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日米ガイドライン「日本を守るのは日本人」「矛と盾の関係維持すべし」元自衛艦隊司令官インタビュー(2)

木村正人在英国際ジャーナリスト

日中関係と日本の防衛について、海上防衛の現場で中国海軍と対峙してきた香田洋二・元海上自衛隊自衛艦隊司令官に引き続き、中国の防空識別圏(ADIZ)や日米防衛協力のための指針(ガイドライン)再改定についてうかがった。

――中国が東シナ海に防空識別圏を設置した狙いは何でしょう。一説には、南シナ海にも防空識別圏を設置して台湾を挟み撃ちにしようとしているとも言われていますが

「実は南シナ海というのは、中国は思うほどコントロールできていません。防空識別圏ということはやはりレーダー・サイトとか置かなければいけません。今のところ西沙諸島は中国はベトナムから取り上げて100%コントロールしています。南シナ海の北3分の1は中国の自由になります」

赤線が南シナ海で中国が主張する九段線(平成25年版防衛白書より)
赤線が南シナ海で中国が主張する九段線(平成25年版防衛白書より)

「中国の九段線(注1)は南まで行っています。実はそこは埋め立てしています。埋め立てしても孤立した島ですから、太平洋戦争と同じで孤立した島というのは守るのが非常に難しくなってきます」

(注1)九段線 中国はいわゆる九段線として南シナ海における自国の「主権、主権的権利および管轄権」が及ぶと主張する範囲に言及している。

「中国は南沙諸島のジョンソン南礁(中国名・赤瓜礁)を半分埋め立てをしています。おそらく2500メートルぐらいの滑走路ができます。初めて、南沙諸島、南シナ海の南3分の2の中に足場を持つんです」

「ジョンソン南礁は真ん中が深いんで天然の良好というか、一緒に港湾施設も造れば、ということを中国はやっています。しかし、中国は物理的には南シナ海に防空識別圏を作っても、線を引いただけの意味しかありません」

「東シナ海だってまだ(防空識別圏の運用を実際には)できないんですから。毎回、毎回(中国は)出てきているわけではありません」

――安倍政権は集団的自衛権の行使を限定的に容認する閣議決定を行いましたが、新たな安全保障法制の国会審議は来年になりそうです。年末をメドに改定される自衛隊と米軍の役割分担を定めた日米ガイドラインの見通しはどうでしょう

「あまりにもガードが堅いんで予測できません。ただ、おそらく正解というのはあるんですよ。それにどれだけ近づけるか。正解というのは少なくとも向こう10年は事実として中国を正面に据えざるを得ません、日本としては。北朝鮮もあるんですが、飛び道具だけですから」

「日本としたら東シナ海、南シナ海ともににらみながら、要するに日米の協調体制をどう作るかということですから。中国の接近阻止・領域拒否(A2/AD)の対極版をどうつくるかということです」

「私は尺度としてはガイドラインが出たときにそれにどれぐらい近づいているかということです。100点なのか90点なのか、70点なのか。目標設定がしっかりできているかということです」

「中国のA2/ADがどこを目標にしているかというと、米国です。太平洋で米国がどこにいるんですか。ハワイとグアムは米領ですが、ハワイとグアムからアフリカの東海岸、インド洋の端まで見て、米国がしっかり足場を置いているのは日本と韓国しかありません」

「韓国は対北朝鮮の米韓同盟ですから、中国は戦略的な考慮対象ではありません。北朝鮮の後ろで朝鮮戦争のときのようにサポートすることがあるかもしれません。しかし、おそらく中国も北朝鮮に手こずっていますから」

「ということは中国が出てくることを予測してA2/ADを意識したときに、米国にとって付加価値のある米軍は日本にしかいません」

「それをちゃんと意識に入れて、日本にとっても10年先もそうだし20年先も、名指しするしないは別ですよ、中国を意識しながらどういう態勢をつくっていくかということがガイドラインで問われることなんです」

「どいうことになるかというのは本当にガードが堅いからわかりません。米国がそういう感覚を持っているかどうかもわかりません。それは日本がちゃんと米国を教育しなければなりません」

「米国もイスラム教スンニ派過激組織『イスラム国』やウクライナの問題を抱えています。しかし、米国の国防副長官は言っていますよね。2020年までには海軍と空軍の物理的な6割を太平洋に持ってくるともう一度確認していますから」

「それを考慮して中国のA2/ADに対してどういう日米の二国間共同のポスチャー(posture、構え)を作るかということが問われるわけです。目標設定はそこです。それがうまくいって、達成したら100点です。適当にお茶を濁して、それに対して道が遠ければ40点になるかもしれません」

