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新型コロナ、死者数が過小報告されているワケ “真珠湾攻撃や9.11のような瞬間”がアメリカを襲う 

飯塚真紀子在米ジャーナリスト
専門家は、新型コロナの死者数は過小報告されていると指摘。(写真:ロイター/アフロ)

 「今週、アメリカでは、真珠湾攻撃や9.11のような瞬間が起きるだろう。その瞬間は、局所的ではなく、全国的に起きることになる」

 米国時間4月5日、フォックス・ニュースに出演した米公衆衛生局長官のジェローム・アダムス氏がそんな警告をした。

 アメリカの新型コロナウイルス感染による死者数は1万人を超えた。この数は真珠湾攻撃の4倍、9.11の3倍を超えている。真珠湾攻撃も9.11もアメリカにとっては歴史的なカタストロフィーだったが、米政府は今、新型コロナを、それ以上のカタストロフィーだと捉えているのだ。

 米国立アレルギー感染症研究所所長アンソニー・ファウチ博士もCBSテレビの“フェイス・ザ・ネイション”に出演し、「今週は悪い週になる」と予告。

 米新型コロナタスクフォースの対策調整員デボラ・バークス氏に至っては、感染者が増加している州の人々に対して「食料品店にも行くべきではない」とまで言って釘を刺したほどだ。

死因が肺炎にされていた

 増え続ける死者数だが、死者数については、多くの専門家が、実際の死者数は、CDC(アメリカ疾病予防管理センター)の報告以上にはるかに多くいると指摘している。

 3月20日、ロサンゼルス郊外のサン・ガブリエル市に住む43歳の男性が、新型コロナと思われる症状を発症したものの検査を受けさせてもらえずに、亡くなるという悲しい出来事があった。検視局は、病院の診断通り、死因は肺炎と断定したが、疑問を持った男性の妻が民間の検査機関に調査してもらったところ、男性は新型コロナに感染していたことがわかった。

 この男性にように、新型コロナにより死亡したものの、死因は肺炎とされてしまったケースは氷山の一角と考えられる。

 今、アメリカの医療機関には、記録的な数の救急電話がかかってきているが、救急隊員は軽症者には自宅療養するよう促している。その結果、新型コロナに感染している可能性がある患者も結局感染しているのかわからぬまま、自宅で死亡する状況が起きているという。自宅で死亡した人に対する新型コロナ検査も行われていないため、死因は新型コロナと特定されない。

 ニューヨーク市議会の保健委員会委員長マーク・レヴィン氏は、ツイッターでこう嘆いている。

「増えているのは病院で死亡する患者だけではない。新型コロナ危機以前は、ニューヨーク市で、自宅で死亡する人の数は1日平均20〜25人だったが、今では連日、200〜215人が自宅で死亡している」

 つまり、感染していると思われる多数の人々が、検査をされることなく、入院もできず、自宅で死亡しているというのである。そしてこれらの人々は新型コロナの死者数には入れられていないという。

あれは新型コロナだったんだ

 今年初め、アメリカでは、季節性インフルエンザによる死者が1万4000人にのぼり、その中には、新型コロナのような症状を見せて亡くなった人もいたことが報じられた。今、医療関係者たちは「あれは新型コロナにより亡くなったのだ」と認識し始めている。

 4月5日付け米紙ニューヨーク・タイムズ(電子版)はそんな医療関係者らの声を紹介した。

「新型コロナの検査が開始される前、肺炎の患者が多数出ていた。おかしいなと思っていた。その中には新型コロナの感染者もいたはずだ」

「今年初めに亡くなった患者の中には、季節性インフルエンザの検査で陰性だった者がいた。今振り返ると、“ああ、なるほどそうだったんだ”と思う。彼らには新型コロナの検査がなされるべきだった。新型コロナの死者数は、間違いなく過小報告されている」

死者数が過小報告されている理由

 米紙ワシントン・ポスト(電子版)は死者数が過小報告されている理由について、以下のように分析している。

・新型コロナ感染の発生初期、検査対象は中国繋がりのある人々に限定されていた。そのため、当時、呼吸器系の病気で死亡した人の中には、新型コロナでなくなった人が含まれている可能性があり、彼らは感染者としてカウントされていない。

・検査キット不足から、感染していたとしても、自宅や介護施設で死亡した人は検査を受けていないため、彼らは感染者としてカウントされていない。つまり、死者を検査しても有益ではないと考えられており、存命者に対する検査が優先されている。

 実際、介護施設の入居者の中には、呼吸器症状を見せていたものの、検査をされることなく亡くなり、死後も検査されなかった者がいるという。入居者が検査を受けることができるのは病院に運ばれた時だけだというのだ。

・実際は陽性であっても、検査の結果陰性と出た人は感染者としてカウントされていない。つまり、判定ミスが少なからず起きている。

・感染しているにもかかわらず新型コロナ以外の病気で亡くなった人も、検査を受けていない限りは感染者としてカウントされていない。

・新型コロナの死者報告システムが全米レベルでは統一されていないため、州や郡の中には、死者数を明確にカウントしていなかったり、死者数を撤回したりしているところがある。

 ウエスト・ヴァージニア大学のクレイ・マーシュ博士は、死者数が過小報告されている理由をこう説明している。

「検査対象が限定されていること、陰性という間違った判定を受けている人がかなりいることを考えると、死者数は過小評価されている」

 検査対象の限定や間違った判定はアメリカだけで起きていることではない。日本はもちろん、世界的に起きていることだろう。

 また、そもそも、パンデミックの最中に発表される死者数は誤解を招いているとする研究報告もあるという。

 例えば、新型インフルエンザの場合、WHO(世界保健機関)はラボで確認された新型インフルエンザによる死者数は18631人と発表していたが、2012年、CDCは、実際にはこの15倍の人々が新型インフルエンザで死亡したという結論を出した。

 新型コロナによる本当の死者数は、最終的にはどんな数まで膨らむのか? 結論が出るのはずっと先になりそうだが、開発に1年〜18ヶ月かかると言われているワクチンや治療薬が、少しでも早く完成することを願う。

(参考記事)

Official Counts Underestimate the U.S. Coronavirus Death Toll

Coronavirus death toll: Americans are almost certainly dying of covid-19 but being left out of the official count

在米ジャーナリスト

大分県生まれ。早稲田大学卒業。出版社にて編集記者を務めた後、渡米。ロサンゼルスを拠点に、政治、経済、社会、トレンドなどをテーマに、様々なメディアに寄稿している。ノーム・チョムスキー、ロバート・シラー、ジェームズ・ワトソン、ジャレド・ダイアモンド、エズラ・ヴォーゲル、ジム・ロジャーズなど多数の知識人にインタビュー。著書に『9・11の標的をつくった男 天才と差別ー建築家ミノル・ヤマサキの生涯』(講談社刊)、『そしてぼくは銃口を向けた」』、『銃弾の向こう側』、『ある日本人ゲイの告白』(草思社刊)、訳書に『封印された「放射能」の恐怖 フクシマ事故で何人がガンになるのか』(講談社 )がある。

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