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バードウォッチングしながらアーモンドラーメン。奥が深すぎる鹿児島ラーメンワールドにようこそ(あら木)

上村敏行ラーメンライター
湧水町「里山の麺処と和布あそび あら木」では地元産アーモンドを使うラーメンが名物

鹿児島県北部の姶良郡湧水町は、その名の通り、いたる所から清冽な湧水がわく、まさに水の王国。最寄りの九州自動車道・栗野ICから車で約5分の場所には「霧島山麓 丸池湧水」、さらに10分ほど車を走らせると、夏はそうめん流しや湧水プールも楽しみな「竹中池公園」など。とにかく圧倒的な透明度を誇る、良質で豊富な湧水には目を見張るものがある。鹿児島出身の筆者にとって湧水町は大地の恵みを存分に感じられる特別な場所であり、県外に住む今も足しげく通っている私的パワスポ。現地を訪れる主な目的は、名水の“水汲み”、掛け流しの“温泉”、そして、

もちろん“ラーメン”である。

「竹中池公園」の湧水地に突き出たそうめん流し店。身震いするほどの透明感を誇る名水が足元からこんこんと湧いている
「竹中池公園」の湧水地に突き出たそうめん流し店。身震いするほどの透明感を誇る名水が足元からこんこんと湧いている

JR吉松駅のほど近く。まわりに店はほとんどなく、牧歌的な風景を車窓に進んでいくと肥薩線の線路沿いに“ラーメン”の赤いのぼりが突如現れる。

JR肥薩線沿いにかかる、のぼりを目印に
JR肥薩線沿いにかかる、のぼりを目印に

看板に従いクヌギ林(クワガタもうじゃうじゃいる)の前に車を停め、小道を歩いた先にある一軒家。これが、鹿児島ラーメンの中でも異彩を放ち、県内外から多くのファンが訪れる超名店「あら木」(正式には「里山の麺処と和布あそび あら木」)なのだ。

駐車場からはこの小道を住宅街へと進んでいく
駐車場からはこの小道を住宅街へと進んでいく

よく手入れされた庭のアプローチを抜け、玄関で靴を脱いで入店。店内も外観と同じく、いわば田舎のおばあちゃんちを訪れたようなほのぼのとした雰囲気で、奥には縁側を延長したようなテラスも備えている。

この先に非日常のラーメン空間が待っている
この先に非日常のラーメン空間が待っている

昨今、ラーメン店の業態もさまざまあるが、「あら木」は言うならば“自宅解放型ラーメン店”だ。定年退職後、故郷の湧水町(旧・吉松町)に戻った店主・荒木國光さん(1944年生まれ)が、2003年に開いた。

テラス。ここで野鳥を観察しながらラーメンを啜り、お茶を飲む。店内にはテーブルとローテーブル席があり合計42席
テラス。ここで野鳥を観察しながらラーメンを啜り、お茶を飲む。店内にはテーブルとローテーブル席があり合計42席

「建設関係の仕事をしていたサラリーマン時代は23回も転勤を繰り返しましてね。よくある話ですけど、離れれば離れるほど故郷の自然豊かな魅力を身に染みて感じるようになったんです。それで定年後は自宅で静かに、皆が気軽に集えるような店を夫婦でやってみようと思うようになりました」と20年以上前を振り返る荒木さん。当初は自然の中でコーヒーをゆったりと楽しめるような喫茶店。をイメージしていたが、ここでふつふつと湧き上がってきたのが大好きなラーメンへの思いであった。「同郷の妻の家業はラーメン店で、昭和30〜50年代半ばまで吉松駅前にて『とらや』という店をやっていました。その味を知る、今はもう年配の地元の方々から復活を望む声が多くありまして、少しでも喜んでもらえるならば挑戦してみる価値はあるなと。ただラーメンのレシピは残っていなかったので妻の舌の記憶をたよりに、スープ、醤油ダレなどを作り込んでいきました。それがこのラーメンなんですよ」と荒木さん。

店主の荒木國光さん。アーモンドラーメンの生みの親。もうすぐ80歳になるがとにかくパワフル!
店主の荒木國光さん。アーモンドラーメンの生みの親。もうすぐ80歳になるがとにかくパワフル!

