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女性の就業率を上げて「女性が輝く社会」にすればするほど子供は産まれず、女性はもっと不幸になる

山田順作家、ジャーナリスト
女性が輝く社会づくりについて述べる安倍首相(写真:Motoo Naka/アフロ)

世界各国の男女平等の度合いを指数化した世界経済フォーラム(WEF)の「ジェンダー・ギャップ指数」の2015年版が11月19日に発表された。

それによると日本の順位(調査対象145カ国)は、またもや定位置の100以下。前回の104位から101位と順位を3位上げたものの、アジアではフィリピンが7位、中国でさえ91位だから異常な低さだ。

そのせいか、メディアの扱いは相変わらず小さく、WEFの指摘をおざなりに伝えただけだった。いまのメディアは「日本は素晴らしい」以外のことにはあまり関心を寄せない。そのため、こうした重大な問題のなかに隠されている真実がほとんど伝わらない。

WEFの指摘は単純だ。「日本は女性の労働参加率が低く、男性との賃金格差が大きい」として、これを改善していくべきだとしている。このうちの労働参加率が低いことに関しては、ほかの国際機関、たとえば経済協力開発機構(OECD)、国際労働機関(ILO)、国連の女性差別撤廃委員会(CEDAW)、国際通貨基金(IMF)なども度々指摘してきた。とくにOECDやフランス女性のラガルト氏が専務理事を務めるIMFは「日本は女性の労働参加率が低い」として、「女性の就業率を高めるべき」と言ってきた。

そのため、政府はアベノミクス第一ステージで「すべての女性が輝く社会づくり」を提唱し、女性の社会進出をさらに進める政策を打ち出した。現在、首相官邸のホームページには「待機児童の解消」「職場復帰・再就職の支援」「女性役員・管理職の増加」の三つの政策が掲げられていている。

さらに、アベノミクスの第二ステージでは、「希望出生率1.8」を打ち出し、安倍首相はそれを2020年代半ばに実現すると公言している。つまり、政府は女性がもっと社会進出して“輝けば”出生率が向上して、「1億総活躍社会」になり、「GDP600兆円」が実現できると考えているのだろう。 

しかし、現状のままでは、いくら女性が社会進出しても子供は産まれない。むしろ、出生率は下がる。女性が社会に出て働ければ働くほど人口は増えない。そんな都合のいい話は存在しないのだ。

しかも、すでに日本の女性の労働参加率は十分高い。この点で、国際機関の指摘は余計なお節介であり、それをまともに受ける政府もどうかしている。

次は、国際機関の統計から、主要先進国の女性就業率(2014)(OECD「雇用アウトルック2015」)と合計特殊出生率(2013)(世界銀行)を比較してみたものだ。

  • ノルウェー----女性就業率81.4 %、合計特殊出生率1.85
  • スウェーデン--女性就業率80.9%、 合計特殊出生率1.91
  • スイス-----女性就業率79.5%、 合計特殊出生率1.52
  • ドイツ-----女性就業率78.8%、 合計特殊出生率1.38
  • デンマーク-----女性就業率78.4%、 合計特殊出生率1.73
  • カナダ-----女性就業率77.4%、 合計特殊出生率1.61
  • オランダ---女性就業率76.5%、 合計特殊出生率1.72
  • フランス---女性就業率76.2%、 合計特殊出生率 2.01
  • イギリス---女性就業率74.3%、 合計特殊出生率1.92
  • オーストラリア---女性就業率72.0%、 合計特殊出生率1.92
  • 日本----女性就業率71.8%、 合計特殊出生率1.43
  • アメリカ-----女性就業率69.3%、 合計特殊出生率1.87
  • イタリア-----女性就業率58.8%、 合計特殊出生率1.43

(参考)

  • 中国----- 統計なし、 合計特殊出生率 1.67
  • 韓国---女性就業率62.7%、 合計特殊出生率1.19
  • ロシア----女性就業率81.0%、 合計特殊出生率1.70
  • インド----女性就業率34.6%、 合計特殊出生率2.48

ここからわかるのは、女性の就業率の高い国(その割合が7割以上)のなかでとくに高いのは、北欧諸国、続いて西欧諸国、オーストラリア、カナダなど。日本も71.8%だから、このグループに入る。

しかし、こうした国々の合計特殊出生率を見ると、ほとんどが2.0以下である。合計特殊出生率が2.0を下回ると、人口は増えないとされる。つまり、ここから言えるのは、女性が仕事を持って社会に進出すればするほど、子供を産まなくなり、人口は減るということだ。

ただし、就業率が高くとも、合計特殊出生率が2.0を超えている国がある。フランスだ。また、オーストラリアは1.92 イギリスは1.92 スウェーデンは1.91と、なんとか1.9台を維持し、アメリカも1.87となっている。

このなかで、出生率を上げるのに成功した例としてよく語られるのがフランスやスウェーデンある。だから、こうした例に学べば、日本も人口減を防げると考えられている。

しかし、これはとんでもない誤解で、フランスでもたくさん子供を産んでいるのは、移民がほとんどだ。アメリカも同じである。とすれば、女性が安心して子供を産み、育児をして働けるようにするには、社会進出を促進することではない。

WEFの指摘のうちの「男性との賃金格差が大きい」ことを一刻も早く是正することだ。日本女性の賃金は男性の約6割と圧倒的に低いからだ。なぜ、先進国だというのに、日本は女性の賃金がこれほどまでに低いのだろうか?

