日本海リーグ選抜チームが読売ジャイアンツ3軍との3連戦で得た収穫とは
■読売ジャイアンツ3軍との3連戦
日本海リーグは石川ミリオンスターズ、富山GRNサンダーバーズの両チームから選抜された選手でチームを結成し、読売ジャイアンツ3軍を迎えて9月19日から3連戦を行った。これは10月24日のドラフト会議に向けてのアピールの場でもあった。
この3日間でNPB12球団から8球団、のべ18人のスカウトが視察に訪れた。それぞれスピードガンやストップウォッチ、ビデオカメラを手に、入念にチェックしていた。
(第1戦の記事⇒「日本海リーグ、人生を懸けた3番勝負は巨人3軍戦! 京本眞に抑え込まれる中、アピールしたのは誰だ!?」)
■第2戦(9月20日@ボールパーク高岡)
◆ランニングスコアとバッテリー
巨人 :000 030 000=3 H7 E0
日本海:000 000 000=0 H2 E2
巨人 :森本(5)、田村(1)、山﨑(1)、直江(1)、富田(1)―鈴木勇、前田
日本海:小笠原(3)、林(2)、誉田(1)、横井(1)、瀧川(1)、日渡(1)―岩室、東田
◆試合経過
《表》
先発の小笠原天汰(富山)は三回までの毎イニング、三塁に走者を背負うも踏ん張り、ホームを踏ませず。
四回を無失点で終えた林悠太(富山)だったが五回、先頭の四球から盗塁と犠打、適時打で1失点、さらに連打で満塁とされ犠飛で1失点、2死一三塁からエラーで1失点した。
六回は誉田凌央(富山)が三者凡退に、七回は横井文哉(富山)が1死から四球を与えるも二ゴロ併殺打で斬った。
八回は瀧川優祐(富山)が先頭にヒットを許すも後続を断ち、最後は日渡柊太(富山)が圧巻のピッチング。3人目を空振り三振で締めた。
《裏》
先発のサウスポー・森本哲星(巨人)を打ちあぐねた。二回に大誠(石川)が中前打を放つも、墳下大輔(富山)が併殺打に打ち取られ、2死から松重恒輝(富山)が内野安打で出塁したが、路真(石川)は空振り三振に倒れた。
それ以外はパーフェクトに抑えられ、悔しい完封負けを喫した。
■第3戦(9月21日@金沢市民野球場)
*八回1死で降雨中断⇒降雨コールド
◆ランニングスコアとバッテリー
巨人 :022 120 0=7 H12 E0
日本海:000 000 1=1 H3 E1
巨人 :戸田(6)、笠島(1)―大津
日本海:黒野(4)、渡邊(1)、北浦(1)、楽(1)、村井(0.1)―岡村
◆試合経過
《表》
先発の黒野颯太(石川)は初回こそ無失点で耐えたが、以降、毎回失点で4回を投げて8安打5失点(自責は3)。
五回、渡邊蒼(富山)も流れを止められず、連打と犠飛、盗塁、タイムリーで2点を失う。
六回の北浦遼那(石川)は初戦の雪辱を果たし、わずか6球で三者凡退に。七回の楽(石川)は無死一二塁から3人を抑えて無失点。
八回は村井拓海(石川)が1死を取り、2人目の1球を投げたところで雨が強まり、8分間の中断ののち、降雨コールドとなった。
《裏》
四回に三好辰哉(富山)の右前打、五回に阿部大樹(石川)の内野安打は出るも散発で終わる。
七回にようやく今釘勝(富山)が四球からの盗塁で得点圏に進み、大坪梓恩(石川)が中前へタイムリーを放った。
■選抜チームの監督は富山GRNサンダーバーズの吉岡雄二監督
3連戦を振り返り、選抜チームの監督である吉岡雄二監督(富山)は、球速表示以上に速く感じさせたり、タイミングがとりづらかったりというジャイアンツの投手陣に対して、自軍の打者陣の完敗を認めた。
「初見ではなかなかむずかしい。丁寧に投げられていたし、合わせるというところまでいかずに凡打になっちゃったかなっていうところがあります」。
単純に勝利だけを求める試合ではなく、スカウトに対して個々のパフォーマンスをアピールする場でもあるため、この選抜試合ではあえて「言わないですね」と、ゲーム中のベンチでの助言はひかえたという。
