柴崎岳と福田健二。ラ・リーガで奮闘した日本人選手とカナリア諸島の軌跡。
2024−25シーズン、リーガエスパニョーラのプリメーラ・ディビジョン(1部)では、2人の日本人選手が躍動している。
レアル・ソシエダで久保建英が、マジョルカで浅野拓磨が、それぞれ主力として活躍している。シーズン序盤戦では、ソシエダが不調、マジョルカが好調、というところだが、いずれにせよ、2選手は共にチームで欠かせない存在になっている。
ただ、歴史を紐解けば、これまで、複数の日本人選手がスペインでプレーしてきた。なかでも、柴崎岳、福田健二はカナリア諸島自治州に拠点を置くクラブでプレーした経験を持つ貴重な選手だろう。
この度、来日していたラス・パルマスとテネリフェのスタッフにインタビューをする機会を得ることができた。そこで、来日の目的や、日本人選手の変遷、カナリア諸島の特徴について、多くを語ってもらった。
ーはじめに、今回の来日の目的を教えてください。
イェライ:私はラス・パルマスの育成(スクール)のダイレクターを務めています。また同時にeスポーツ(esports)部門の責任者でもあります。我々は6年ほど前に、Eeスポーツ部門を立ち上げ、力を注いできました。若い人たち、もちろん若い人たちに限らないかもしれませんが、彼らはデジタルを使いこなしています。エンターテイメントを通じて、彼らに何かを伝えたいと思い、プロジェクトを動かしています。今回は『東京ゲームショウ2024』の招待を受け、来日しています。
アルタミ:私はテネリフェのファウンドのダイレクターを務めています。我々もテクノロジーの発展を目指し、eスポーツを通じ、多種多様な人たちに多くのことを届けられたらと考えています。
―このプロジェクトを続けていく意味は、どういったところにあるのでしょうか。
イェライ:ラス・パルマスとしては、重要なのはカナリア諸島のタレントの発掘です。そのために、すべてのプロジェクトがあります。そして、タレントの発掘には、チャンスが必要です。我々の下には、いくつかの共同体があります。そこからタレントを探してきて、彼らをプロの世界に送り込む。その過程で、社会的意義や社会における責任を学んでもらい、いろいろな分野で活躍してもらいたいのです。
―ラス・パルマスとテネリフェ。いずれも、日本人選手が在籍した過去があります。
イェライとアルタミ:はい。
―まずは、テネリフェの柴崎獲得について聞かせてください。当時、彼はどのようにテネリフェで迎え入れられたのでしょうか。
アルタミ:ガクが加入したのは2016年頃だったと思いますが(2016−17シーズン途中に加入)、当初、彼が適応に苦しんでいたのは記憶にあります。しかし、その後、そのプレーでインパクトを残してくれました。彼は、テネリフェにとって、初めての日本人選手でした。それは我々にとって、大きな喜びで、誇りでした。クラブとしても、歴史的な補強でしたし、日本やアジア圏に広がりを持つという意味でも、素晴らしいニュースでした。彼にとっても、テネリフェ島での日々が素晴らしい記憶であったことを願っています。
―仰った通り、柴崎選手は最初、苦しみました。
アルタミ:文化、習慣、言語…。いろいろなものが、まったく違ったと思います。通訳が介入したりして、少しずつ、良くなりました。ガクにとっては、スペインで、いやヨーロッパで初めての経験でした。我々としては、彼の初めての経験がテネリフェだったのは誇らしいことでした。それが素晴らしい経験だったことを願っていますし、その経験が彼のキャリアにプラスに働き、いまも日本でプレーする彼に役立っていて欲しいと思っています。そして、テネリフェでは、いつも扉を開いて待っています。
―他方で、ラス・パルマスでは福田健二がプレーしています。
イェライ:2007−08シーズンでしたね。私がラス・パルマスで働き始めた頃でした。非常に大きなニュースになりました。日本のサッカーはすごく成長していましたし、多くの選手を国外に輩出し始めていました。カナリア諸島は国際的に注目されている場所ですが、当時、クラブは難しい時期を過ごしていました。セグンダB(当時3部)でプレーしていた時期もあって、スポーツ的側面における結果という意味で難しかった。福田の獲得は2部で戦うための起爆剤になるはずでした。彼はラス・パルマスでゴールを決めてくれましたし、良いプレーをした試合もありました。ただ、私が驚いたのは、日本のファンがスタジアムに観戦で訪れていたことです。当時はスマホがなかったので、大きなカメラを持ってね(笑)それはとても豊かな経験でした。
ー現在では、プリメーラで久保建英と浅野拓磨がプレーしています。
