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賃上げムードを素直に喜べない理由

前屋毅フリージャーナリスト

安倍晋三首相の賃上げ要請をうけて経済界では賃上げムードが高まっているようだが、とても素直には喜ぶわけにはいかない。

国内総生産(GDP)の600兆円達成という大風呂敷をひろげている安倍首相は再三、経済界に賃上げを要請してきている。アベノミクスの目標である2%の物価上昇の牽引役を務める日本銀行の黒田東彦総裁も、連合の新年交歓会で、労働組合に賃上げ要求を働きかける異例のあいさつを行った。それほど、賃上げに必死である。

賃上げによって消費者の懐具合が暖かくなれば消費拡大につながり、それによって物価上昇となり、GDP引き上げも実現できるという思惑が安倍首相側にはあるからだ。

ただし、賃上げ要請の構図が、どうにも変だ。従業員の賃金をケチって貯めこんでいるいる企業に対して、政府が「けしからん」と意見して賃上げを迫るのなら理解できる。しかし現状は、安倍首相が経済界に賃上げを「お願い」している構図なのだ。

その安倍首相に経団連を中心にした経済界が、「まぁ、しょうがないか」とばかりに賃上げムードを盛り上げている。つまり、経済界が安倍首相に「貸し」をつくっている構図が、いまの賃上げムードなのだ。

安倍首相は「借り」ができているわけで、いつかは、これを返さなければならない。返してもらうことを前提に、経済界も「貸し」をつくっているはずである。

その「貸し・借り」の関係が消費者にとってもメリットになるのなら、現在の賃上げムードは消費者にとっても喜ばしいものである。しかし、そこまで「お人好し」にはなれない。

実際、消費税の引き上げは強行する一方で法人税は引き下げるということを安倍政権は平気でやろうとしている。経済界のご機嫌をとるためには消費者を踏みつけにする、のが安倍政権のやり方でもある。賃上げの「貸し・借り」でも、きっと同様のことがやられるにちがいない。消費者としては、それを戦々恐々として待たなければならないのだ。現在の賃上げムードを、とても素直に喜ぶ気にはならない。

フリージャーナリスト

1954年、鹿児島県生まれ。法政大学卒業。立花隆氏、田原総一朗氏の取材スタッフ、『週刊ポスト』記者を経てフリーに。2021年5月24日発売『教師をやめる』(学事出版)。ほかに『疑問だらけの幼保無償化』(扶桑社新書)、『学校の面白いを歩いてみた。』(エッセンシャル出版社)、『教育現場の7大問題』(kkベストセラーズ)、『ほんとうの教育をとりもどす』(共栄書房)、『ブラック化する学校』(青春新書)、『学校が学習塾にのみこまれる日』『シェア神話の崩壊』『全証言 東芝クレーマー事件』『日本の小さな大企業』などがある。  ■連絡取次先:03-3263-0419(インサイドライン)

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