「そういう思いというのが出るゲームなので、そこは、その中で動かしてあげるほうがいいと思うので。もちろん結果は出てほしいですけどね」。
それぞれの思いが伝わるプレーを、温かく見守っていた。
今季、NPB球団とは単独チームで3試合(1試合は中止)ずつ、選抜チームで4試合、相まみえた。
「まずNPBと試合をするというところに、非常に意義がありますね。選手たちにとってはそこが目標なので。力のあるピッチャー、力のあるバッターと対戦することで、自分の現状を知ることもできる。本当に公式戦ではなかなか対戦できないので」。
実際に対戦することで見えることが多いとうなずく。「比較するわけではなくて、ある程度これくらいはできるとか、いいところもわかったり、もっとこういうところが上がるといいなという課題であったり」。さまざまなことが明確になるのだという。
「うちのチームでいえば、NPBのチームに単独で対戦したときに、去年はすごく力の差が出るゲームになって選手もショックで落ち込んでいたけど、今年の夏ごろに試合をしたときには力がついてきているのが見えた。しっかり考えている選手ほど、(NPBとの)ギャップを感じるので。NPBに行けるかどうかは別として、春先と夏以降では対NPBのゲームで違いは出たなと思います。それはなかなかリーグ戦では見えないところだったりするので。選手個々が試合に対して自分の考えというか、それを出そうとして結果に表れたんでしょうね」。
実戦から選手たちが感じ、学び、それが成長につながったことを、頼もしく感じているようだ。
■選抜チームのコーチを務めた石川ミリオンスターズの岡﨑太一監督
まず選抜チームについて岡﨑太一監督は「普段は戦っている相手と定期的にこういうのをやることで、(富山の)彼らがどういう練習をしているのかとか勉強になるという面はありますね」と語る。
そしてジャイアンツ3軍については、「3軍とはいえ、すごく質の高い野球をされているなっていうのは印象としてありましたね」と感心する。
「送りバントもそうだし、盗塁を仕掛けるのも早い。ピッチャーのクイックのパターンや癖など見て、いけると思ったらすぐに三盗を仕掛けたりとか。失敗がオッケーなゲームなので思いきっていけるという部分もあるでしょうけど、選手個々にも考えてやっているというのは非常に感じますね」。
徹底的な練習の賜物でもあるのだろう。そして「独立リーグ以上に、一芸に秀でている選手が多い」と舌を巻く。足が速い、球が強い、スイングが鋭い…などといったジャイアンツの選手たちに、「彼ら(日本海リーグの選手たち)もけっこう衝撃を受けていましたよ」と明かす。
岡﨑監督自身も、「プロスカウトとしてはNPBの1軍2軍の試合を見ていましたけど、僕もこっちに来て半年くらい経って、ずっと富山さんと試合をする中で、だんだんこっちの野球に目が慣れてきていた。でもこうしてたまにNPBと交流戦をやらせてもらうと『やっぱり違うよな』『やっぱりこうだよな』ということに気づかされるというか、目がまた元に戻るというか…」と、あらためて“修正”を余儀なくされた。
ドラフトに向けてのアピールということに関しても、こう話す。
「普段ずっと見ていて、彼らのいい面も知っているので、それがもっと出たらなっていうのはあったけど、独特の緊張感の中でNPBとやるというのは、なかなか普段どおりにはいかないもの。ドラフトまであと1カ月。こういうところでポンと打ったりパンと抑えたりできる人間が上がっていく。スカウトの方も、NPBに対してどういう対応をするかっていう目線で見られている。すごくいいアピールの場だったのは間違いないのでね」。
格上の相手に対して、持てる力が存分に出せたかといえば、そこは物足りなさもあった。だが、それこそが今の実力ということなのだろう。
■日本海リーグ、両チームのキャプテンは?
