Yahoo!ニュース

【田中希実会見②】日本人初の「(五輪)1500mと5000mの2種目入賞」に向けてのプロセスは?

寺田辰朗陸上競技ライター
11月12日に東京都内で会見した田中希実(写真提供:New Balance)

 女子1500mと5000mの日本記録保持者、田中希実(New Balance)が11月12日に東京都内で記者会見を行った。

 23年シーズンは世界陸上5000mで8位に入賞したが、21年の東京五輪で8位に入賞した1500mは準決勝止まりだった。来年のパリ五輪での目標は2種目で入賞すること。もちろん日本人初の快挙となる。多種目出場と、短い間隔で試合に出場してきた田中には、その道筋が見えているようだ。

 会見後半は来シーズンへの展望を中心に、今季取り組んだフォームの変更、将来走るであろうマラソンなどにも言及した。

「スピードと実践力を、とにかく上げていきたい」

Q.冬季の過ごし方と、来季に向けた練習スケジュールの展望などがあれば教えてください。

田中 10月にMDC(日本グランプリシリーズG3カテゴリーのMiddle Distance Circuit。20日に800m、21日に1000m)に出てから休暇に入りましたが、練習は再開していて、スピード練習もやり始めました。間に合えば12月のレースに出ていけたら、と思っています。12月にレースに出られなくても、国内合宿などでもう一度じっくり足元を固め、1月にケニアに渡る予定です。ケニアで合宿を2週間ぐらいじっくり行って、その後は室内の大会が海外ではたくさんあるので、そういったところで早くからスピードや、競争(競り合う走りの経験)というところに慣れていくことをしていきたいなと思って。

Q.来年のパリ五輪へ具体的な目標を教えてください。

田中 今年の取り組みをより膨らませるようなことを来年したいと思っています。まだ代表はどちらの種目も内定していませんが、1500mと5000mの2種目で入賞以内を目指したいと思っています。ケニア合宿も年明けから入れていくので、その取り組みがパリ五輪で実ったら一番いいのですが。スピードが主になってくるとは思うのですけど、スピードと実践力を、とにかく上げていきたいです。だから合宿だけでなく、アメリカの1500mのレースで揉まれるようなことをもっとしたい。そういったレースで(パリ五輪へ)持っていくことを今は考えてます。

「それぞれの人種の一番良い部分をミックスさせたフォームに」

Q.MDCの際にフォーム修正がはまってきた、ということをおっしゃってました。言葉にできる範囲でどのように変えてきたのか、教えていただけますか。

田中 具体的には腕と脚の連動というか、脚で走るというよりリズムで走るということになりますが、できるだけ力を使わない、という部分ができるようになってきました。腕で脚を持っていくと言っても、腕や肩にすごく力を入れるのではなく、今まで通り肩の力は抜いてるけど腕でリズムを刻んで、脚もそのリズムに乗せていけるだけの鍛錬を日頃から積んでおく。それができていればレース中に苦しくなっても、腕でリズムを作り直して、今まで培ってきた力を信じて脚を前に出すことが、だんだんできるようになってきていると思います。

Q.そのフォームに変えていく上で参考にした選手とか、きっかけとか、何かありますか。

田中 去年一番のきっかけになったのはケニアで色んな選手と走ったことで、こういうフォームをやってみたいと思ったことです。誰が、というのは特にはないんですけど、黒人選手特有のフォームですね。キピエゴン選手(ケニア)やハッサン選手(オランダ。エチオピアから移住)をよくイメージしますが、黒人選手全体に共通している独特のリズミカルな動きがあると感じます。そこはすごく憧れます。でも逆に、自分のフォームを見返した時、今までとは変わっては来てるんですけど、やっぱり黒人選手の動きではないし、ちょっと白人選手っぽいところもあったりとか、日本人独特のところなんかも残っています。そこがいい感じでミックスされたら、それぞれの人種の一番良い部分をミックスさせたフォームになるかもしれません。それが一番良いフォームなんじゃないかと、最近は思い始めています。