総務省の「就業構造基本調査」によれば、女性労働者の約6割が非正規労働者であり、そのほとんどが短期雇用の有期労働者である。厚生労働省の調査では、その約7割が、経済的自立が難しいとされる年収200万円以下となっている。つまり、いくら女性の社会進出を進め、就業率を高めようと、女性には賃金が高いまともな職が用意されていない。とくに、正社員として働いていても、結婚・出産などでいったん退職すると、もう正社員には戻れない。

OECDもこの点を重視していて、日本女性が20~30歳代で出産を機に退職することが多いこと、また仕事を再開してもパートタイムなど非正規労働が多いことを指摘し、「女性がキャリアの階段をのぼることができるようにする努力が必要」としている。この点では、国際機関の指摘は的を射ている。

では、男女雇用均等法という立派な法律があるにもかかわらず、日本はなぜここまで女性差別社会なのだろうか?

それは、この法律が男女平等を促進するためにつくられたにもかかわらず、「採用・昇進等での男女の機会均等は事業主の努力義務」とされていることだ。つまり、罰則がない。これでは、職場における男女の平等は実現しない。

これまで雇用均等法は度々強化されてきた。そのため、昔は隠然と行われていた「妊娠、出産を理由とした解雇」などは表向きにはなくなった。しかし、その代わりに、企業は女性正社員の採用を減らし、その分を解雇が簡単な派遣やパートなど女性非社員に置き換えてしまったのである。 

これでは、男女間の賃金格差が縮まるわけがない。つまり、均等法の強化は、単に女性の非正社員化を促進したにすぎない。

日本企業は、バブル崩壊以来、激しいグローバル競争の波にさらされ、従来の雇用を維持できなくなくなった。そのため、派遣労働法などができ、正社員から非正社員化が進んだ。じつは、この波をモロに被ったのが、男性よりも女性だ。

かつて存在した「OL貴族」は消滅し、独身女性から専業主婦までが労働市場に引っ張り出され、パートや派遣として、日本社会を底辺から支えてきた。

つまり、今日までの「失われた25 年」で、日本経済を支えてきたのは、低賃金で働く日本の女性たちだった。彼女たちがいたから、日本経済はなんとか低成長ながらも成長してきたのである。それなのに、安倍政権は現状をほとんど改善しようとはせず、女性たちにもっと子供を産んで、もっと働けと言っている。

本当に、人口減少を抑えて出生率を上げたいのなら、保育所を増やしたり、出産助成金を増額したり、クオータ制で無理やり女性幹部の比率を増やすより、女性の賃金・待遇を男性と同等にすればいい。また、正社員・非正社員の垣根を取り払い、同一労働同一賃金を実現させればいい。

これによって、能力がないのに男性というだけで優遇されている男性労働者ははじき出され、能力のある女性は本当に“輝く”だろう。そうすれば、収入も増えるから出生率も上がるはずだ。女性労働者に賃金で報いず、出産助成金や育児施設の充実などでサポートするのは誤った選択ではないだろうか?

いつの間にか、「アラサー」とか「アラフォー」という言葉が定着した。その年代になっても働き続けて“輝いている女性”が注目を浴び、メディアで持てはやされるようになった。しかし、そんな女性は、いまの日本にどれほどいるだろうか?

作家、ジャーナリスト

1952年横浜生まれ。1976年光文社入社。2002年『光文社 ペーパーバックス』を創刊し編集長。2010年からフリーランス。作家、ジャーナリストとして、主に国際政治・経済で、取材・執筆活動をしながら、出版プロデュースも手掛ける。主な著書は『出版大崩壊』『資産フライト』(ともに文春新書)『中国の夢は100年たっても実現しない』(PHP)『日本が2度勝っていた大東亜・太平洋戦争』(ヒカルランド)『日本人はなぜ世界での存在感を失っているのか』(ソフトバンク新書)『地方創生の罠』(青春新書)『永久属国論』(さくら舎)『コロナ敗戦後の世界』(MdN新書)。最新刊は『地球温暖化敗戦』(ベストブック )。

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