シャチ)」などは英単語を採用できた例だが、スペイン語で船乗りを意味するマリノス、イタリア語で脚を意味するガンバなど、英語以外から愛称を選んだ例が多い。バスケならばアルバルク東京が、アラビア語由来の愛称を採用している。

合成語、造語の活用もJクラブの特徴だ。例えばレイソルはスペイン語由来で王+太陽(Rey+Sol)の合成語だ。「カマタマーレ」「コンサドーレ」「テゲバジャーロ」は、ご当地要素を外国語風にした造語を愛称にしている。

“英単語の合成”でさらに長く

一方で「パープル」を削った京都サンガ、「エイト」を削った名古屋グランパス、「1969」を削った東京ヴェルディのように、愛称短縮化の動きもある。端的に言えばチーム名は短いほうがいい。

ラグビーもサッカーと同様に後発勢力で、名付けに苦労する。その結果として多くチームが“合成語”を採用している。一方でサッカーのようなラテン系志向はなく、大企業傘下のお堅いカルチャーもあり、奇抜なネーミングは好まれていない。リーグワンの1部を見れば「ワイルド+ナイツ」「ブレイブ+ルーパス」「シャイニング+アークス」「レッド+ハリケーンズ」という具合に、英単語を2つ重ねたチーム名がマジョリティになっている。

「阪神+タイガース」「鹿島+アントラーズ」ならば、2つの要素で完結する。しかしリーグワンは社名と地名の2つを背負い、なおかつ愛称にも“2つの要素”が入る。チーム名は必然的に長くなってしまう。

浮気せず一つのチームだけを追うファンならば、チーム名が長くても気にしないだろう。しかし、これからラグビーファンを増やすためには“入口”を広げる必要がある。

そもそも「何のために名前はあるのか」という原点に戻って欲しい。自分が何者かを名乗る目的は、相手に認知してもらうことだ。ラグビーが地域密着を目指すなら「人を喜ばせる」「愛してもらう」ことがカギになる。その前提はチーム名を覚えてもらうことだ。

鉄則は“シンプルで区別しやすい”こと

覚えてもらいやすいチーム名の条件は“シンプルだけど他と区別しやすい”ことだ。例えば「BR東京」と「BL東京」は明らかに紛らわしい。そもそも「ルーパスの頭文字はLかRか」とすぐ分かる日本人は少数派だ。

リーグワンと各チームは名称と略称の設定について、もっと工夫できるはずだ。Jリーグ・松本山雅FCのような漢字の名乗りもありだろう。「FC東京」「FC琉球」のような、愛称を無理に入れない選択もある。イタリアの名門クラブ名をもじりつつ、しっかり意味をもたせて短くまとめたサガン鳥栖もネーミングの成功例だ。日本語としての口のしやすさ、覚えやすさは前提だが、愛称の設定には様々な工夫がある。

残念ながらリーグワンは「名称、略称を人に伝える工夫」を怠っているチームが多い。

NTTコミュニケーションズシャイニングアークス東京ベイ浦安は、やってはいけないネーミングの究極例だ。そもそも社名に「NTT+コミュニケーションズ」という2要素が入っていて、愛称も「シャイニング+アークス」の2要素から構成されていて、地名も欲張ってやはり「東京ベイ」と「浦安」の2要素を入れている。合計6要素で、普通のチーム名の3倍だ。

リーグの公式略称はSA浦安だが、「エスエーウラヤス」は音声メディア向きでなく、さらに「S東京ベイ」を略称とするクボタスピアーズ船橋・東京ベイと紛らわしい。結果として「NTTコム」「アークス」「浦安」「東京ベイ」の呼称が乱立し、クボタとの区別もつきにくいという、かなり残念な状態に陥っている。

難しい条件の中でも工夫、努力を

リーグワンの各チームは、まず「親会社を捨てられない」体質を残している。後発のスポーツエンターテイメントとして、使いやすい単語が残っていない状況もある。つまりリーグワンのチーム名問題は、自力だけで解決できない部分が大きい。

とはいえネーミングはブランドイメージを構築する一丁目一番地で、プロスポーツに限らぬビジネスの基礎だ。そこを疎かにしたままなら、リーグワンの各チームが成功するはずはない。前へ進むもうとするなら与えられた条件の中で知恵を巡らし、努力するしか道はない。ラグビー界に欠落しているものは「何のために名乗るのか」という根本的な思考と答えだ。

スポーツライター

Kazuto Oshima 1976年11月生まれ。出身地は神奈川、三重、和歌山、埼玉と諸説あり。大学在学中はテレビ局のリサーチャーとして世界中のスポーツを観察。早稲田大学を卒業後は外資系損保、調査会社などの勤務を経て、2010年からライター活動を始めた。サッカー、バスケット、野球、ラグビーなどの現場にも半ば中毒的に足を運んでいる。未知の選手との遭遇、新たな才能の発見を無上の喜びとし、育成年代の試合は大好物。日本をアメリカ、スペイン、ブラジルのような“球技大国”にすることを一生の夢にしている。21年1月14日には『B.LEAGUE誕生 日本スポーツビジネス秘史』を上梓。

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