再感染やワクチン有効性低下の懸念も 南アフリカやブラジルの変異株の何が問題なのか
現在、イギリス、南アフリカ共和国で新たな変異株が世界各国に広がっており、また1月6日には新たにブラジルからの渡航者から変異株が検出されたことが国立感染症研究所から報告され、変異株の拡大が世界的な問題となっています。
その中でも再感染やワクチンの有効性低下の可能性が懸念されている南アフリカ変異株とブラジル変異株の現在の流行状況と、これまでに分かっていることをまとめました。
※イギリス変異株についてはこちらをご参照ください
南アフリカ共和国の変異株 501Y.V2の流行状況は?
2021年1月22日時点で、南アフリカ共和国では1,392,568人の新型コロナ患者と40,076人の死亡者が報告されています。
2020年12月18日に、南アフリカ政府は「501Y.V2」と呼ばれる新しい変異株の出現と急増を報告しました。最も早い症例は2020年10月に確認されています。
2021年1月13日時点で、南アフリカでは349例の501Y.V2変異株による感染例が確認されていますが、南アフリカでは新型コロナ症例のごく一部でしかウイルス遺伝子の配列解析が行われていないため、実際には349例よりもずっと多くの変異株感染事例が広がっているものと思われます。
2021年1月19日時点で、23カ国で約570例の501Y.V2が確認されています。
フランスでは、2020年12月下旬にモザンビークから宗教行事に参加した旅行者から持ち込まれたクラスター事例が報告されています。5人の旅行者から感染が拡大し、小児を含む29人の感染者が報告されています。このうち1名はICUに入院しているとのことです。
その他の南アフリカ変異株の大部分は旅行に関連していますが、すべての事例で南アフリカへの旅行歴があるわけではなく、さらに、イスラエルとイギリスでは、南アフリカへの渡航歴のない南アフリカ変異株による事例が報告されています。
日本でも12月28日に成田空港検疫所で南アフリカ滞在歴のある新型コロナ患者から南アフリカ変異株が検出されたことが報告されました。
南アフリカ変異株 501Y.V2の特徴は?
南アフリカ変異株は、イギリスの変異株とは関連ない系統の進化と考えられていますが、イギリス変異株と同じくN501Yというスパイク蛋白の変異があります。
これまでの研究では、このN501Yという変異によってスパイク蛋白がACE2受容体により強固に結合することが示されており、感染性が増加している可能性が懸念されています。
ロンドン大学衛生熱帯医学大学院の解析では、南アフリカ変異株は南アフリカで以前に流行していた新型コロナウイルスよりも50%感染性が高いと報告されています。
南アフリカ変異株では重症化しやすいのか、については現時点では明らかではありません。ただし、変異株が重症度に与える影響は変わらないとしても、感染性が増加し感染者が増えれば重症者も増えることになります。
南アフリカ変異株は、回復者血漿やモノクローナル抗体に対する抵抗性が示されています。
これはつまり、南アフリカ変異株には既存の新型コロナウイルスに対して作られたヒトの抗体や人工的に作られた抗体が効かなくなっていることを意味します。
この事実は、既存の新型コロナウイルスに感染した人も再感染するではないか、あるいは新型コロナワクチンは既存の新型コロナウイルスのスパイク蛋白に対する抗体を体内に作るものですので、現在海外で接種が行われている新型コロナワクチンの有効性低下の懸念に繋がります。
実際にこの南アフリカ変異株で再感染が起こりやすいのか、ワクチンが効かないのかについてはまだ十分なデータがありません。
ブラジルの変異株 P.1の流行状況は?
2021年1月10日、ブラジルのマナウスからの渡航者4名から変異株が検出されたと報告されました。
1月12日には、この日本から報告されたウイルスと同じ変異株に関する報告がブラジルのマナウスから報告されています。
現在、この変異株はマナウスで急速に広がっているようであり、12月中旬から下旬にかけてマナウスの医療機関を受診した31例患者から検出された新型コロナウイルスのうち13(42%)がこのブラジル変異株P.1であったことが確認されています。
2021年1月18日には、ブラジルから韓国への旅行者からブラジル変異株P.1が検出されたと報告されています。
ブラジルの変異株 P.1の特徴は?