2種目入賞には「中1日ずつぐらいでレースが来てくれたらありがたい」

Q.1500mと5000mの両種目に入賞すれば日本人初の快挙になります。21年の東京五輪は5000mが先で予選落ちしましたが、後に行われた1500mで8位に入賞しました。今年の世界陸上ブダペストはその逆で、1500mが先で準決勝止まり、後の5000mで日本新と入賞。両方を同一大会で達成させるにはどういうタイムスケジュールがいいのでしょうか?

田中 タイムスケジュール的には1500mと5000m、どちらが先でも次のレースまでの間隔が短すぎたらきついのですけど、私の場合は間髪入れずに走ることが意外とハマる時があるんです。その方が体的には向いてるかな。しかし世界陸上やオリンピックは予選や準決勝で全力投球しないと通過できないほどハイレベルなのに、予選や準決だから、どこか気持ちの面で全力を出しきれていない部分もあって。例えば決勝終わってすぐ次の種目の予選となったら、予選で本当に出し切っちゃうというか、燃え尽きちゃうかもしれません。決勝、次のレースも決勝、みたいに続いたら私的にはとてもありがたいのですけど。それがオリンピックや世界陸上ではないので、できるだけ中1日ずつぐらいでレースが来てくれたら、ありがたいとは思います。

Q.2種目入賞のために1500mのスピード、5000mのスピード持久を意識して異なるメニューを意識的に行うより、とにかく田中さんご自身の力を上げればいいという考え方ですか。

田中 そうですね。ケニアに行ったら本当に普段の練習がハイレベルなので、その練習さえできるようになったら1500mから10000m、もしかしたらマラソンまで対応できるんじゃないか、と思えます。そういう練習をどの選手もやっているので、やっぱり普段の練習の質を上げていくことが大事かな、と。持久力に振るとか、スピードに振るというより、レースは実践力だけ意識して出るとして、普段の練習ではスピードと持久力の両方が鍛えられるような練習をしていきます。質をできるだけ高くできたら、強くなるんじゃないかなって思ってます。

マラソンで2時間20分切りのヒントも

Q.今、マラソンという言葉も出てきました。日本のメディアの悪いところでマラソンという言葉にすぐ反応してしまいますが、この1年でそういう練習ができたことで、東京世界陸上後か、ロスオリンピックのあとくらいに考えてらっしゃるマラソン出場も、具体的にイメージできるようになったんでしょうか。

田中 そこはまだ、取り組みたいというほど具体的に思ってないんですが、一緒にケニアで練習していた選手で2時間17~18分ぐらいで走るようになった選手がいます。ケニアの合宿の時はまだ2時間20分を切っていなかったと思うんですけど、その選手を含めたマラソングループと私は一緒に練習していて、トラック練習もマラソン選手たちと一緒に練習していました。そのマラソン選手たちのトラック練習全部につけただけでも、私は「やったー」ってなるぐらいレベルが高い練習でした。その人たちのロードの距離走は、全然つけなかったりしたので、今マラソンしてもダメかなって思います。しかしその人たちの練習を身近で見たことで、普段こうやってやっていたら2時間20分を切れるのだと、すごくヒントになりました。

陸上競技ライター

陸上競技専門のフリーライター。陸上競技マガジン編集部に12年4カ月勤務後に独立。専門誌出身の特徴を生かし、陸上競技の“深い”情報を紹介することをライフワークとする。一見、数字の羅列に見えるデータから、その中に潜む人間ドラマを見つけだすことが多い。地道な資料整理など、泥臭い仕事が自身のバックボーンだと言う。座右の銘は「この一球は絶対無二の一球なり」。同じ取材機会は二度とない、と自身を戒めるが、ユーモアを忘れないことが取材の集中力につながるとも考えている。

寺田辰朗の最近の記事