定番のラーメンは鶏、豚共出しのライトな肉系スープで、具材は細モヤシに甘く濃厚に味付けされたチャーシュー、また無料の大根の漬物も出される古き良き鹿児島ラーメンスタイル。鹿児島出身の筆者からしてもあっさり、懐かしさを感じるような申し分のないうまさである。だが「あら木」を一躍有名にしたのは同スープをベースに荒木さんが開発した「アーモンドラーメン」の存在が大きい。

アーモンドラーメン。湧水町産のアーモンドをさまざまな形状、またアーモンドオイルにして入れたもの。鹿児島ラーメンの魅力を残しながら、独創的な一杯に仕上げている
アーモンドラーメン。湧水町産のアーモンドをさまざまな形状、またアーモンドオイルにして入れたもの。鹿児島ラーメンの魅力を残しながら、独創的な一杯に仕上げている

実は、アーモンドは湧水町の名物。「湧水町の食の魅力を広げたい」と郷土愛に満ちた荒木さんが研究を重ね、アーモンドと鹿児島ラーメンを見事に融合した唯一無二の一杯を作り出した。アーモンドは自家焙煎して香ばしさを立たせ、丸一粒、粗め、細かくクラッシュしたものなど、さまざまな形状で食感に変化をつける。さらにはアーモンドオイルによりコクと旨みを増幅。王道をゆく鹿児島ラーメンの肉系スープに奥行きのある芳しさ、楽しい歯ざわりを添えるアーモンドはまさに名脇役。「アーモンドはビタミンEも豊富で体に優しいんですよ」と話す荒木さんは今年80歳。いつ訪れても変わらず元気で肌艶もよく、病気もほとんどしたことがないという。その言葉にはむちゃくちゃ説得力がある。

テラスには双眼鏡が置かれている。
テラスには双眼鏡が置かれている。

これまで述べてきた“アットホームな自宅解放型ラーメン店”“湧水町産アーモンドの妙”に加えて、声を大にしたい「あら木」の魅力がもう一つ。それが「バードウォッチングも楽しめるラーメン店」であるということだ。緑に囲まれた庭のテラスには野鳥が頻繁に訪れ、自由に使える双眼鏡も置いてある。荒木さんの遊びゴコロ。

絶品すぎるラーメンを食べながら野鳥観察。

全国にラーメン店は数あれどこの非日常空間を楽しめるのは同店だけではないか。

120円で2個入るおにぎりの丁寧な供し方にも夫婦のホスピタリティを感じる。つーか、米自体がむちゃくちゃうまい。いい水あるところに、うまいラーメン、うまいおにぎりアリ!!
120円で2個入るおにぎりの丁寧な供し方にも夫婦のホスピタリティを感じる。つーか、米自体がむちゃくちゃうまい。いい水あるところに、うまいラーメン、うまいおにぎりアリ!!

「里山の麺処と和布あそび あら木」までは溝辺鹿児島空港から車で約30分、福岡市内からだと3時間弱で行ける。アーモンドラーメン、抜群の透明度を誇る湧水、さらには肌ざわり柔らかな温泉。これらすばらしい湧水町の財産をセットで楽しめるのだから“絶対に!”足をのばす価値がある。

【里山の麺処と和布あそび あら木】
住所:鹿児島県姶良郡湧水町川西1280-3
電話:0995-75-4102
営業時間:11:00〜15:00(LO14:30)
定休日:月・火曜
座席数:42席
駐車場:20台
交通:九州自動車道栗野ICより車で約15分

ラーメンライター

1976年鹿児島市生まれ。株式会社J.9代表取締役。2002年、福岡でライター業を開始。同年九州ウォーカーでの連載「バリうまっ!九州ラーメン最強列伝」を機にラーメンライターとして活躍。各媒体で数々のラーメンページを担当し、これまで1万杯以上完食。取材したラーメン店は3000軒を超える。ラーメン界の店主たちとも親交が深く、ラーメンウォーカー九州百麺人、久留米とんこつラーメン発祥80周年祭広報、福岡ラーメンショー広報、ソフトバンクホークスラーメン祭はじめ食イベント監修、NEXCO西日本グルメコンテストなど審査員も務めてきた。その活躍はイギリス・ガーディアン紙、ドイツのテレビZDFでも紹介

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