現在、ブラジル変異株P.1の感染性の変化を示す微生物学的、疫学的証拠はまだありませんが、イギリス変異株VOC 202012/01や南アフリカ変異株501Y.V2で見られる「N501Y」という変異が感染性の増加と関連していることが示唆されており、ブラジル変異株P.1でも同様に感染性が高いことが懸念されます。
ブラジル変異株では重症化しやすいのか、については現時点では明らかではありません。
ブラジル変異株は、南アフリカ変異株と同じE484Kという変異を持っています。
このE484Kという変異は、新型コロナウイルスに対するモノクローナル抗体や回復者血漿に対する逃避変異(ウイルスが抗体に中和されることから逃げるための変異)として報告されており、実際に新型コロナウイルスを模倣した実験用のウイルスにE484K変異が起こると、既存の新型コロナウイルスから回復した人が持つ中和抗体の活性が10分の1以下になると報告されています。
新型コロナウイルスに対する免疫は抗体による液性免疫とT細胞による細胞性免疫が関わっていますので、中和抗体の活性の低下がそのまま再感染のリスクやワクチンの効果低下となるわけではありませんが、ブラジルで注目すべき症例が報告されています。
3月24日に1回目の新型コロナ感染が確認された29歳の女性が、12月19日に年末のパーティーに参加した際に抗体検査を行い陽性が確認されています。
しかし、その8日後に2回目となる新型コロナの症状が出現し、ブラジル変異株が検出されました。
この報告は、過去の新型コロナウイルスの感染によってできた抗体が、ブラジル変異株には無効である可能性を示唆しています。
もう一つ気になるのは、マナウスは2020年の春に新型コロナの大流行を経験し、10月の時点でマナウスの住民の76%が新型コロナに感染したという推計が発表されていましたが、マナウスでは現在、新型コロナ症例の急増による第2波を迎え医療システムを大きく圧迫しています。
まだ詳細は分かっていませんが、この第2波に感染している人の中には第1波にも新型コロナに感染した人が含まれているとすれば、現在、世界で約1億人の新型コロナ感染者が報告されていますが、この1億人を含めて全ての人類がこのブラジル変異株には免疫を持たない可能性があります。
また、南アフリカ株501Y.V2と同様にE484Kという変異を持つことから、現在海外で接種が開始されている新型コロナワクチンも有効性が低下する可能性があります。
日本で南アフリカ変異株やブラジル変異株が広がる可能性は?
現時点では空港検疫により南アフリカ変異株が1例、ブラジル変異株が4例見つかっています。
日本で新型コロナウイルスの遺伝子配列まで読まれているのは、およそ10例に1例ですので、日本国内で見つかっていないだけの可能性もありますが、少なくとも蔓延しているような状況ではないと考えられます。
南アフリカ変異株とブラジル変異株は、イギリス変異株とも特性が一部異なり、日本国内で広がってしまった場合の影響はイギリス変異株よりも大きいかもしれません。
日本国内で南アフリカ変異株、ブラジル変異株が拡大するのを防ぐためには、
・現時点で見つかっている変異株症例の厳格な隔離
・海外からの帰国者の検査体制の強化(全症例で遺伝子配列解析が実施されています)
・外国人の入国規制強化(現在政府は2020年12月28日から外国人の新規入国を中止しています)
などが必要と考えられます。
現在、日本は過去最大規模の新型コロナの流行を経験しており、症例数もまだまだ増加傾向です。
すでに一部の地域では本来必要な医療が十分に提供できなくなってきていますが、この状況で日本国内で変異株が広がってしまえば、まさに危機的状況となるでしょう。
日本国内でこれ以上深刻な流行を引き起こさないためにも、今こそ一人ひとりが感染対策を徹底すべき時です。
・できる限り外出を控える
・屋内ではマスクを装着する
・3密を避ける
・こまめに手洗いをする
といった基本的な感染対策をより一層遵守するようにしましょう。
参考:
2. SARS-CoV-2 reinfection by the new Variant of Concern (VOC) P.1 in Amazonas, Brazil