――ロンドンから見ていると、オバマ米大統領はアジア回帰政策と言っていますが、外交・安全保障のグランドデザインが見えてきません

「それは見果てぬ夢を追求するようなものです。そういうものは本当は国は明らかにはしません。手の内を明かしますから。ただ、米国が信号を送っているのは、ウクライナやイスラム国の危機があろうと6割を太平洋に持ってくるということなんです」

「能力というのは見えますよね。それをどう使うかというのは実際にわからないのです。中国から見たら、こうかもしれない、それだけですごい抑止力になるわけです。グランドデザインというのは中国のA2/ADに対してどれだけ効果的なものができるかということを類推するしかありません」

――エアシーバトル構想はどうなっていますか

「エアシーバトルというのは、A2/ADに対する戦略、作戦、戦術でいえば作戦レベルで中国に対してどうやろうかという話です。それは米国にとってはいくつかのオプションのうちの有力なものです。おそらくプランAだけでは戦えませんから、プランB、プランCがあります」

「エアシーバトルについては多くが言われていないだけで、先ほどのガイドラインと同じで良くわからないんです。米国がエアシーバトルのコンセプトをまとめつつあるのは事実ですよね」

――今年4月、日米首脳会談でオバマ米大統領が尖閣諸島の防衛義務を明言した意味は大きいのでしょうか

「北京から見たら別に尖閣とは思っていません。意地悪い言い方をすれば、尖閣に米国が日米安保条約5条(対日防衛義務)を発動するからといって、中国は痛くもかゆくもありません。なぜなら(尖閣は)彼らの国益でもないから」

「ところが与那国、石垣、宮古、西表の4つの大きな島について米国が徹底的に守るぞと言われたら、北京は震え上がりますよ。それは日米安保条約で米国の当然の義務ですから。日本が言わなければいけないのは、そこは俺達が守るんだ、日本の島ですから」

「で、いよいよ(有事)となって米国には中国の本土を攻撃とかをやってもらうのが日米安保ですから。そこを多くの日本人がはき違えているわけです。日本の領土ですから、守るのは日本人ですよ」

「ただし、尖閣を守ると言うことは、中国にとっては与那国、石垣、宮古、西表も米国は腹を決めているなということが大きんです」

――香田元司令官は常々、米軍が「矛(敵地攻撃)」、自衛隊が「盾(専守防衛)」という矛と盾の関係を維持した方が良いとおっしゃっていますが

「日米協調のグランドデザインと日本の憲法の関係もありますが、一つは日米がきちっと相互補完的な役割を果たすことが大事です。自衛隊は防衛と支援のミッションのための軍事力としては世界一ですから」

「海上自衛隊でも英国海軍の倍だし、防空としてみてもこれだけの海軍と空軍はありません。そこに人も物も金も潤沢に積んでくれるのなら(矛の任務を)考えても良いんです。しかし、それは米国のコミットメントを弱めることになります」

「米国だってそれなら(日本で)やってくれ、となってくる。いろんな理由でね、そこはシンプルに。インターナショナル・オペレーションというのはそんなに簡単なことではありません。できるだけシンプルにしておいた方が良い」

「そこは割り切ったら、運用面で改善できることはどんどんやった方が良い。確かに軍隊として敵をたたけば良い、という考え方はあります。しかし、米国は日本が魅力的であれば絶対に見放しません」

「ハワイ、グアムからアフリカの東海岸まで日本しかいないんだから、米国が日本を守らないわけがない。そのときに限られた資源の中で幾許かをストライク(敵地攻撃)に出すかというと、私はそれはやるべきではないと思います」

「ミッション・シェアリング(任務の共有)、ディビション・オブ・レイバー(役割分担)が不明確になる。仮に尖閣で何かあったときに日本にストライクの決定権があるなら、日本でやってくれということになる。国連で中国をたたくのも米国の任務だ、私達はこれをやると米国は言い出しかねませんよ」

「今のは極端な例ですが、そこはシンプルにした方が、日本側に日本国憲法で行動上の制約が多い場合は極めてシンプルにしておいた方が良いと思います」

「ディフェンシブなオペレーション、戦略守勢について言えば、これは自衛隊はピカ一です。米国から言えば第7艦隊が二ついるのと同じですから」

(つづく)

在英国際ジャーナリスト

在ロンドン国際ジャーナリスト(元産経新聞ロンドン支局長)。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。masakimu50@gmail.com

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