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労働党創建75周年の準備? 訪米の準備? 健康不安? 「金与正長期不在」の謎

辺真一ジャーナリスト・コリア・レポート編集長
金正恩委員長と妹の与正党第一副部長(労働新聞から)

 金正恩委員長の実妹・金与正(キム・ヨジョン)労働党第一副部長が公の場から姿を消して久しい。最後に公式の場に出てきたのは朝鮮戦争休戦日にあたる7月27日に開催された第6回全国老兵大会で、ひな壇の最前列に着席していた。

(参考資料:「金正恩後継者」と俄然注目されている「与正」とは何者?

 与正氏の長期不在は異例なことでも、珍しいことでもない。これまでも何度か、長期にわたって姿を現さなかったことがあった。

 例えば、2015年は4月11日から5月28日までの48日間、姿を現さなかった。後に分かったことだが、この期間に第1子を出産していた。また、2017年6月から2018年2月まで何と8か月間も行方をくらましたことがあった。昨年も4月10日から6月2日まで実に52日間、動静が不明だった。

 動静不明は兄の金正恩委員長も最長40日間を含め3週間程度ならば5度もある。今年も4月11日から5月1日までの3週間、公式活動がなかったため韓国で「重体説」「死亡説」が流されたばかりだ。従って、妹の与正氏の動静が途絶えたからといって驚きには値しない。それでも、これまでと違って、軽視できないのはこの期間に頻繁に党幹部会議が開かれているのに7月25日の党中央委員会政治局非常拡大会議(「コロナ」対策で開城市を封鎖)に出席したのを最後に一度も党会議に顔を出していないことだ。

 新型コロナ感染問題と台風被害への対策で金委員長は8月に4度、9月に1度、党中央委員会政治局会議を招集している。会議には政治局員、政治局員候補が揃って出席しているのに政治局員候補の与正氏だけが唯一欠席している。

 与正氏は金委員長の地方視察にはこれまで影法師のごとく同行していた。しかし、金委員長が8月27日、9月5日、9月11日と3度、台風被害に見舞われた黄海南・北道の被災地を訪れた際には与正氏の姿はなく、宣伝担当の元歌手の玄松月党宣伝担当副部長が随行していた。

 韓国では8月に「金委員長が権限の一部を妹の与正に与えた」とか「与正が後継者として委任統治を行っている」との報道が流れ、これを韓国の情報機関、国家情報院が8月20日に追認したことで韓国のメディアは与正氏の動静、動向を注視しているが、考えられる長期不在の理由については三つ取り沙汰されている。

 一つは、来月10日に行われる労働党創建75周年の式典準備に追われているとの説

 一部には台風被害で75周年の行事を危ぶむ声もあるが、金委員長は自力更生による復旧、復興の象徴として式典を盛大に執り行う考えのようだ。式典ではハイライトとして軍事パレードも予定されていると伝えられているが、この式典を仕切っているのが与正氏との見方である。与正氏が7月1日にトランプ大統領に向け「テレビの報道で見た米独立記念日の行事を収録したDVDを是非入手したい」とのメッセージを発信していたことがその根拠となっているようだ。

 次に、膠着状態に陥っている米朝関係の打開に向けて自身の訪米、もしくは米朝首脳会談を仕掛けているとの説

 ポンペオ国務長官が最近明らかにしたところによると、米朝は水面下で対話を行なっているようだ。当の与正氏自身は「私の個人の考えではあるが、朝米首脳会談のようなことが今年にはあり得ないと思う。しかし、両首脳の判断と決心によってどんなことが突然起こるかは、誰も分からない」と語っていたが、ポンペオ長官の発言どおりならば、「オクトーバー・サプライズ」の可能性もゼロではない。

 最後に、健康不安説である。

 与正氏についてもしばしば健康不安説が取り沙汰されており、2015年頃からは「骨結核を患っており、抗結核薬を服用している」との噂が駆け巡ったこともあった。実際に2017年から2018年にかけての長期不在は病気治療にあたっていたとの見方もある。

 労働党創建日まで残り、約3週間。与正氏の再登場が注目される。

(参考資料:影のNo.2」――威風堂々の金与正の「知られざる実像」

ジャーナリスト・コリア・レポート編集長

東京生まれ。明治学院大学英文科卒、新聞記者を経て1982年朝鮮問題専門誌「コリア・レポート」創刊。86年 評論家活動。98年ラジオ「アジアニュース」キャスター。03年 沖縄大学客員教授、海上保安庁政策アドバイザー(~15年3月)を歴任。外国人特派員協会、日本ペンクラブ会員。「もしも南北統一したら」(最新著)をはじめ「表裏の朝鮮半島」「韓国人と上手につきあう法」「韓国経済ハンドブック」「北朝鮮100の新常識」「金正恩の北朝鮮と日本」「世界が一目置く日本人」「大統領を殺す国 韓国」「在日の涙」「北朝鮮と日本人」(アントニオ猪木との共著)「真赤な韓国」(武藤正敏元駐韓日本大使との共著)など著書25冊

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