「世界一の親イスラエル国」ウクライナ――(2)しかし逆にイスラエルが塩対応の理由
- ウクライナではイスラエルへの親近感が強いが、イスラエル政府はロシアとの関係を重視して支援をほとんどしていない。
- ロシアによるウクライナ侵攻に実質的に中立の立場の方針は、イスラエル国民の多くから支持されている。
- そこには「国際社会に安全保障を頼るべきではない」という考え方が色こく反映されているとみられる。
イスラエルの塩対応
一方が好意や共感を示しても、相手がこれにドライな反応しかみせないことは個人同士の間だけでなく、国際関係でもあることだ。
ガザ侵攻による人道危機をめぐり、各国でイスラエルの評判が悪くなるなか、ウクライナではイスラエルに好意的な人が7割近くに及ぶ。これはアメリカを凌ぐ水準だ。
ところが、イスラエルのウクライナに対する態度は、それに見合うほど好意的ではない。
例えば、イスラエルはアメリカの同盟国のなかで例外的に、ウクライナ侵攻後もロシアとの取引を継続し、対ロ経済制裁にも参加していない。
また、イスラエルはウクライナに軍事援助も行なっていない。
ユダヤ系のゼレンスキー大統領だけでなく、ロシアによる侵攻が始まった直後にはウクライナ軍の中核を握るアゾフ連隊からイリヤ・サモイレンコ中尉がイスラエルを訪問して「マリウポリは我々にとってのマサダ(古代ローマ帝国の進撃をユダヤ人が迎え撃った砦の名前で、最終的に女性や子どもに至るまで集団自決に追い込まれた説話は現代のイスラエル・ナショナリズムの基盤)だ」と強調し、イスラエル製ミサイル迎撃システム、アイアンドームの提供を含めて、イスラエルに軍事援助を要請した。
しかし、ネタニヤフ政権は現在に至るまでその要請に応じていない。
ロシアとの蜜月
イスラエルのこうした方針の背景には、ロシアとの関係がある。
冷戦時代のソ連はパレスチナを支持したが、1989年の冷戦終結にともないソ連から数多くのユダヤ人がイスラエルに移住した。
それ以来、ロシアはパレスチナ支持を続ける一方、イスラエルとの関係も基本的に良好で、2010年には軍事協定を結んだ。これはロシアにとって、中東におけるアメリカの拠点に食い込む意味があった。
そのため、ウクライナ侵攻を受けて国連総会で2022年3月2日に採決されたロシア非難決議でイスラエルは、アメリカの強い要請を受けてしぶしぶ賛成したものの、それ以上の措置に至っていない。
この「蜜月」はイスラエルとハマスの衝突の激化によりトーンダウンしている。
ロシアはガザでの即時停戦を強調しており、両国関係は冷戦終結後、最も冷却化したともいわれる。
ただし、ロシアはイスラエルを名指しで批判しておらず、大使召喚といった措置にも踏み込んでいない。つまり、外交的にイスラエルを追い込みすぎないようにしているといえる。
とすると、ロシアの即時停戦要求は、やはり即時停戦を求めるグローバル・サウスの支持を集め、イスラエルよりむしろその後ろ盾であるアメリカに対する国際的非難を目的にしたものとみてよい。
むしろロシアは「寸止め」にとどめていて、これを受けてイスラエルも対ロ制裁に参加せず、結果的にウクライナに対する塩対応は続いているといえるのである。
「国際社会には頼れない」
ここで重要なのは、ロシアとの関係を配慮するネタニヤフ政権の方針がイスラエル国民からそれなりに支持されていることだ。
イスラエル民主主義研究所の世論調査によると、ウクライナとロシアの戦争の主な責任は「ロシア」と応えた回答者は67%だったが、対ロ制裁に参加しない政府決定を支持したのも60%にのぼった。
一方、「ウクライナの紛争地帯における‘ユダヤ人への人道支援’を優先すべき」という回答は76%だった(ただし、ウクライナへの海外支援をカバーするキーウ世界経済研究所のデータにイスラエルの記載はない)。
難民の受け入れを支持したのは44%だった。もっとも、イスラエル政府が約3万人のウクライナ難民を受け入れたが、その待遇の悪さも手伝って、すでに半数近くが別の国に移動しているが、これとてイスラエル国内で大きな問題とは認識されていないようだ。
イスラエル民主主義研究所の世論調査で最も興味深いのは、「ウクライナの教訓は安全保障を国際社会に頼ることはできず、自国の防衛は自国で担うしかないということ」にユダヤ系イスラエル人(イスラエル国民には少数派ながらキリスト教徒やムスリムもいる)の89%が賛成したことだ。
そこにはつまり、ウクライナを「欧米の支援頼みの国」とみなし、これを反面教師にする思考がうかがえる。
傍流同士は分かりあえるか
実際、イスラエルはアメリカの同盟国ではあるが、これまでも独立した安全保障政策を頑なに守ってきた国でもある。女性も含めた国民皆兵制がかなり機能している、現代世界で数少ない国であることは、その象徴だ。
「国なき民」として2000年にわたって迫害された歴史だけでなく、パレスチナ占領政策が欧米でも数十年にわたって批判されてきたことが、「誰も頼らない」思考を強めたといえる。
それは結果的に、ウクライナに対する、やや冷ややかな態度の土壌になっているとみてよい。
一方、その是非はともかくイスラエルの方針は独立自尊を絵に描いたようなもので、これが先進各国からの支援が目減りする現在のウクライナからみれば、むしろ憧れかもしれない。
しかし、もしそうなら、ウクライナの共感や支持にイスラエルが応えることはほぼあり得ず、一方通行の好意であり続けるだろう。
ウクライナとイスラエルはどちらも白人中心であっても、いわゆる欧米世界の傍流にある点では共通する。しかし、傍流同士だからといってシンクロできるとは限らない。ウクライナとイスラエルのすれ違いは、主流に認められたい傍流と、主流に嫌われることも厭わない傍流の間のミスマッチともいえるだろう。