イェライ:タケ・クボは違いをつくれる選手ですね。個人的には、日本のサッカー界が輩出した有数のタレントの一人だと思っています。スペクタクルで、クリエイティブで、ライン間に素晴らしいパスを出し、1対1に強く、キックでチャンスをつくります。私はものすごく日本のサッカーに詳しいわけではありませんが、日本の選手はスピードを生かしてファイトする印象がありました。しかし、タケはそういった選手たちとは違います。
浅野は良い選手ですね。彼にとっては(ラ・リーガは)新たなリーグ戦ですから、まだ成長の余地があると思います。ただ、マジョルカは日本やカナリア諸島と同じ“島国”ですから、気の合う人たちがたくさんいるのではないかと思います。適応に問題はないでしょうし、これからもっと成長しそうです。
アルタミ:彼らは日本のサッカー界を象徴するような存在です。クボは苦しんだ時期もありましたが、スペイン、またラ・リーガに日本の選手が適応できることを証明しました。スペインでキャリアを積み上げていますから、今後、彼のような日本人選手がもっと出てくることを期待したいです。
―久保のケースでは、彼はバルサのカンテラ出身で、スペインで暮らしていた経験があり、言葉も話せます。それが成功につながったのでしょうか。
アルタミ:もちろん、言葉は大事です。しかし、日本の人たちはスペインの文化や料理を愛してくれています。それに、現代社会では、インターネットの普及と発展で、スペインでも日本の人たちやアジアの人たちを受け入れる準備ができていると思います。
そういう意味では、以前に比べて、インパクトやショックは減ったでしょう。社会全体のメンタリティが変わってきているので、(日本の選手がスペインに移籍しても)快適に過ごせるはずです。また、特に若い人たちは積極的にアジアの文化に触れ、Youtubeなどで言葉を学んだりしています。漫画やアニメを好きな人は多いですし、つまり社会として間接的に日本と繋がっている状況ができてきます。それが日本から来る選手たち、今後もっと若い選手たちが来るかもしれませんが、彼らのパフォーマンスに影響すると考えます。
―ペドリ、ダビド・シルバ、バレロン、アヨセ・ペレス、ペドロ・ロドリゲス…。多くのタレントが、カナリア諸島から出てきています。何か秘密はあるのでしょうか?
イェライ:ペドリとアヨセは、いまもなお、現役で活躍しています。ダビド・シルバやバレロンは、スペインのフットボール史上においても有数の選手です。彼らは現在も多くのファンの記憶に残っている。生きる伝説です。サッカー選手が成長する過程で、天候や環境は重要です。カナリア諸島では、昔からストリートサッカーが盛んで、道端やビーチでサッカーに講じる子どもたちがたくさんいます。しかし、現代社会では、そういったものは失われてきています。ビーチで友達と時間を忘れてボールを追いかける。そうして培う技術やスキルは、教えられないのです。ダビド・シルバやバレロンのレベルに達することはできなくても、多くの選手が、そのような環境で才能を伸ばしていきました。
アルタミ:カナリア諸島のサッカースクールは、独特な手法を採り入れながら動いています。美しいプレーが好まれ、そういった要素が違いをつくるところにつながるのでしょう。ペドリやアヨセは模範となるような選手で、彼らはプレーでカナリア諸島を体現してくれています。
ー本日は貴重な話をありがとうございました。最後になりますが、今後、日本人選手を獲得する可能性はありますか?
アルタミ:私に権利はありませんが(笑) もし、そうなったら、理想的ですね。
イェライ:これはスポーツディレクターに聞かなければいけない質問ですね。あ、少し待ってください。
(スマホを取り出す)電話してみましょう。(ラス・パルマスのスポーツディレクターを務めるルイス・エルゲラ氏に電話)…つながらないですね。ルイスはすごく良い人で、何かしら答えてくれると思いましたが。
アルタミ:我々に言えるのは、もちろん、日本のマーケットにも目を向けていくということです。
イェライ:冗談ではなく、フットボールのプロの世界で、テクノロジーは発展してきています。我々は、その点で、進んでいると思います。AIを通じての分析やスカウティングを行っていて、それぞれの担当が日々仕事に励んでいます。選手に関しても、多くの地域をカバーしているので、獲得の可能性がある選手は、会長やスポーツディレクターが補強の話題に必ず上げると思います。
アルタミ:人気の選手というのは、多くのクラブが狙っているものです。これまで、すでに多くの日本の選手がスペインでプレーしてきていますから、それに続く選手は間違いなく出てくるでしょう。