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順大・三浦龍司が「世界で戦うため」にSUBARU入社。3000m障害で前人未踏のメダル獲得へ

寺田辰朗陸上競技ライター
3月28日に群馬県太田市のSUBARU本社屋前でポーズをとる三浦<筆者撮影>

 学生長距離界で活躍した三浦龍司(順大)、山本唯翔(城西大)、並木寧音(東農大)の3人がSUBARUに入社する。中でも三浦は3000m障害で21年の東京五輪7位、23年の世界陸上ブダペスト6位と、世界レベルに到達したランナーとして注目度が大きい。3月28日に群馬県太田市のSUBARU本社で3人が会見。三浦はメダル獲得への意欲や、箱根駅伝後の状態などを語った。

「(SUBARUが)環境作りに一番熱心に向き合ってくれた」(三浦)

 三浦は数ある実業団チームの中で、SUBARUを選んだ理由を次のように語った。

「お声がけいただいたときに僕の、トラックを主戦場にしたい思いを監督、スタッフの方々が尊重してくれると感じられたからです。そのための環境作りに一番熱心に向き合ってくださいました。僕の方も駅伝だったりトラックだったり、SUBARUのためにできることがある。そう思って決めました。海外で経験を積まれている先輩方もいらして、見習っていきたいですし、これからやっていきたいことも数多く(先輩やチームの活動に)あったので、一番魅力的な実業団だと思いました。このチームで結果を残したいですね」

 駅伝ももちろん走るが、SUBARUでの一番の目標は世界大会、国際大会で結果を出すことだ。

 21年の東京五輪は7位、23年の世界陸上ブダペストは6位。ともに日本人初の入賞という快挙を成し遂げた。ダイヤモンドリーグでも22年はファイナルで4位、23年も5位と、完全に世界トップレベルに定着している。

2023年の3000m障害世界リスト(世界陸連ホームページ)
2023年の3000m障害世界リスト(世界陸連ホームページ)

2023年8月の世界陸上ブダペスト大会成績(世界陸連ホームページ)
2023年8月の世界陸上ブダペスト大会成績(世界陸連ホームページ)

「今年のパリ五輪をはじめ、これからの世界大会などで、3000m障害で世界と戦っていきたい。メダルを目指していきたい」

 だがメダル獲得にはケニア、モロッコ、エチオピアなどアフリカ勢の“壁”を崩す必要がある。

SUBARU初の五輪選手入社までの経緯

 その目標に突き進むには、チームとしてもそれ相応の態勢をとる必要がある。三浦は卒業後も順大を拠点に練習を行うが、SUBARUのスタッフも順大での練習をサポートする。

 学生時代からダイヤモンドリーグなど海外遠征を積極的に行ってきたが、これまで以上に多くなる。各方面からの支援もあるが、やはり所属チームのSUBARUが中心になる。

 奥谷亘監督は次のように明かす。

「過去にオリンンピアンを勧誘できたことなどないチームです。選んでもらえるかわかりませんでした」

 SUBARUは22年にはニューイヤー駅伝2位に躍進するなど、近年チームとして大きく成長している。昨年の日本選手権5000mでは清水歓太(SUBARU)が3位に入賞した。

 だが、五輪&世界陸上、アジア大会の日本代表となると、07年世界陸上大阪大会マラソンの奥谷監督以降途切れている。三浦のSUBARU入りは多くの関係者から驚かれた。

 順大OBの本川一美コーチがSUBARUに入社し、順大関係者にスムーズな意思疎通ができるようになったことが大きかったという。

「大事なのは三浦君がやりたいことに対してSUBARUがどう応援できるか、ということだと思っていました。私だけでできることではないので運動部副部長、部長たちの理解をもらい、社長まで話を進めていき、社内のゴーサインを得て何度か交渉させていただきました。三浦君は日本の宝ですからSUBARUだけのことではなく、日本のためになる、という思いをもって話を進めました。多くの方に協力していただいて実現できたスカウトでした」

 世界を目指す三浦のプランと、奥谷監督の思いが合致した結果、三浦のSUBARU入社が実現した。

不調だった箱根駅伝以後の状態は?

 三浦は箱根駅伝1区で区間10位と振るわなかった。昨年は世界陸上だけでなく9月のダイヤモンドリーグ(2試合)も戦い、夏場に箱根駅伝の20km超の距離に対応するための練習ができなかった。さらには「箱根駅伝前後に脚のケガ」(三浦)もあった。

「1月は療養期間としてやって、2月から動き出しました。今はもう問題なく練習できています。次のレースは立ち上げのレースなのでそこまで仕上げる必要はありませんが、3000m障害につながるようにスピードや体のキレを確かめているところです」

 学生の重要試合である関東インカレ(5月中旬)がなくなり、その時期に海外の試合に出場する。だが夏の世界大会までの流れは学生時代と大きく変わらない。「1500m、5000mにもタイミングが合えばどんどんタイムなどを狙って行く」

 学生時代と練習内容がどう変わるのか? という問いには「質、強度は底上げする必要があるのかな、と思います。練習の手段、方法なども少しずつ変えていく必要があれば変えていきます」と答えた。

 大きな流れの部分は変えないが、細部は世界で戦うために、より高い内容を求めてやっていく。

 トラック初戦は4月13日の、金栗記念選抜中長距離熊本大会1500mになる。

「前回は3分40秒ぐらいだったと思うんですけど(3分41秒82で2位)、それより少し速いくらいのタイムに乗ってくれるといいかな」

 ちなみに一昨年(22年)は金栗記念1500mで3分36秒59(優勝)の日本歴代3位と、3000m障害選手としてはかなりハイレベルのタイムを出した。しかし21年の同大会1500mは、エントリーしたが欠場した。

 3000m障害のシーズンベストは21年が8分09秒92、22年が8分12秒65、23年が8分09秒91だ。当たり前だがシーズンの入りの1500mが、そのシーズンの結果を決めるわけではない。世界大会、国際大会となれば経験も結果に影響する。

 金栗記念1500mでは走りの内容を確認し、その後どう調整していくかを判断できればいい。そして三浦は、昨年までのように関東インカレに出場しても、今年のように同時期に海外レースに出場しても、夏の世界大会にピークを合わせられる自信がある。

 重要なのは三浦の感覚・感性が、正しい判断をしていけるかどうか。環境的にはSUBARUへの入社で、それができる状況が整った。

陸上競技ライター

陸上競技専門のフリーライター。陸上競技マガジン編集部に12年4カ月勤務後に独立。専門誌出身の特徴を生かし、陸上競技の“深い”情報を紹介することをライフワークとする。一見、数字の羅列に見えるデータから、その中に潜む人間ドラマを見つけだすことが多い。地道な資料整理など、泥臭い仕事が自身のバックボーンだと言う。座右の銘は「この一球は絶対無二の一球なり」。同じ取材機会は二度とない、と自身を戒めるが、ユーモアを忘れないことが取材の集中力につながるとも考えている。

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