◆松重恒輝(富山)
「(ジャイアンツ3軍は)今までやってきた中でもミスが少ない印象があって、つけ入る隙がなかったというか、すごく野球を知っているというのを感じたというのが本音です。
ミスが少なくて、やるべきことをやっている。全力疾走だったり、カバーだったり、そういうのが全部徹底されていて、進塁打とかやろうとしていることが見ている僕らにも伝わる。ということは、やりたいことが明確なんだと思います。
選抜チームでは(石川の)バッティング練習とかをいつもより近くで見られるし、この選手のここいいなとかがわかる。使っているバットをちょっと貸してもらったり…。情報は多ければ多いほどいいと思っているタイプなので、それはすごく自分のためになったと思います。
本当にプラスしかなかった。もっと試合に出たかったというのはあるんですけど、そこはしょうがない。得られるものは大きかったですね」。
◆森本耕志郎(石川)
「(ジャイアンツ戦は)より高いレベルで戦えたので、個人もチームもより詳しく現状のレベルを知れたと思います。自分自身は守備のフットワークももっと上げないといけないし、バッティングでもジャイアンツさんは積極的に振ってきていたので、自分たちはもっとそれ以上のことをしないといけないと思いました。
選抜チームは連係の部分はちょっと戸惑いました。みなさんのレベルが高いのでカバーはできたけど、やっぱりセカンド牽制とかは難しいところがありました。
キャッチャー同士ではけっこう話はしましたね。ピッチャーのボールのこととかスローイングのこととか…。いろいろ聞いたりはしました。
(ジャイアンツの印象は)もっとバンバン打ってくるというイメージだったけど、意外とバントとかしたり、盗塁とか足を使ってきたり、追い込まれたら右方向を意識していたりとか…。チームで徹底されているのは感じましたね」。
■選抜チームならではのメリット
普段は敵同士の両チームだが、選抜チームではもちろん一緒に練習をする。キャッチャー陣を見ると、岡﨑監督に教わっているシーンが見られた。おもにスローイングのようだが、富山の東田汰一選手に尋ねると、嬉しそうなニコニコ笑顔で説明してくれた。
「自分はスローイングが課題なので、それをメインに教えてもらっていました。今までいっぱい考えていたことがあったんですけど、それをシンプルに教えてもらったので、考え方で変るんだなと思いました。今まで知らなかったというか、新たな発見でしたね」。
教わったあと、実際に「よくなりました!ボールの回転だったり、捕ってからの速さとかが変わりました」と満足気な様子で、そんなに違うものかと驚いていると、「いや、全っ然違います!」とかぶり気味に強い口調で言うのだから、よほど手応えがあったと思われる。
「もっと早く教えてもらっていたらよかったです」と短時間でのスキルアップに喜びが隠しきれず、さらに岡﨑監督と同じ「たいち」という名前にも「ほんと嬉しいです」と、ずっと笑顔だった。
“敵に塩を送る”形になるが、岡﨑監督は「日本海リーグのレベルが上がることがNPBに近づく。富山さんのキャッチャーの送球の質が上がれば、石川ももっと質の高い走塁を目指さないといけないわけで、お互いに相乗効果でよくなっていけば」と惜しみなく教えるという。
これも選抜チームだからこそできることで、もちろん岡﨑監督から一方的に教えるのではなく、「聞かれたら教えてもいいですか」と富山の首脳陣にことわりを入れ、了承を得た上でのことだ。「吉岡さんが分け隔てなく接してくださるので、僕もこういう気持ちになる。吉岡さんの人柄だと思います」と、球界の先輩にリスペクトの念を抱く。
「シーズン中もずっと見てはいて、もうちょっとこうしたらよくなるのになというのがあった。東田は横ぶれがなくなって、だいぶ的が絞れてきている。スローイングの質は徐々によくなってきていますね」。
新弟子の成長を喜んでいた。
■読売ジャイアンツ3軍の駒田徳広監督
読売ジャイアンツ3軍の指揮を執るのは駒田徳広監督だ。日本海リーグを「強いチームですよ」と切り出す。
「勝った負けたの勝敗になったときの、細かいプレーの精度が我々のチームが上回った分、点差があるように感じたかもしれませんが、そんなことはない。独立リーグの選手は上を目指している。ということは己の意識がすごく強いんです。我々はチームの中で自分をどう活かせるかというところに意識があるので、その差がチーム力となったときに結果として出ただけ」。
かつて自身も独立リーグの高知ファイティングドッグス(四国アイランドリーグplus)で監督を務めていただけに、独立リーガーの気持ちや立ち位置は熟知しているのだ。
日本海リーグの選手を見て「うちの選手より力強いスイングをする選手もいた」と目を見張り、「大きな視野をもってやってほしい」と話す。
「『俺はこれでなきゃダメなんだ』と気持ちを閉ざすことが一番、自分を伸ばさない原因になる。いろんな考え方やいろんなやり方を指導者は伝えようとするので、『こういう考え方、方法もあるんだな』と受け入れることが、視野を広げるということ。うまくなってもらいたくないという指導者は誰もいないんだから。そうして新しいことにチャレンジしてほしい」。
日本海リーガーたちに向けて、温かい激励のメッセージを送ってくれた。
■石川はグランドチャンピオンシップに向けて…
日本海リーグはシーズンの公式戦をすべて終了し、選抜チームのゲームも戦い終えた。
このあと、リーグ優勝した石川は独立リーグの日本一を決める「グランドチャンピオンシップ」に参戦する。チームの勝利を目指すとともに、視察に来るNPBスカウトへ最後のアピールの場にもなる。
森本選手はこう話す。
「初対戦のピッチャーしかないんで、リーグ戦とは違う。ただ振るだけじゃダメで、追い込まれたらコンパクトに振りにいったり、(バットを)少し短く持ったりして、工夫をすることが大事だと思います。そこは意識して、チーム全体でやっていきたい」。
弱冠二十歳のキャプテンは、今から腕をぶしている。
昨年敗れた富山GRNサンダーバーズの分まで、石川ミリオンスターズは頂点を目指して戦い抜く。